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SHINeeと呼びたい


「東京ドーム!!!Are You Ready !?」


東京ドームの真ん中で、SHINeeが叫んだ。
まっすぐ高らかに、秘めていた感情をいっきに爆発させるような、大きな声だった。

日本でデビューしたときからずっと彼らの夢だった東京ドーム公演の初日、あの鮮烈な「Everybody」の幕開けを思い出すと、いまでも胸が熱くなる。
たましいのすべてを注ぎこんだみたいに切実で、5人のきらめきとよろこびが全身からほとばしって見える、奇跡のようなステージだった。力強くのびる歌声に、全力で躍動するからだに、彼らの決意と覚悟が満ち満ちていた。
あのとき、あの瞬間、わたしもありったけの力を込めて彼らの名前を呼んだ。広いドームのステージに立つ5人に届くように大きな声で、絶え間なく。かすれて出なくなるまで声をかけ続けたのは、あの日がはじめてだった。

会場を出ても、ずっと覚めない夢のなかにいるみたいだった。走ればこぼれ落ちてしまいそうで、思い出をだいじに抱えるようにゆっくり歩いた道すがら、夜風にやわらかく背中をなでられるたび、笑顔になったドームからの帰り道をいまもときどき思い出す。

SHINeeが日本デビューをして、今年で10周年をむかえる。彼らのかけぬけた10年をふりかえるとき、わたしがいちばんに思い出すのは、やっぱりはじめての東京ドーム公演、その初日のことだ。
SHINeeがSHINeeであることをその後も象徴する、後にも先にもない特別なステージ。もしもSHINeeという物語があるのなら、その表紙はきっとこの日のまぶしい5人だ。


2015年3月14日、『SHINee WORLD 2014~I'm Your Boy~ Special Edition in TOKYO DOME』記念すべき初日。
この日、広い東京ドームの客席がほんとうにSHINeeのファンでいっぱいになるのか、まだどこか信じられずにいたわたしの目に飛び込んできたのは、天井まできれいに人で埋まった、夢のような光景だった。
ああ、彼らと一緒にとうとうここまでたどり着いたのか、としみじみこみあげる思いをかみしめるように、ゆっくりと席についた。5人のたゆまぬ努力が、いまここで報われようとしている。抑えても抑えても、胸は高鳴る一方だった。

照明が落ち、ペンライトがいっせいに点灯したときの幻想的な風景を、いまもありありと覚えている。ドームいっぱいにSHINeeカラーに輝く、幾万もの星、星、星。ペンライトが点灯した瞬間、会場全体からうねりのようなどよめきが起こった。そこにいるだれもがみんなこの景色を待っていたのだと、ことばにせずともわかりあえた瞬間だった。
このあかりひとつひとつが、SHINeeを思う愛だ。もしも愛にかたちがあって目に見えるとしたら、きっとこんな景色だろうとわたしは思った。会場のペンライトが揺れるたび、パールアクアグリーンの大海原にゆらゆら浮かんでいるみたいだった。あるいは、宇宙にただよう銀河の一部になったみたいに。

5人がステージに登場した瞬間、真っ先にキーくんの赤い頭が目に入ってきた。キーくんがこの日にあわせて染めた真っ赤な髪は、SHINeeカラーの空間に映えてとてもきれいだった。ドーム公演にかける彼の情熱がそのままあらわれたような、赤色。ファンをよろこばせることが大好きなキーくんの、キーくんらしいサプライズだった。
ダンサーたちにかつがれて悠々と登場するソロ、「Born To Shine」のステージでもそのあざやかな髪色が、彼のクリエイティブな世界をより際立たせていた。どんな奇抜なファッションも、音楽も、キーくんを前にしたら瞬く間に彼のものだ。

“唯一無二”ということばはキーくんのためにある。そして、そんなキーくんのだれより特別なのにその特別さを見せびらかしたり、鼻にかけたりしないところや、どんなにキャリアを積んでも、「SHINeeはこのままでいい、このままの自分たちでいこう」とまっすぐ言える強さを、わたしはなにより信頼している。時代に固執せず、柔軟に自己表現できるピュアなアーティスト。
キーくんはまさにSHINeeの背骨だ。このときも、いまも、わたしはずっとそう思っている。

