金はいらねぇから同情してくれ

仕事を飛んだのは2020年6月2日早朝。入社前の2月上旬からアルバイトで入り、4月に入社してから僅か4ヶ月足らず。
あれから4年も経つが今でもタイムスケジュールを空で話すことができるくらい、あの頃の忙しさを鮮明に覚えている。


5月某日
【木曜日】寝てない
お昼ごろ出社。明日はコロナ禍になって初めての収録。会社でのリモート収録に向けて会議やら準備等を行い、寝ずに翌日の収録を迎える。

【金曜日】寝てない
収録当日。20時頃に収録が終わる。オンエアが来週末で、納品が1週間後の金曜日、編集箱が日曜からあるためそのまま寝ずにMacでデジタイズ→段積み。Zoomでのリモート収録のため、画面収録動画の段積みだけでなく、パラ音を6人分合わせる必要がある。会社のWi-Fi+出演者の自宅Wi-Fiのため画面途切れが複数発生しており、そのたびにパラの音と画面を合わせなければならず、神経をすり減らしながら寝ずに朝まで作業。

【土曜日】
ディレクターに渡すHDDをなんとか完成させ、約束の10時にディレクターの最寄り駅まで渡しに行く。昼頃帰宅しあまりの眠さに寝落ち。20時頃に目が覚めるとディレクターと先輩ADからLINEがきていた。その対応をして久しぶりに夜ちゃんと寝る。

【日曜日】
編集1日目。10時から箱だが、まだ入社2ヶ月目(バイト含めたら4ヶ月目)のため会社からMacが支給されておらず、番組用の共用PCを使用しなければいけないため、9時過ぎに会社に出社し、Macをピックアップしてから箱へと向かう。
複数の画面を同時に流す+クロマキー合成+リモート収録という新しいフォーマットのため作り込みが多い、という様々な要因が重なり編集作業が思うように進まない。この日は10時-20時の予定時間が少しこぼれて22時頃に終了。会社に戻り諸々の作業を終えて24時過ぎ、終電の一本前で帰宅。

【月曜日】
本来月曜日は編集休みだが進捗が悪いため10時-20時で追加箱。前日同様に9時過ぎに出社。これでもあまり進捗はよくない。ただこの日は22時頃には会社を出て帰宅。

【火曜日】寝てない
火曜日は10時-30時での箱の日。本来はこの日で編集を全て終わらせて木曜日にMAとMIX、金曜日に直しと納品になる。
朝箱に到着すると演出のディレクターから直しのメールが届く。尺調ありでほぼ作り直しの冒頭1分強のみ。この日は断続的に送られてくる尺調ありの直しをその都度起こしながらエディターに渡して30時(朝6時)を迎える。演出から最後に尺の出たプロジェクトが送られてきたのは朝の4時。当然編集が終わるはずもなく水曜日の追加箱も確定。

【水曜日】寝てない
追加箱は10時-20時。朝方の30時終わりもこぼれて32時前に次のエディターへ引き継ぎ。自分は尺調により発生した追加の映像を過去素材から引っ張ってくるために一度帰社。抜き出し終わりで箱に戻りそのまま作業。
この日も少しこぼれて21時過ぎに終わり、22時に帰社。会社のテレビで水曜日のダウンタウンがやっていたのを覚えている。
編集はまだ終わらない。追加箱の影響でエディターが変わり、普段その番組を担当していない人に変わったことで作業速度が悪くなったため。翌日の追加箱も当然確定。朝からの箱でしっかり修正を行うためにフレーム単位で現状の上りと尺出しのプロジェクトを見比べ、現時点の上り動画をメールで送ってもAPは見てくれないため校閲も自分で行いながら、一睡もせずに夜が明ける。(本当は深夜3時くらいに約1時間、記憶のない時間=寝落ちの時間あり)

【木曜日】寝てない
寝ずに10時から追加箱。15時からはMAもあり、ミキサーに音データを渡す。数十分後、ミキサーから「リモート収録の1名のパラ音が乗ってない」と告げられる。段積みしたプロジェクトを確認すると確かに抜けいていた。初心者ながらに必死にどうにかする方法を考え、急いで段積みのプロジェクトにそのパラ音を追加+尺出しのプロジェクトのカットごとに該当の音を貼り付け、試行錯誤から含めて3時間くらいかけて何とかやりきる。
22時頃からMIXが始まり、終わったのが26時前。帰社のタクシー車内でナイナイ岡村さんのオールナイトに矢部さんが登場したのを聴く。会社では明日の納品に支障が出ないようにMIXで出た直しを含めて全ての直しを書き出し+前日同様ミスがないかフレーム単位でプロジェクトと見比べ、一睡もせずに夜が明ける。(本当は深夜4時くらいに約2時間、記憶のない時間=寝落ちの時間あり)

