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とっても不穏な兎と亀。総集

むかし昔の話です。
とある山の麓に兎の家族が暮らしていました。
兎と奥さんと子供一人の3人家族です。
ある日のこと、兎はいつもの様に家族を家に残し、次の日の朝食を収穫しに山に登りました。
もう夕日が沈んでしまいそうな中、兎は必死で逃げていました。
兎の10メートル程後方に視える大きな眼光、鋭く尖った大きな牙。
なんでも飲み込んでしまいそうな大きな口。
そして、兎の家族の近くに潜む小さな影。
兎は恐怖に震えながらも、必死に山を駆け下りていきます。彼は自分自身の生命の危険と同時に、家族の無事も心配していました。
恐ろしくて、後ろを見ずに更に走るスピードをはやめましたが、いつもより家までの道のりが長く感じます。気の所為なのか、同じ道をずっと走り続けているような気がしました。
一方家族に迫っていた小さな影は今、兎の家族を訪ねていた。

ー兎の妻ー
家に訪ねてきた小さな亀。
この亀は、いま夫が危険に晒されているという。
そのあと亀は一言「着いてきて」とだけ言い、薄暗いトンネルの中に連れてこさされた。
すると急に意識が遠くなった。
しかし亀が放った「あとは兎だけ」は聞き逃さなかった。

ー兎ー
どれほどの時間走っているのだろう。
何回この景色を見たのだろう。
辺りは真っ暗になり、足の感覚はもう無い。
兎は息が切れ、もう限界に近づいていた。
自分がいつから走っていたのか、ここが何処なのかさえ分からなくなっている。
目眩を感じて、ついに膝をついた。
何者かに追われているかのような感覚はもうなかったが、兎はもう二度と自分の家に帰れないことを悟っていた。
目の前に大きなトンネルが見える。
先程までは無かったはずなのに、まるで最初から存在していたかのようにそこにあった。
一度そのトンネルに入れば、もう戻って来れないかもしれない。なんとなくそんな予感がしたのに、兎は真っ直ぐトンネルに向かって歩き出した。
兎はもう、自分が何処に帰ればいいのか分からなくなっていた。
トンネルに入り歩みを進めるたびに自分がどこから来たのか自分は 何をしていたのか、兎は解らなくなっていった。
しかし、兎は踵を返すことはなくトンネルの出口まで来ていた。
自分の命より大切だった二人の家族。
数年前、些細なことで絶縁状態になった元親友の亀のこと。
兎の大切だった記憶は殆ど無くなっていた。
覚えているのは自分が兎だという事と、先ほど仲良くなった亀のことだけ。
兎がトンネルを抜けると、どこか懐かしい様な草原が広がっていた。
兎の隣には、先程仲良くなった亀がいた。

亀が言いました「あの山の頂上まで競争しようよ」
「負けないぞ。僕はかけっこが一番得意なんだ」
同時にスタートした二人。
みるみるうちに兎の姿だけが見えなくなっています。
亀の口は、およそ亀の口とは思えない程不敵な笑みでした。


「とっても不穏な兎と亀。」の総集編です!。
次の投稿は8月7日(月)です。
新しいお題になるので楽しみにしておいてください。

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