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王珮瑜 台上見(舞台でお目にかかりましょう) 試訳1

前書き)一封家書(家族への手紙)~京劇芸術を伝承する皆さんひとりひとりへ

京劇俳優・王珮瑜

こんにちは、手紙を介してあなたに対面しているように感じています。
顔を合わせたことはないけれど、私たちはよく知っている間柄のようです。私はあなたと同じ、京劇の伝承に努力している普通の役者で、まだ充分に成功していない平凡な人間です。
いつのことだったか、私も京劇になじみがなくまったく門外漢だったのですが、ひとたびこの道に足を踏み入れた途端、大げさではなく、生まれ変わった気分で、人生が新たな章を迎えたとわかりました。
それからというもの、跑圆场(既定の型に従い舞台の上で円を描いて歩く事。遠路を急ぐ仕種を表わす)压腿(股間~脚のストレッチ)拿顶(逆立ち、倒立)吊嗓(ボイストレーニング)などを繰り返す日々。26年という長い歳月が過ぎました。
他の人に比べて私は京劇界の幸運児だと思います。ひたすらこの道を歩んできて、その行程には数えきれないほど忘れがたい貴重な想い出があり、人生を温かなものにしてくれます。
演劇学校の入試当時をまだよく覚えています。いくつもの試験を順調に通過したにもかかわらず、最後の段階で私の名前がありませんでした。中華人民共和国成立後、プロの演劇学校では女性の「老生:善良な中高年の男性の役」を養成していなかったのです。そのため入学名簿から外れたのでした。まさに青天の霹靂、私は大変落胆しました。しかしそこで幸いなことに、多くの恩恵を与えてくれる何人かの先生に出会いました。恩師である王思及先生が学校の指導者たちに私を強く推薦し、苦労の末「特別入学」という結果を勝ち取ったのです。京劇への熱烈な思い入れを土台に私は自分の未来をそこに賭けました。以来、恩師はこの道の引率者であり、京劇人生の羅針盤であり保護者です。
その年、私は一つの学期で「文昭関*」を苦労して学びました。
*伍子胥の哀しみと憤りの歌が聴きどころの演目
文化広場で衣装を着けてのリハーサルがやってきました。夢にまで見た老生に扮した自分の姿、その英姿、颯爽たる姿。でも誰が予想できたでしょうか。その日、私は気がつきました。髭を蓄えた姿はいかにも素晴らしい、がしかし、その髭は学生が使いまわす為、積もり積もった悪臭を放つのです。セリフをうっかり忘れるほどでした。
恩師は意味深長に言いました。
「公用の髭を使いたくなければ、よく学び、よく稽古し、役者になって自分用の髭をつくりなさい」
私は、この言葉を20年以上心に留めています。
もちろん思い出は楽しいものばかりではありません。当時私はお小遣いをやり繰りしてこつこつ貯金していました。200块貯まったところで銀行に預ける(口座を作る?)準備をしていると、恩師がご自分の引き出しから300块を出して、まとめなさい、と渡されました。ただ、まとめなさい、とおっしゃられたが、私の初めての契約が円満になるように力添えしてくださったのです。手の裡にした500块の重さを、私は一生忘れてはいけないと思います。
恩師が付き添ってくださった16年を忘れてはなりません。
恩師が言葉で伝え心に授けてくれたこと、自分事として私を気遣ってくれたこと、今にも命が尽きようとしているときまで私に教えてくれたこと、すなわち、良い人たちに囲まれていなさい、自分の作品を持ちなさい、自分自身の教師にならなければいけない。この数年間、どんな時もこの臨終前の教えを常に心に留めて手を緩めることはありませんでした。
一人の役者が生まれる背後には前の世代の骨の折れる努力と期待が込められているだけでなく、また、幼いころから苦楽を共にして来た親しい友人たちの支えもあります。一番苦労したトレーニングは、背中合わせになった二人の足を結び、压腿(股間~脚のストレッチ)のエクササイズを行うことでした。もっとも辛いこれ、背中合わせで互いの脚を縛られていて、自分のちょっとした寛ぎ(痛みから逃れようと足を閉じようとする)が相手の苦痛を増すことになる。それはとても忍びないことでした。(知っているので誰も怠け心を起こさない。)こうした訓練の積み重ねは、弟子たちの間に切っても切れない情をもたらします。
京劇は役者の芸術であり、(集団的協力があって成立する)総合芸術です。骨折や腰の怪我があっても演技の重要性からギブスやテーピングをして舞台に立ち続けなければならない役者をたくさん見てきました。
私たちは常に「芝居は天よりも大きい」という信念をもっています。
死んでも舞台で死ね、天が落ちても芝居を歌い終えなければならない。
いつの日か、京劇が全盛期を取り戻し再び大衆に愛される日が来るでしょうか。その時が来たら私はどんな気分になるでしょうか。熱い涙を目にいっぱいためるかもしれないし、雲一つなく風もおだやかな日のようなさっぱりとした気分かもしれません。私たちが舞台にいる限り、重要なことは、自分の役割を果たし、良い芝居を完成させていくことです。
私はずっといます。あなたはいつ来ますか。

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書中さん
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*次回からは書籍の該当頁の画像は添付しません。
*この試訳はグーグル翻訳したものに加筆修正しました。

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