ミノのソロ、「ケラケラじゃんけん」は衝撃のステージだった。荘厳な音楽を背に、王子様のようなマント姿でバレリーナとペアダンスを披露したかと思えば、すぐさま笑いたっぷりのポップな舞台へと様変わりした。
元気いっぱいステージをかけまわるミノを見ていると、ただでさえしあわせなきもちが、もっともっとしあわせになる。ステージの真ん中ではじける無邪気なミノの笑顔は、それひとつで太陽みたいに明るい。

ミノはしあわせの天才だ。あんなに素敵でかっこいいのに、そのうつくしさをまるでなんとも思っていないみたいに、ステージではいつも軽やかにふるまっている。
ほんとうはだれよりクールにかっこよく見せることができるのに、あんなにコミカルなパフォーマンスを5万人の前で全力で披露して、会場をあっという間に和ませてしまった。それも一生にたった一度きりの、はじめての東京ドーム、そのソロステージで。
そのときのことをミノは、「5人が皆かっこよかったら面白くないだろうと思った」と話していたけれど、わたしはミノのそういうところがとても好きだ。
鳥のように軽やかに空を飛びながら、その目はしっかり世界を俯瞰している。SHINeeの元気玉、SHINeeの帰るべきホーム。ミノがSHINeeにいてほんとうによかった。

予測もつかない5人のステージが、息つく暇もなく繰り出されていく。初日の公演、だれも知らないセットリスト。彼らが一曲一曲を披露するごとに会場はかつてないほど湧き立った。
色とりどりの万華鏡のようなソロステージで一段と反応が大きかったのは、オニュのソロ、「レイニー ブルー」が披露されたときだったと思う。

テミンの奏でるピアノにあわせ、オニュが歌いはじめた瞬間、会場は地鳴りのような熱い歓声に包まれた。繊細で力強く、どこまでも澄みきった、清らかな声。
いまこの瞬間、世界でこれよりうつくしい場所はない、と信じたくなるほど神聖だった。ときおり口ずさみながらピアノを弾くテミンの横顔がスポットライトのひかりに儚く透けるたび、こころが浄化されていく。
この曲こんなにいい歌だったかな、 とオニュの声で再現される歌詞の世界にひたひたと感動しているうち、ステージはあっという間に終わってしまった。

わたしはいまでもときどき考える。このときの神々しいまでに無垢だったオニュのステージについて。そして、最後に彼が流した、一筋の涙について。
オニュの歌がなぜこんなにもわたしたちの胸にせまってくるのか、その理由を考えずにはいられない。

オニュの世界はいつも音楽の数だけある。絵を描くように、本を読むように、一曲一曲その音楽のもつ色合いを、オニュは歌いながらわたしたちにそっと教えてくれる。音楽を自分の世界に染めるのではなく、自分が音楽の世界に染まる、ということ。自分のためではない、ほかのだれかのために歌う、ということ。
オニュの歌声を通して見える世界がわたしは大好きだ。「レイニー ブルー」もこの日以来、わたしにとって大好きな一曲になった。

最初から最後まで、この日の5人の勢いはすごかった。
ステージに注がれるSHINeeの意気込みが、ひりひりするような緊張感とひとつになって、会場を巨大なエネルギーの渦にひきこんでいく。
なかでもテミンはひときわ没頭しているみたいだった。はじめからまるでなにかに取り憑かれているような気迫で、激しく猛然と踊っていた。そんなテミンが舞台の上で急に動けなくなったのは、新曲「Your Number」のステージでのことだった。

歌い出しからすでにテミンの様子はおかしかった。音楽が鳴ると同時にステージでうずくまるしぐさを見せると、立ち上がってすぐ、左足をかばいながら踊りはじめた。ざわつく会場に、心配そうなメンバーたち。
それでも、テミンは曲の最後まで懸命に踊りきった。痛む足をひきずり、ほとんど気力だけで踊っているように見えるその姿から、彼のステージにかける思いがひしひしと伝わってくる。
記念すべき初のドーム公演でメンバーが負傷するハプニングを、いったいだれが予測できただろう。あの瞬間わたしにできたのは、ただテミンの無事を祈ることだけだった。

つぎのステージにテミンの姿はなかった。急きょ4人で披露された「Breaking News」、空白になったテミンのパートを会場のみんなで歌った。きっと、彼らしくこの日にむけてストイックな練習を続けてきたのだろう。「あまりの緊張にステージでコンディションの調節が出来ず、気持ちだけが先走った」と、公演後に悔しそうに語っていたのが忘れられない。
だれよりも真剣に全身全霊でステージと向き合ってきたテミンだ。デビューからずっと憧れていた、夢の舞台を途中で降りなければならない彼の悔しさを思うと、胸が痛かった。
その後「Juliette」でステージに戻ってきたテミンを見て、どれだけほっとしたかわからない。どうか無事に最後まで走りきってほしい。いつかこの日をふりかえるとき、彼の胸に後悔が残らないように。
神様に祈るような気持ちで見つめ続けたテミンの姿は、いつまでもわたしの、痛くて切ない東京ドームの思い出だ。

