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滕王閣序~宁移白首之心 不坠青云之志~林志炫TerryLin 2022.10.03ブログ 試訳

3月に入り、2021年の忙しさも過ぎた晩春とはいえ、私はまだ冬眠状態で、春雷に目を覚ますのを待っていました。

こんなときに王者栄耀からの強いオファーがあり、私もゲーム愛好者なのでもちろん人気ゲームを知らないはずがなく、冬眠から目覚めるに値するお誘いでした。

しかし、コラボレーションの提案を聞いたときは、ちょっと唖然としました。
王者栄耀はゲームでありながら、国楽の普及や文学の古典を広めるという遠大な志を持ち、古今対句の美文としてトップに掲げられる《秋日登洪府滕王閣餞別序》をポップミュージックに改編しようという、まさかの提案でした。
・《秋日登洪府滕王閣餞別序(秋の日、洪府の滕王閣に登り、餞別の一文に序する)》以下、滕王閣序(とうおうかくじょ)と略する。

李白の75字の「長相思」は歌ったことがあるし、李清照の33字の「如夢令」から着想を得た「知否知否」も歌ったが、「滕王閣序」は700字を越える長い駢文体(べんぶんたい)であり、どこから手をつけたらいいのだろうか?
・太字の資料は巻末添付

長年にわたり、多くのポップミュージックが唐詩や宋詞を歌おうとし、時代を超えた作品も多いけれど、その理由のひとつは、言葉が比較的歌いやすいこと、もうひとつは、詩が作られた時からテンポよくメロディに乗せやすいからです。
しかし駢文は四字また六文字を一句の基調として、故事を多く引用し、華やかな言葉で綴られ、現代の言葉遣いとはかなり離れています。言うまでもなくこれをポップメロディに乗せて心に染み入るように歌い上げるなんて、まったく無理難題です!

しかしながら、これは普通の駢文ではなく、千年来、最も有名な駢文である「滕王閣序」であり、この古典が楽曲化され、ポップミュージックを通じて多くの人が滕王閣序を吟じるようになれば素晴らしいことだと心が動きました。

でも、どうやって始めればいいんだろう?

初唐の、秋の午後に思いを馳せます。
6歳で詩を書くことができ、16歳で出仕し、初唐の四大家の誉を得たが、若気の至りでニ度の大きな挫折を味わった王勃は、(連座して?)交趾(現在のベトナム)に流された父を訪ねる途中、江西省南昌を通り、洪州総督顔閻伯が主催する滕王閣修復完成の宴に招待されて、即興で「滕王閣序」を書き上げました。 彼をあまり快く思っていなかった閻公も、「まさに天才、不朽の名文である」と驚嘆するばかりでした。

では、滕王閣序を千年の名立たる名文にしている所以を細かく見てみると、まずその情景描写が素晴らしいです。例えば、「潦水尽而寒潭清,烟光凝而暮山紫(秋の長雨でできた水溜りも乾き、寒々とした淵は清く澄み、夕靄に残る薄い光が冷たく凝り固まったように動かず、夕暮れの山は紫である)」という句で、王勃は「尽、清、凝、紫」の静的な四文字だけで、かえって私たちにうごめく山水を見せます。一番人気の「落霞与孤鹜齐飞,秋水共长天一色(西の空には低く落ちかかる夕焼け雲が、ただ一羽の水鳥とともに飛び、秋の水は果てなく遠い空とともにただ一色となっている)」で、「落霞」と「孤鹜」により動的描写を、「秋水」と「长天」により静的な光景を描くことで一対の動静ができ、高台から遥かに見渡す美しい景色が表わされ、このような優れた技法により中国の文壇に刻まれています。

