もて
太宰治「正義と微笑」を読み終えた。思春期の主人公が事あるごとに、自分の偏見や有言不実行といった人間らしさに苦悩しつつも、最終的に明るい未来を手にしていくのは意外だった。平坦な表現の端々にときどき上品な言葉が垣間見えて、日常的な美しさを感じた。
「正義」という言葉は、挫折をまだ知らない芹川進の理想像であった。しかし彼はそれを捨て切って楽になろうとはしないだろう。自分の人間らしさと理想との両方を見つめるという試行錯誤が、これからの彼に始まっていくのかもしれない。
曇りの日は、自然が自分にそっぽを向いているような気がする。その方が落ち着く。
100de名著の河合隼雄の回でひとつのお話が記憶に残っている。
とあるお坊さんが川の近くを歩いている時、向こう岸に行きたいという若い女性があった。彼は彼女を向こう岸までおぶってやると、女性は彼の優しさに好意を抱いた。彼はそれを知りながらも、微笑してまた独り歩いていった、というお話。
ひと段落したら旅をしよう。
たまには、
微笑もて愛を為せ、と思ってみたい。
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