【金曜日】
納品当日。16時までに局に出しに行く必要がある。朝方始発が動き出したら一度家に帰りシャワーを浴びる。そのまま出社し直しの箱へ。
クロマキー合成+複数画面を同時に走らせているため、レンダリングや書き出しに時間がかなりかかる。ただその当時の自分はそんな用語も普通の所要時間も何もわからないので、エディターに「これ納品間に合いますかね?」と聞くと「大丈夫」と言われる。
14:00、14:30、15:00
再度「間に合いますか?」と聞くと、『大丈夫ですよ』と”大丈夫だからいちいちうるさいな”という少し変わった口調で言われる。
15:30
「大丈夫ですか?」『大丈夫です』
15:40
「あと何分で終わりますか?」『あと20分はかかります』
この時点で間に合わないことを知る。急いでAPにLINEで電話をするも出てもらえず、メッセージを送ると一言「げ」のみ。先輩ADから「大丈夫?」と電話が来るも大丈夫ではない。結局17時過ぎに箱を出る。感情がおかしくなったのか、部屋を出るときは「すみません。すみません。すみません。」と、「お疲れ様です」という言葉すら口に出せないほど。
局に行って納品を済ませ、APと局Pに謝罪の連絡を入れる。いずれも既読無視。自分の無力さに絶望し、東京タワーの下で無気力になり涙を流す。
会社に戻ると先輩ADから、明日リモート収録を行うことを告げられ、それとは別で特番のリサーチ業務(ロケ場所探し)を振られる。ロケ場所を探したことが無かったため、その場で1時間ほど資料を作って方向性を確認してもらい、21時頃帰宅。夜ご飯を食べると即寝落ち。

【土曜日】寝てない
ふと目が覚めると時計は11時を指していた。昨日先輩から「13時から収録するから12時には来て」と言われていたことを思い出し、急いで家を出て会社へ。本収録に向けた準備みたいなリモート収録を行い、その収録を受けて発生した仕事を朝まで行う。

【日曜日】
10時前に仕事が終わり、先輩から「休めるときに休みな」と言われて帰宅。シャワーを浴び、これからご飯を食べて寝ようというタイミングで電話が鳴る。相手は会社の他番組の上司(面識なし)で、内容は「今日、会社の役員と面談なのにどこいるの?」といった内容。役員との面談なんて初耳で全く分からず、数分後事務の方から電話があり「4月より前に入社した人を会社のメールリストに入れてなかったから連絡が漏れてた。今日面談があるから今から会社行ける?」とのこと。

「行けない」なんて言えるわけもなくそのままとんぼ返りで会社に戻り、面談をして14時頃に帰宅。食欲よりも睡眠欲が上回って何も食べずに寝る。目が覚めると17時。LINEには先輩から明後日の収録に向けた買い出しリストが届いている。コロナの緊急事態宣言真っ只中でお店は18時にほぼ閉まるため、急いで家を出て物を探す。ただ時間がほとんどなく全然買い出しができずに帰宅。翌日効率よく買い出しをするためネットで品物に目星を付ける作業を行う。
オンエアを見てエゴサをすると評判がよく、ここまでの疲れが少し癒される。

【月曜日】寝てない
昨日のオンエアに関して残っていた作業を行うため9時前に出社。

明日の収録に向けて10時から会議を行うが、そこで演出から大幅な内容修正が言い渡される。正直土曜日の収録後に行った演出抜きの会議ではディレクターの案が個人的には??すぎて「大丈夫かこれ?」と思いながら作業していたが、その懸念部分は全カットになった。土曜日寝ずに行った作業が全て水の泡。昨日の買い出しも全て無駄、追加の買い出しも行わなくていいことに。
急いで新しい内容に合わせた準備や作業を行い、そのまま朝を迎える。


【火曜日】
リモート収録当日。収録は押しに押しまくって、2ブロックほどくだりをカットしたのに予定より2時間以上回して、20時前に終了。収録終わり、同期に会社で久しぶりに会う。(入社前の顔合わせを含めて会うのは通算3回目、会社で会うのは初めて)
その週のオンエアに必要な5分ほどのカットのみをMacでデジタイズし、なんとか24時までに終わらせる。その他全部のデジタイズはTOCへ。TOCに寄ったことで終電を逃し、新宿までしか電車で行くことができずに東中野までは歩いて帰る。
そういえばこの日発注した弁当、評判悪かったな。今思えばもっと複数種類用意すればよかったのに、なんで2種類なんかにしちゃったんだろう。

【水曜日】
とりあえず今すぐにやらないといけない仕事は無く、デジタイズも明日にならないと終わらないので家で存分に寝る。いつ仕事を振られるかビクビクしながらではあるが久々の休み。

【木曜日】寝てない
15時ごろ、デジタイズが終わった連絡を受けてTOC経由で出社。今回の段積みは前回の比ではないレベル。パラのZoom収録画面数もパラ音の人数も4倍以上。しかも画面が立ち替わり入れ替わりでオンオフされるため、そのたびに音も画も合わせないといけない骨の折れる作業。
この日は20時-30時で特番の編集に立ち会う。複数の箱で編集をしており、各部屋に立ち会いのADがいないといけないため招集されたものなので、立ち会いながら基本的には上記の地獄の段積みを行い続けて朝を迎える。

【金曜日】
朝方。結局、特番のADから作業をお願いされて特番の編集サポートも行うことに。その後定例会議に出て昼過ぎに一旦帰宅。



このあたりでは何とか耐えていたが、このスケジュールに追加で特番のAD業務が4企画分降ってきて、完全に自分の手には負いきれず周りに迷惑をかけるだけだと思い仕事を飛んだ。おそらくいくらその仕事が好きでも耐えられる自分の限界値がここなんだと思う。
体力的な部分に加えて、「自分が面白いと思っている演出の無茶ならどうにか実現させたい」「自分が面白いと思っている番組だから自分の力不足でつまらなくはしたくない」というのがあったから、精神的にも勝手に追い込まれながら仕事をしていたのがきつかった。

少しでもテレビ業界の甘い記憶が蘇ったら、これを思い出すようにしている。いろんな感情が錯綜してメンタルが落ち込むから、それどころじゃなくなる。

4年も経ったんだからいいよね。同情してもらいたくてこんなnote書いても。

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