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【第1回】音楽が語る もう1つの『Extreme Hearts』

ヘッダー : TVアニメ『Extreme Hearts』OP映像より
©PROJECT ExH

1. FAQ

 Q. TVアニメ『Extreme Hearts』の作中楽曲について、ネタバレ全開で語ってもいい?

 A. いいよ!




2. 個性派アイドルアニメの秀作『Extreme Hearts』

 2022年夏。『リコリス・リコイル』や『メイドインアビス 烈日の黄金郷』などの話題作・人気作と同時期に、ひっそりと放送されていた挑戦的なアニメがありました。

 『Extreme Hearts』。

 この、お世辞にも知名度が高いとは言いにくく、Twitter(現X)の相互さんがオススメしていなければ見ることもなかったであろうアニメに心を奪われるなんて、当時の僕は夢にも思っていなかったのです。

第1弾ティザービジュアル
TVアニメ『Extreme Hearts』公式Xアカウントより
©PROJECT ExH

 舞台は2048年の日本。高校生でありながらプロのシンガーソングライターとして細々と活動する主人公・葉山陽和が、事務所からの契約終了通知を受け取るところから物語は始まります。歌手活動を諦めきれない陽和は、再起をかけて芸能人が参加するスポーツ大会「エクストリームハーツ」に挑戦することに。SSW陽和の数少ないファンである小鷹咲希、スポーツ未経験である陽和の特訓に付き合ってくれた前原純華という2人とチームRISEを結成し、後に追加メンバーとなる橘雪乃小日向理瀬らと共に、勝利チームに与えられるライブ出場や楽曲販売契約の権利を目指して奮闘していきます。
 原作・脚本を担当されたのは、『魔法少女リリカルなのは』シリーズや『DOG DAYS』シリーズで知られる都築真紀さん。アイドルとスポーツというメジャーなテーマを掛け合わせ、しかも1クールで描くという挑戦的な本作では、『DOG DAYS』シリーズで既に片鱗を見せていた「アイドル×スポーツ」要素が、さらに大胆に展開されています。あくまでもスポーツが主軸になっている同系統の先駆作『ウマ娘』シリーズや『プラオレ!』とは異なり、アイドルとスポーツの重要性が限りなく等しくなっているのが本作の特徴と言えるでしょう(章題に「アイドルアニメ」と書いたのは、主人公の活動基盤が音楽だからです)。

 さて、ここで当然「1クールでアイドルもスポーツも等しく描くなんて可能なのか?」という疑問が浮かんできます。そもそも、アイドルものの代表作『THE IDOLM@STER』シリーズや『ラブライブ!』シリーズを見ると2クール以上の作品が多いですし、スポーツものに至っては3, 4クール以上かけて描いているものも珍しくありません。そんな2つのテーマをどっちつかずにならないように描こうとするなら、とても正攻法では不可能でしょう。
 そこで本作が行った試みは、「アイドル描写の大半をライブシーンに丸投げ詰め込む」という大胆なものでした。つまり、パフォーマンスの向上や人間的な成長、「アイドル」という立場との向き合い方の変化といったアイドルものに欠かせない要素は、すべて作中楽曲から感じ取ってくださいという方針です。裏を返せば、そういった要素を感じ取れるような工夫が楽曲に施されているということになりますね。かなり思い切った試みですが、こうすることでスポーツの試合に割ける時間を増やし、ギリギリのラインで1クールアニメとして成立させることに成功しているのです。

 ようやく本題。
 本連載では、アニメ『Extreme Hearts』の作中楽曲におけるアイドル(音楽)描写について僕なりの解釈を提示したいと思っています。歌詞の考察は誰かがすでにやっていそうなので、主に作曲歌唱表現について考察していきます。もともとは作曲面と歌唱面をそれぞれ1つの記事にまとめるつもりだったのですが、長くなりすぎてしまったので細かく分けて連載という形にしました。
 ちなみに、僕は音楽の専門家でも何でもなく、ただの音楽好きな素人です。的外れな内容かもしれませんが、温かい目で見ていただければ幸いです。




3. 主題の活用・発展から読み解く葉山楽曲

 まずは、主人公である葉山陽和が書いた楽曲について深堀りしていきます。
 2024年4月時点で、陽和が作詞作曲に関わったとされる楽曲は計9曲存在します(『あなたの望み』は作曲のみ担当)。ちなみに挿入歌『明日へのBreakShoot』は、原作の都築さん曰く「作中世界に楽曲として存在してるわけじゃない曲」(CDアルバム『BEST 4U』ブックレットより)とのことなので除外しています。

 注目したいのは、特定のコード進行が多用されている点です。手癖というか、「葉山陽和といえばコレ」と言えるような特徴ですね。
 ただ、陽和は一般的な作曲家よりも多く、しかも分かりやすい形で多用している印象を受けます。陽和の未熟さを表しているとも受け取れますが、それよりも共通点を感じ取りやすくすることで、アニメ視聴者に「葉山陽和らしさ」を示す意味が大きいのではないかと思います。
 そこで本連載では、そういったコード進行を葉山楽曲全体を貫く「主題」として位置づけ、その活用と発展の変遷に焦点を当てていきます。「陽和らしさ」を表す主題について考察することで、アニメ本編では明確に言語化されなかった音楽面の背景や、それに付随する陽和の心の動きに迫っていこうと思います。

 考察にあたって葉山楽曲を4つのグループに分類しました。次回から、1つの記事につき1グループの楽曲について書いていく予定です。

  1. ソロシンガー期

    • 青空に逢えるよ

    • 名もなき花

  2. スタイル転換期

    • Rise up Dream

    • SUNRISE

  3. スタイル開拓期

    • 大好きだよって叫ぶんだ

    • Happy☆Shiny Stories

  4. スタイル確立期

    • 全力Challenger

    • Start Sign

    • あなたの望み



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