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水溜まりの世界

朝日を感じない朝を迎えた。
毎日飲んでるコーヒーも味気なく思う。

「憂鬱だ」

心の中でそっと呟く。
憂鬱が嫌いな訳ではない。
憂鬱を感じて、それを認識した途端に一気に嫌気が差す。
憂鬱は悪くないのだ。
そんな屁理屈を1人で捏ねていると、何となく先程より気分は落ち着いた気がした。

「雨か」

雨は何を流しているのだろう。
天使の涙とも言われてる。
こんに沢山流れてるって事は、きっと天使は巨人なのか。
はたまた天使という天使が泣き声の大合唱中なのか。

「今日も生きてた」

そう、今日も生きている。
これを当たり前と思うのか、特別と思うのか、人それぞれ違う。
私は日によって生きてて良かったと思うし、日によってはなんで生きてるんだろう?と思う。
そんな日々を、ただ繰り返している。


窓に視線をやると、流れ落ちてく水滴に目が奪われた。

「君達は何処から来て何処に行き、なんの使命をもっているのだろうか」

全てに命が存在するならば、この雨として降ってきた水滴にも命はあって、命あるモノには必ず使命があるとするなら、この雨はきっと"雨として降る"事が使命だったのではないか。

「どのくらいで産み出され、どのくらい生きれるのだろうか?時間の感覚は、それぞれの生き物で違うのだろうか?」

沼にハマりそうになったので、一度椅子から立ち上がる事にした。


キッチンに食器を置き、ふと横を見た。

「そういえば、レインブーツ買ったんだっけ」

雨の日は憂鬱になりやすいから、どうにかできないもんかと傘を買ってみた。
差すのが面倒くさくなった。
レインコートを買ってみた。
着るのが面倒くさくなった。
靴は必ず履くものだから、レインブーツを買ってみた。
雨の日の憂鬱をぶっ飛ばす!程ではないが、植物が色鮮やかに描かれたレインブーツ。
まるで土から植物が芽吹いていくような、そんなイメージができたので、買ってみた。

「まだ履いてなかったなぁ」

今日はいつもより動ける気がした。
雨も優しく降っている。

「よし、少し歩いてみるか」


買ったばかりのレインブーツを履いて、玄関のドアを開けた。
雨特有の匂いが鼻の中を運動会し、少しじめっとした空気は頬に張り付いてロッククライミングを始める。

「自然は自由だな。何にも縛られない。」

何処に行くわけでもなく、ただレインブーツを履いて歩く。
今日は"おニューのレインブーツを履いて歩く"ことが重要で、それ以外は興味が無い。

少しずつ重くなる髪の毛。
手の甲に当たる雨。
ズボンの色が少しずつ変化していく。

足元に目をやると、植物のレインブーツの下に、水溜まりがあった。

「水溜まりの世界は、ミラーリングしているのか。はたまた似たような景色が今見えるだけで、本当は全く違う世界が広がっているんではないか。」

知る事が出来ない。
行く事が出来ない。
誰も本当の答えを知らない。
ならばそこは無限の可能性しかない。


答えが無いものは、自分の価値観で答えを生み出し貼り付ける。
貼り付けるから、剥がす事も出来る。
コロコロ変える事は悪い事じゃないけど、繰り返されるとその場は段々と劣化していく。
だから

しっかり考えて
ぴったり貼って
じっくり考えて
ゆっくり貼り直して

自分だけのステッカーで埋めて生きたい。


濡れた髪の毛と、濡れた洋服。
ズボンとレインブーツの隙間に入って、布に染み込んだ雨。
おニューのレインブーツのつま先に付いた土。

今日も私は生きている。
明日もきっと、生きてるだろう。
少しずつ、自分を認識していく毎日。
水溜まりの世界。
それは誰も知らない無限の可能性。

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