アパートのような人生を送りたい。
今日は四年住んだアパートの退去日だった。
明日から僕は大学を出て、社会人として上京する。
引越し後の何もない部屋をみて、なぜか部屋が小さく感じた。
何もものがないとここまでスッキリするのに、よくあそこまでものや思い出を詰め込めたものだと思う。
不動産の若い女性が来て、部屋の損傷具合をチェックしてくださった。ひろ回りして、「綺麗に使ってくださって、ありがとうございました。」と言われた。
部屋は実際に綺麗だった。椅子のローラーでついた傷や画鋲、多少の白い壁にシミはついたが、問題になるほどではなかった。
手続きが終わり、部屋を出るまさにその時、私がいた痕跡は微塵もなかった。悲しいか?寂しいか?と言われると、意外とそうではなかった。心地よかった。
自分がどんな間違いをしても、どんなに汚したとしても、この部屋はクリーニングされ、自分のあとは残らず、次の人に友好的に活用される。新しい住人は私の名前も性別も好きな食べ物も知らないだろう。
その、何者にも迷惑をかけずに、何も残さない静かで綺麗な空間がとても好きだと思った。
私は死ぬのが怖いが、アパートのように何も残さずに消えるのも悪くないと思った。
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