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頼りない(最新ベトナム)映画紹介(番外編)/『Ito/いとみち』(2021)

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国際交流基金による待望のJapanese Film Festival Online 2022が、有難いことにオリンピックに合わせて始まり、もうすぐ終わります。
外国向けということで相撲やラーメンのドキュメンタリー、懐かしのKurosawa羅生門、アニメーションなどが目立ましたが、全20作品で世界25か国同時開催という壮大なイベントと相成りました。

その中でこれは去年の話題作なので真っ先に見ました。横浜聡子サマ監督+脚本、全編青森ロケ、津軽弁のセリフが2割くらいしか理解できない難解作です。
「いと」は主人公の高校生の名前です。
時折映される津軽富士の風景が素晴らしく、映画全体のハッキリとした背景になっています。

物語はいと(演: 駒井蓮)がコミュニケーションをうまくできない地元の高校生で、子どもの頃から祖母の三味線を見よう見まねで覚えて、それを一つの自己表現にすればいいのにと思わせつつ、いろんなことへの反発からジブンの殻に閉じこもっています。
父親が変人の大学教授で(演:豊川悦司)、好きなようにさせつつ娘の行動に干渉します。母親はいなくて祖母は孫をやや突き放して育てています。

いとは学校生活に馴染めず、ジブンを変えなきゃと思ったんでしょう、青森の繁華街にある時給のいいメードカフェでアルバイトを始めます。
その店にはワケありで青森に移り住んでいる気の弱い店長の男と、2人のメードが働いています。メードの一人はシングルマザーで毎日店で売るアップルパイを焼いたりして生活費を稼いでいます。もう一人は漫画家志望でいつか東京に出て行くことを夢見ています。
カフェのオーナーが癖のある男 (演:古坂大魔王)で、世の中のものは全て真似だというのが口癖で、ジブンの店は秋葉原の真似だと言います。が、ハッキリ言って昔のルノアールのような店です。

ある晩いとは父親と喧嘩して家を出ます。父親はジブンが家を出るからお前は残れと言いますが、祖母が二人とも出ていけといい一緒に家を出ます。
その時いとが悩んだ末に三味線を持って出るシーンがこの映画のキモです。ジブンの殻を破って新しいセカイに飛び出していく少女の、ココロの拠り所としての三味線です。

そして一方でメードカフェはオーナーが詐欺か何かで逮捕され存亡の危機に直面します。店を閉めようという店長に対し3人のメード達が、あと一が月、オラだちでやっでみんべ、といいます。感動的な場面です。
店が再開の日、昔からのなじみ客が大勢集まります。いとの祖母もいます。
いとがステージに立ち三味線を弾きます。みんながその魂の籠った演奏にココロを震わせます。バックには岩木山の雄大な風景が映されます。

翌日、いとと父親は山に登ります。父親はいとが岩場をなかなか登れないのを何も言わず見ていますが、最後の頂上に着いた時に手を差し伸べて引き上げます。そしていとが大声で山々に向かって何度もおーーいと叫んでオシマイです。
青森の冥途カフェという極寒的設定なのに、ココロ温まるいい話でした。

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