しかし、滕王閣の序文は、「关山难越,谁悲失路之人,萍水相逢,尽是他乡之客(山越えは難しく、道に迷う者を誰が憐れむか、水中で出会う浮草と水のような心もとなさで、いずれも異邦人である)」と場面を用いて王勃みずからの心情を表現するなど、無数の文人たちにインスピレーションを与えるものでもありました。彼は20代の青年で挫折も多く死にそうになった事もありましたが、失意に沈みこまず、たとえ困難な人生であっても「所赖君子见机,达人知命,老当益壮,宁移白首之心?穷且益坚,不坠青云之志(君子に見いだされる機会を待ち、天の命ずる自分の役目を知って恐れず、老いてますます元気壮んでおり、白髪になろうとも願いを捨てず、貧乏をしているときこそ志を堅くして青雲の志を堕とさずにいよう)」と悟ったのです。なんと壮大な、なんと誇り高いことでしょう。

『滕王閣序』を読んで、「情景を書く」「心情を表す」「意志を表す」という三大要素を捉え、さらに「後世から彼の心情を追慕する」要素を加えて、編曲と、歌詞を構成することにしました。

次に、選曲、作詞、編曲を行いました。
曲は、結局、王者栄耀の企画チームと私で30曲くらいから選びました。このメロディラインを選んだのは、(駢文体にふさわしく)規範的で優雅に聴こえたからです。
一方、歌詞は15版ほど改訂され、その過程には“原文に比較的忠実だが、わかりにくく、解釈も難しい文語版”と“王勃の言葉の繊細さが失われ、比較的単純で意味はわかるが形が残らないという悔いを残しそうな現代語版”との間で葛藤がありました。悩んだ末、思い切って文語版を選ぶことにしました。『滕王閣序』の王勃の最も繊細な言葉を凝縮し、旋律や歌唱の調整のために少々変更を加えても、原文の精神をできる限り残したいと思いました。

アレンジに至り、古楽の専門家である田汨氏(Tián mì)に強い熱意で応援を頼みました。原文の構成に沿い、冒頭は古琴と簫を使って王勃の視点で静謐な優雅さを軽やかに描き出し、私も詞を吟じる発声法で歌い始めることにしました。
第二段に入ると詞は風景を借りて王勃の胸の内を述べるようになるため、オーケストレーションのアレンジではストリングやリズム楽器が徐々に追加され、彼の心に押し寄せる感情を引き出しました。コーラスの役割は曲の精神を表現することで、「冯唐易老,穷且益坚,一介书生,三尺命,白首心,青云志,不移(漢の馮唐は政治の舞台に用いられることなくたちまち老いたが、貧乏でもその志を堅くして屈せず、私も無位無冠の書生の身ながら青雲の志を揺るがせまい)」という曲の最も重要な精神性を伝えるために、力強い中国太鼓、管弦の速弾き、さらに力強い古琴で表現しています。
田さんにお願いして、「不移(揺るがない)」という二文字の最高潮ですべての楽器の音を止め、その後もボーカルは高く響き続けるようにしました。青雲の志を持つ人は困難に遭い挫折しても王勃のようにどんな人も進むべきです。王勃のリアルな人生は彼の文中にあるように運があまりにも悪かったし、不幸にも20代で突然亡くなったことを踏まえ、譜面にも不意に静止をかけ、静寂の中で王勃の作品の力で、彼の志が雲にむかって立ち上り1000年でも落ちることない、、、私はそれを表現しました。

これを歌いながら、私の心に浮かぶのは、1300年以上の歳月が流れ、漂う雲や池に映る影は昔のまま、物事は移り変わり、星はめぐり、幾度の秋を過ごしたような感覚です。
瞬く間の1000年!
おそらく「落霞与孤鹜齐飞,秋水共长天一色(低く落ちかかる夕焼け雲とともにただ一羽の水鳥が飛ぶ、秋の水は果てなく遠い空と一色に連なっている)」という美しい風景はまだそこにあるが、哲学者はすでに遠く、心にかたい決意があるばかり。
王勃の詞を私自身のためにも歌い、さらに人生の困難に遭遇しているあまたの人々を思います。道に迷ったとしても、恐れず、たとえ万里の山越えをしようとも雲の上にそびえる峰を越えずしてひきかえすものか、という決意が必要です。

