ブリックス

家に帰ると、家のインコが亡くなっていた。

3羽のうち、もっとも美しい毛並と、飛ぶことのできない羽を持っていた。臆病で人の手を怖がったが、ベランダでは雀たちと仲良さげに鳴き合っていた。

5年前、大学2年生の春休み。近くの小鳥屋に行き、2羽のセキセイインコを指差した。
「この子とこの子ください。」
命の入った小さな箱を抱え、そっと歩いて帰った。


寮がペット可か不可かなんてことはどうでも良かった。

もともと言葉なんて存在しないのに、人の道とやらが存在するかのように振る舞う世の中、
自然の悲しみに耐えきれなかった人間たちのでっちあげた倫理観が渦巻く世の中が、息苦しかった。
そんな世の中からこの2羽と共に抜け出して、自然の中の存在同士として、名前ではなく命同士として、お互いが自由に生きられるようにしようと思った。
朝には太陽が昇り、夕陽がほのかな霧を宿して傾き、夜は暗く寒く、街灯は暖かく、
息を吸い、吐き、命と出会い、別れ、やがて自分の命も終わる。
そういう、奇跡的な時を生きたかった。

自分にとっては、命と命とのつながりにあるのは絆ではなく、時だ。
それぞれが自分という命を生きて、たまたまお互いの命と出会い、時を共にし、記憶に残ってゆく。


朝はとても綺麗に鳴いていた。13時頃には亡くなっていた。
ふと思い返せば、飼い始めたときから飛ぶこともできなかったし、楽しそうに動き回る時間も他のインコに比べて少なかった。
言い換えればこのインコは、鳥として生きるのが得意ではなかった。

この子は、年の変わり目に新しい生に向かっていったんだろうと思う。
次の命をもう貰い受けて、生まれてきたかもしれない。魂にぴったりの命を授かって、いつかまた出会うことができたら嬉しい。
この出会いで私は作られる。

ありがとう


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?