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乗り気移り気

意味のことは、考えたくない。寝て、起きて、ご飯食べて、バス乗って。意味のために生きているんじゃない。意味よりも先導に立って、そいつに主導権を握らせてはならないと思う。生え揃わないローズマリーを掌で無造作に撫でる。徐ろに掌にパラダイスがノリウツギて、まるでアジサイがポップコーンの弾け飛ぶイメージに基づいていることも知らず、スーツを着た会社員や制服を着た学生たちは空気を共有し呼吸を盛んに行った。「間違いなく次は至誠学舎東京前」アナウンスが間違っていると思ったのは、普段に比べて間違っているからであって、今日が初めて正しい可能性は大いにあった。おじさんたちは、次第に靴が脱げた。
山形の山火事がどういう経緯で発生したのか調べても出てこず、この時期だから、誰かBBQの後始末を怠ったのではないかと思うとゆううつになった。Buta, Buta, Quma、脂が乗っていても。もう少し未来に生まれていても、同じこと思っただろうな。
会社に着くなり、人参のカムチャツカスープを作った。「今日はなんだかアレだね」水島さんが声をかけてきた。「ですねアレ」人参のカムチャツカスープを飲むにあたって重要なのは、器は陶器で、スプーンは金属のものを使うことだ。スープの味などどうでもよく、カチャカチャと音を立てるのが大事だから。「カムチャツカ、カムチャツカ」水島さんはカムチャツカスープが大好きだ。大好きゆえに、自分の口で音を表してしまうほどだ。「水島さん、お静かに願うよ」水島さんは、桜のてんぐす病みたいなポーズをとってみせた。途端に飴玉が割れはじめて、給湯室は拍手喝采で満たされた。

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