たくさんのできごとがジェットコースターのようにめまぐるしく迫ってくる。目に映るすべてがあまりにドラマチックで、ずっとリアルな夢を見ているような気分だった。
ふしぎなのはこの日、わたしのいる二階の座席からも、はるか遠くのステージにいるはずのSHINeeがずっと近くに見えていたことだ。
あれだけ広いと思っていた東京ドームのステージが、ちっとも広く感じない。いつもよりずっとSHINeeは大きくまぶしくて、まるで自分が天井席にいることなどすっかり忘れてしまうくらい、ステージのどこにいても5人の姿はよく見えた。

実際にわたしがいちばん近くで彼らを見たのは、「Colors Of The Season」のステージだった。5人をのせたセンターステージが二階席のすぐ下までゆっくりとせりあがってくる。ステージが上がりきったとき、ちょうどわたしの前に来たのはジョンヒョンだった。このとき、彼はしずかにほほえみながら泣いていた。ペンライトのひかりで波打つ、二階の客席をとても愛おしそうに見つめながら。

この日の穏やかなジョンヒョンのほほえみを思い出すと、いまでも胸がしめつけられるようにぎゅっとなる。彼がなにを感じて、なにを思っていたのか、いまとなっては想像することもできないけれど、わたしは信じたい。どんなに手を伸ばしてもつかめない不確かな時間のなかにも、たしかなものがちゃんとある、ということ。あの日、ステージでジョンヒョンがいのちをきらめかせていたこと、彼の目にうつるきれいなSHINeeカラーの星のひとつにわたしがいたこと、そのたしかな一瞬を。

最後の「LOVE」のステージで、もういちどSHINeeカラーに染まるペンライトの海を見たい、と言ったのもジョンヒョンだった。
照明が消され、ペンライトのあかりだけになった会場を一心に眺めていた彼の目がとてもきれいだったこと、なんども顔をぬぐいながら「この日を忘れない」と言っていたジョンヒョンの、ステージでこぼしたいくつもの涙を思い出す。彼はよく笑い、よく泣くひとだった。

ステージの最後に準備されていたサプライズは、客席ひとりずつ色紙を掲げて作る、SHINeeへのメッセージだった。

『THANK U SHINee』

曲の終わり、客席いっぱいに広がるこの文字を見たときはほんとうに胸がいっぱいだった。どんなメッセージを作るのか、その瞬間までわたしたちファンにも知らされていなかったからだ。
メッセージに気づいた5人の表情がみるみる涙で崩れていく。あふれる感情を隠すことなく、彼らはステージの上で泣きじゃくっていた。いつもは涙を見せないテミンでさえ、いまにもこぼれそう落ちそうなほど目に涙をいっぱいためていた。SHINeeがあんなふうにステージで感情的に泣くのを見たのは、はじめてだった。

「SHINee!SHINee!」

考える間もなく声が出ていた。必死に、泣きながら、わたしは彼らの名前を呼び続けた。SHINeeに、ただSHINeeでいてくれてありがとう、と伝えたかった。SHINeeになってくれて、こんな素敵な景色を見せてくれて、ありがとう。ほかにはなにも思いつかなかった。

このとき、わたしの前も横も、後ろも、見渡すかぎり客席みんなが泣いていた。うそみたいだけど、ほんとうに、みんな泣いていたのだ。そして、みんな、泣きながら彼らの名前を呼んでいた。
コンサートでこんなに泣いたのははじめてだった。人はこんなふうにしあわせの真っただ中でも大泣きすることがあるのか、といっこうに乾かない自分の頬にふれては、おどろくほどだった。

会場が鳴り響くSHINeeコールに包まれているあいだ、しばし5人は肩を組み、あたまをくっつけ、ひとかたまりになったまま動かなかった。
ほんの一瞬だけオニュがあたまを上げて、メンバーになにかを伝えたとき以外は。
あのとき、5人のあいだでどんなことばが交わされていたのか、いまもわからない。だけど、その答えをわたしは一生知らないままでいたいと思った。
彼らの重ねてきた苦労や手にしたよろこびは、まぎれもなく彼らだけのものだ。SHINeeがSHINeeのためだけに流した涙を、つかんだしあわせを、だれにも邪魔されることなく大切にしてほしいと思った。

