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YukkuRi劇団、公演ブログ試訳

金世佳監督:「吶喊」と「嘗試集」限りなく面白い出会い
YukkuRi劇団 2024.02.26 上海


YukkuRi劇団の「嘗試集」公演第一週の最後のステージが春の上海で小雪がちらつく中終わりました。肌寒さも相まって、広くはない舞台に響く声には厳粛さが添えられました。出演した俳優たちがカーテンコールに応えた後、金世佳監督は舞台中央に現れました。これは、第一週5ステージのなかで観客の前に現れた唯一の機会です。

「吶喊」について“嘗試”について、金世佳監督は「嘗試集」の舞台上でこう彼の答えを出しました。以下の内容は2024年2月25日、舞台劇「嘗試集」5回目の公演が終わった後、金世佳監督が彼自身の視点で語った内容を整理したものです。



2023年は魯迅の短編小説集吶喊が出版されて100周年でした。これをきっかけに私(金世佳)はまた吶喊を紐解ました。これより以前、私と魯迅のつながりは学生時代の教科書やテスト問題のなかにありました。この百年という歳月、時代の巨大な車輪が走った痕跡はあまりにも深く、吶喊(で書かれた)と同じ土地にあっても、すでに社会や生活は大きく変化しています。
読み直した始め、私は内心とても強い違和感、まったく知らないもののように感じました。ちょうどこの時、幸いにも北京魯迅博物館(北京新文化運動紀念館)と上海魯迅紀念館が共同開催した「吶喊」出版100周年特別展(2023.12.04~)を見学する機会を得ました。展示には、吶喊のさまざまな年代の出版物に加え、魯迅がこの連作小説の製作中に購入した書籍のリスト、友人たちと交わした手紙や自序の初版原稿もありました。


澎湃新闻20231204から転載、魯迅


“私は甘い夢を見ていた。卒業して国に帰ったら父と同様のあしらいを受けて苦しんでいる病人を救い、戦争のときには軍医になり、かたわら国民の維新への信念を高めようと考えていた。
その学年が終わる前に私は東京に戻っていた。あのことがあって以来、私は医学などは肝要ではない、と考えるようになった。愚弱な国民はたとい体格がよく、どんなに頑強であっても、せいぜいくだらぬ見せしめの材料とその見物人になるだけだ。病気をしたり、死んだりする人間がたとい多かろうと、そんなことは不幸とまではいえぬのだ。むしろわれわれの最初に果たすべき任務はかれらの精神を改造することだ。そして精神の改造に役立つものといえば、当時の私の考えではむろん文芸が第一だった。そこで文芸運動をおこす気になった”   「吶喊」魯迅自序                                                        (岩波文庫「阿Q正伝・狂人日記」他十二篇 吶喊 魯迅・作 竹内好・訳より訳文借用)



【もし魯迅が医学を諦めないまま文学を追求していたら】
(もし)医学を捨てずに文学を追求していたら、魯迅は勉強を終えて帰国した際どんな目に遭っただろうか?「人喰い」に夢中の狂人、息子の命を救うために「人血饅頭」を使おうとする夫婦、そして病気を治せない医者。

この一見荒唐無稽なアイデアから徐々に「嘗試集」の雛形が生まれてきました。短編小説集吶喊には魯迅が1918~1922年にかけて書いた14編の物語が収録されています。この14編の小説をひとつの舞台演劇にまとめたい、と思ったもののそれは本当に容易な事ではありませんでした。舞台劇「嘗試集」のセリフは九分通り吶喊の原文によるもので、舞台の表現形式は私が学生時代に観た小劇場から派生したものです。演技と語りが共存し、とてもシンプルな舞台美術と照明が配置されていて、俳優の演技とモノローグに重点が置かれます。そして南方の小さな町がつくりだされると、この村芝居はステージの外にあるさまざまな生活を描き出します。



【なぜ「嘗試集」なのか】
台本の構想中、吶喊の13編の小説が多かれ少なかれ登場するけれど、ただ一つ端午節という小説だけ、どう配置すればいいか決めかねました。(前出の岩波文庫版では「端午の節季」)
この小説の主人公である方玄綽(ファン・シワンチョ 前出による)は賢く保身につとめようとしている人物で、家では横になって胡適の「嘗試集」を読んでいます。私も彼に倣って「嘗試集」を探し読んでみると、思いもよらずこの芝居の本来の意図に見事に合致していました。



“古くから人は「成功した試みはない」と言ったが、これは真実ではないかもしれない。私はこう考えたいと思う。古来より成功する試みはある、と。しかし小さな試みで成功できるとは考えないでほしい。それはそれほど簡単ではない。1,100回も試した後、失敗だったと気づくこともある。それでも、それは問題ではない。この失敗は将来の世代に次のことを伝えるのに充分である。この路は通れません、無駄な労力を注ぎ込まないでください。”            胡適「嘗試集」



今日ステージに上がる前、私は二つの任務を携えてきました。ひとつはこの劇が何故「嘗試集」というタイトルなのか。もう一つは、どうして「嘗試集」をやらなければならないのか、です。これはある種「衝動型」をともなう創作ですが、しかしある視点からすると、創作は「衝動」から切り離すことができないものであります。


“お互いに疎遠にならず、思いやるのが一番良いが、最も公平な道は文学や芸術を通じてコミュニケーションすることです”                                     魯迅


#会場イベント
毎回開演45分前に会場にお越しのお客様のなかから10名様を「セリフの録音」にご招待いたします。この録音は劇中で使用し、参加されたお客様はご自身の声を聴くことができます。

以下省略。

原文はこちら→



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