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足寄町で出会った、トトロのふき


日本で一番大きな、トトロのふき

足を運んだ先に何があるのかは分からない。それでも、歩みを進めてみる。すると、幸運な偶然に出会うことがあります。

北海道の足寄町への旅は、私にとって、そんな幸運な偶然のひとつでした。旅の目的は、ラワンぶきという、大きなふきを生産しているご夫婦に会いにいくこと。私たちが、がごめ昆布につぐ、製品の新しい素材を探していた頃のことです。

多くの人は、いきなり「ふき」と聞いても、ピンと来ないかもしれません。でも、きっとご存知のはず。映画『となりのトトロ』で、トトロが傘の代わりにして持っているものあのが、ラワンぶきだからです。

あんなに大きなトトロが雨よけに使うほどの巨大なふき。そのサイズは、最大のもので、高さ3m、太さは10cm以上に育ちます。もちろん、日本で一番大きなふきです。びっくりすると思うので、ぜひ調べてみてください。

きっかけは、北海道庁の方からの紹介でした。ラワンぶきの生産者である鳥羽農場の鳥羽夫妻を紹介していただきました。

「化粧品会社の社長が来るので、ぜひお話ししてみてください」とご連絡してくださり、本社がある砂川から車で4時間。鳥羽秀男さんにご挨拶をしに伺いました。

初めて会った日は、ちょっと警戒されていたように思います。「何をされに来たのでしょうか?」と訝しげで、距離を取られていました。

その反応も、もっともだと思います。北海道庁の方の紹介だとはいえ、いきなり名前も知らない化粧品会社の社長が来て、「捨てられてしまう素材はありませんか」なんて言い出すんですから。

「ふきは化粧品になんてならないから、あげられるものはありません」

そう言われたことを覚えています。

ふきからあふれ出た、天然の化粧水

どうにか話を続けたところ、しぶしぶ収穫風景を見せてもらえることに。
最初から信頼してもらえないのは当然のこと。大きなふきをみながら、鳥羽さんの雰囲気を気にせずルンルン気分で話す私の姿を見て、少しずつ興味を持っていただけたように思います。

鳥羽さんからラワンぶきについてレクチャーを受けながら、実際に収穫するところを見せてもらいました。そして、言葉を失うくらい、びっくりする光景が目に前に広がりました。

鎌でスパッとふきを切った瞬間、ドバッと水分があふれ出たのです。まるで蛇口を捻ったかのようで、地面はふきから出た水分でびしょびしょに濡れました。

その光景を見て、ある衝動に駆られました。

「ふきからあふれ出た水分を、肌に付けてみたい」

こんなにも大きく育つふきなんだから、それには理由があるはず。もしかしたら、この天然の水分に、秘密の一端が隠されているんじゃないかと思ったのです。

「ふきから出た水分を、肌に付けてもいいですか?」

すぐ鳥羽さんに相談してみましたが、返事はありません。少し信頼してもらったとはいえ、隣にいるのはまだ得体の知れない化粧品会社の社長ですから。

半信半疑の鳥羽さんに納得してもらうべく、ふきをいくらか購入して持ち帰り、試作品をつくることにしました。

鳥羽さんには、「一週間だけ時間をください」とお願いして、会社までふきを送っていただきました。会社に戻り、試作品をつくってお見せすると、ついに「本気なんだね」とおっしゃってくれました。

がごめ昆布に次ぐ、素敵な素材との出会いでした。

葉茎(私たちが食べる部分)が茶色に変色したふきは、食用としては出荷できないため廃棄されてしまいます。味は一緒でも見た目が揃わないのが理由ですが、化粧品の原料としては問題なく使えます。