このときの感情を6年たったいまでもわたしは上手にことばにすることができない。ただ、彼らがそこにいてくれること、ステージで歌って、踊って、笑ってくれること。海を越えて会いに来てくれること。たくさん愛を分けて、しあわせにしてくれること。そのすべてがありがたくて、尊かった。
この日SHINeeといっしょに歌った「LOVE」を、きっとわたしは一生忘れられない。

こうして4時間にもおよぶ長い長い、SHNeeはじめての東京ドーム公演、その歴史的な初日が終わった。

SHINeeのSHINeeらしさが全部つまった公演だった。
ステージで生き生きと輝く5人の情熱が、まっすぐな愛が、世界をまぶしく照らす。彼らからあふれるひかりは希望そのものだ。
SHINeeというグループがどう特別なのか、この公演がすべてを物語っている。これがSHINeeだ、これが僕らの真価なのだ、と彼らの残した爪跡が雄弁に語りかけてくるみたいに。

この日SHINeeが見せてくれたステージは、いままでわたしが見てきたどの公演よりも素敵だった。こんなにうつくしい瞬間には、きっともう出会えない。たとえ生きていく記憶のすべてを残しておけなかったとしても、いま自分の目の前にいる5人のことだけは、なにひとつ忘れたくないと思った。


伝説に残る東京ドーム公演を終えたたあとも、SHINeeは止まることなく走り続けていた。
2016年、彼らは『D×D×D』ツアーでふたたび全国各地のアリーナを回ると、初開催の京セラドームをふくむ二か所のドームでスペシャル公演を行った。
その翌年の2017年には、SHINee5度目の全国ツアー、『FIVE』を開催。彼らの日本デビュー5年目の節目となる、集大成のツアーだった。5人が地道に続けてきた日本公演はこの年、通算100回目をむかえた。

『FIVE』ツアーのクライマックスは、SHINeeの聖地、代々木第一体育館だった。
オーラス前日の開演前、雨上がりの東京の空に大きな虹がかかったのをいまもよく覚えている。まるでSHINeeがしあわせを運んできてくれたみたいで、思わず足を止めて空を見上げたあの日。胸を高鳴らせて渡った、会場へと続く歩道橋の上で、わたしの頰をなでていった春風の感触を昨日のことのように思い出す。


4月の終わり、この代々木第一体育館で行われた『FIVE』ツアーの最終公演が、SHINee5人のそろった、日本で最後のSHINeeWORLDになった。

いまでも、そのことがどうしようもなく悲しくて、苦しくて、わたしの胸をなんども切なくさせるけれど、それでもやっぱり忘れたくない。
ステージでまばゆくきらめいていた5人のこと、その瞬間たしかにしあわせだった、自分のことを。


SHINeeを好きになって、10年の月日が過ぎた。
「10年続けられたら、ほんもの」と、小さい頃そうだれかに教わったことをぼんやりと思い出す。子供心にずいぶん長いなあと思ったものだけど、過ぎてみればあっという間だった。
ほんもの、とは何なのか、大人になったいまでもわたしにはよくわからない。でも、この10年間、SHINeeを見つめた時間や重ねた思い出に、彼らを好きな気持ちや彼らから受け取った気持ちに、うそはないと確かに感じるのなら、たぶんこれをほんもの、とよぶのだと思う。

SHINeeの歩いてきた10年は、そのままわたしの歩いてきた10年だ。
日本デビューから毎回欠かさず足を運んだツアーも、飽きることなく聴いたアルバムも、ぜんぶが愛おしくて忘れられない。
彼らといっしょに泣いて、笑って、越えてきた、かけがえのない瞬間ひとつひとつを、どんなときも一生懸命で、だれより真剣だった5人の10年間を、これからもずっとわたしは大切に覚えていたい。

「20周年、ぜひ一緒に過ごしましょう」

そう笑って話すテミンのことばを胸に、わたしはまた新しい10年を歩きはじめる。そして、なんどでも大好きな彼らの名前を呼び続ける。
これまでもこれからも、“ひかりを受けて輝くひと” SHINeeの、そのひかりでありつづけるために。


ありがとう。これからもよろしくね。


その名前を呼ぶだけで誇らしい、わたしたちの愛すべきSHINeeへ。


SW2017ペンライト



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