<滕王閣序>

引用元: (唐)王勃「滕王閣序文」
プロデューサー:林志炫TerryLin
出演:林志炫TerryLin
アレンジャー:田汨
歌詞アレンジ:唐暄/夜小末
曲:邓强中/夏恒/帼航/武婧

水溜りも乾き、寒々とした池の水は澄み渡り、ゆったりとした風が川の辺に吹く

夕もやに残る薄い光が冷たく凝り固まったように動かず、山は紫に染まる
天にそびえる閣は底なしの深い淵の臨んで建つ

高みに登って遥かに見れば広々と雲は行き、湖も山も柵にもたれて楽しめる

夕方の光が霞のように辺りに充ち、鳥が一羽飛び立てば、
漁(いさりお)の舟から家路につくのんびりとした歌が聞こえてくる

そっとため息をつくのは誰だろうか 空は高く遠く 雁の一群は寒々しく響く声を聞かせる

険しい山道、浮草と水の心もとなさ、ことごとく見知らぬ人ばかり

帰り道 雲間に沈む夕日

低く落ちかかる夕焼け雲とともにただ一羽の水鳥が飛ぶ

秋の水は果てなく遠い空と一色につらなる

都から遠く離れた地で失意の人たちを敬い、盃を捧げる

道を前に決意を固める

たとえ何年かかろうとも青雲の志は墜ちない

万里を歩む日々

いつ帰るかは聞かないで

千年もまたたく間

人生は苦しく再起を願う身にはあまりにも短い、流れ去る雲や霞のようなもの

漢の馮唐(ふう・とう)は政治の舞台に用いられることなくたちまち老いたが、貧乏でもその志を堅くして屈せず、
私も無位無冠の書生の身ながら白髪となっても青雲の志を揺るがせまい

ああ、瞬く間の千年

夕霞のなか、水鳥が光とともに飛ぶ

秋の色を映した水は広々空と一つになっている

おそれず、追いかけよう

ああ、遥々たる道のり、何を恐れようか

どんなに年老いたとしてもこの志は堕ちない

万里の山を踏破し、雲の嶺を越えるまで決して帰らない

(補足)
駢文体=対句によって構成された中国文学特有の美文の一形式。詳しくは⇒
https://kotobank.jp/word/%E9%A7%A2%E6%96%87-131410

青雲の志=手柄を立て,立身出世しようと望む心。社会的に高い地位に就こうとする志など。

原文=林志炫TerryLinブログ
https://www.bilibili.com/read/cv18903843?spm_id_from=333.999.0.0

楽曲=滕王閣序 林志炫TerryLin
https://music.youtube.com/watch?v=3z6VMqKDOcc&feature=share

文中から
長相思 林志炫TerryLin
https://www.youtube.com/watch?v=LMOkUDy0UtM
 
同じく文中から
知否知否 林志炫TerryLin
https://www.youtube.com/watch?v=9kSQDggC-h8

参考資料:
①    古文真宝(後集) 星川清孝著 明治書院 新釈漢文大系16 昭和45年12版
②    王勃「滕王閣序」中の「勃三尺微命、一介書生」句の解釈について 道坂昭廣著 京都大学学術情報リポジトリKURENAI紅
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/171649/1/rek10_001.pdf

③    京大連続講座・中国学研究最前線2 国宝「王勃詩巻」続編の発見 朝日新聞社後援の連続講座「東京で学ぶ 京大の知」についての紹介記事
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jatokyo-officeeventdocuments062.pdf
④    古代文化研究所 ブログ 20140904~ 正倉院宝物:王勃詩序から王勃:滕王閣序・解8まで(アメブロ)
https://ameblo.jp/sisiza1949/entry-12519967152.html
⑤    滕王閣序の中国側の原文資料としては百度掲載のものを使用

*翻訳アプリDeepLを利用しています。アプリによって作成された翻訳文に加筆修正しました。

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