しかし、仕分けが現場の負担になってしまいます。そのため、SHIROに納品されているのは、食用として出荷できる緑のふきです。

SHIRO が原料として使っているのは、鳥羽農場が生産するラワンぶきの全体の 1 % にも満たないわずかな量で、特別に仕分けをしていただくわけにはいきません。

がごめ昆布と同様に、SHIROは捨てられる自然素材を有効活用したい想いがありますが、現場を知れば知るほど、簡単ではないことに気付かされました。

ほとんど「100%ジュース」

ラワンぶきは、足寄町の特産品です。ふきは日本全国で育ちますが、これほど大きく育つのは、ラワンぶきだけ。なぜこのふきだけが、こんなに大きく育つのでしょう。

まだまだ謎は多いのですが、足寄町の東部を流れる螺湾(らわん)川の上流から流出する、豊富な栄養分が関係しているようです。

螺湾川の河川水は、全国の一級河川と比較すると、ミネラル成分が何倍も高いのだといいます。豊富な栄養を吸収することで、一般的な山ぶきとは比較にならないほど巨大化しているといわれています。

一般的なふきとラワンぶきの違いは、単純なサイズだけではありません。ラワンぶきは、カルシウムやマグネシウムといったミネラルや食物繊維が豊富で、なおかつアクが少ないのです。

以前、一般的なふきでも試作したことがありますが、アクが多いからかベタベタになってしまい、製品にはなりませんでした。

ラワンぶきはその大きさだけでなく、何もかもが、一般的なふきとは違った。だから、化粧水やフェイスウォッシュ(洗顔料)として製品化することができたのです。

このラワンぶきを製品化するにあたり、こだわったのが「なるべくそのまま使うこと」。鎌で切った瞬間にあふれ出た、あの栄養たっぷりの水分を、お客様の肌にそのまま付けてほしかったからです。

実際、現在販売している「ラワンぶき化粧水」は、防腐剤を除けば“ラワンぶきジュース100%”です。ふきを細かく刻んで、濃厚なエキスを抽出するため冷凍し、解凍してジュースを絞り出しています。

一般的な化粧水はカタカナの成分名がたくさん書いてありますが、「ラワンぶき化粧水」の裏面には、「ふき液汁」と防腐剤以外の記載はありません。

本当は防腐剤すら使わず、飲める化粧水として販売したいくらいですが、品質保証の観点でそれはかなわず。でも、それくらい自然に近い状態でお届けすることを大切にしています。

姿を変えていく地球に、私たちができること

今年はまだご挨拶に行けていませんが、去年は農場に伺ってラワンぶきを見てきました。

実際に目にすると、やはりその大きさに圧倒されるのですが、鳥羽さんによると、昨年はそれまでの十数年とは、どうも様子が違うとのことでした。

いつもなら「大きく成長したよ」と連絡をいただくのですが、昨年はなかなか連絡が来なくて、少しだけ心配をしていました。

すると、やはり心配は的中していて、ラワンぶきが例年の半分程度の1.5メートルほどにしか育っていないとのことでした。

前年の春から夏にかけて雨天が続き、「中ふき」と呼ばれる、成長のために大切な部分が十分に育ちませんでした。

さらに、豪雨の影響で畑が水に浸かってしまいました。昨年も不安定な天候が続き、5月に0℃を下回る氷点下を記録し、6月は降雨量が少なく干ばつ状態でした。

そうした気候変動の影響をダイレクトに受けてしまったのか、成長が鈍化していたそうです。

鳥羽さんの説明を受け、確かに例年に比べると小さいラワンぶきを目の前にして、15年間も当たり前に見ていた光景が、もう見られなくなるかもしれないと不安になりました。ぜんぶ、私たち人間の責任です。

「まだまだ大丈夫だよ」と鳥羽さんは笑顔でおっしゃいましたが、先々の未来を考えると、ふきが採れなくなってしまう可能性もゼロではありません。手付かずの大地に自生している、生命力たっぷりの植物がなくなってしまうのは、とても悲しいことです。

これは私の考えですが、人間がつくるものよりも、自然が生み出すもののほうが、よっぽど素直で価値があると思っています。SHIROの製品は、時間をかけてそれを証明してきました。

素晴らしい製品をつくることはもちろんのこと、美しい地球を守ること、後世に豊かな社会を引き継ぐことも、私たちの使命です。むしろ、その前提がなければ、どれだけ短期的に効果のある製品を生み出したとしても、永続性がありません。

力強く自生しながらも、年々姿を変えていくラワンぶきは、私たちSHIROがどのような存在であるべきかを教えてくれたのでした。

鳥羽農場さんのご紹介ページ
季節になると鳥羽農場さんのラワンぶきが購入できます

(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)


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