Aphex Twinと「Nanou 2」

https://music.youtube.com/playlist?list=PLBJroZtbvUddyJShwE-OdLtewTdO46CSW&si=0671gDw6wYxZXLHc

エイフェックス・ツインを初めて聞いたのは二十二歳の頃である。
ロックに行き詰まったおれはクラブミュージックに傾倒していた。ヒップホップ、テクノ、ビッグビート、ダンスホール、ドラムンベース。
元々がロック小僧なので、ケミカル・ブラザーズとか、エイジアン・ダブ・ファウンデーションとか、やっぱり生楽器が入るようなダンスミュージックが好きだった。
ドラムンベースはその中でも攻撃的で、ノリとしてはロックに近いものがあったのでADFやプロディジーは今でも世界一踊れる音楽の二巨塔としておれの体に染み付いている。
そっち方面を聴き漁っていると、どうしたって目に入る名前がある。Aphex Twin。なんか変人らしい、でも天才らしい、セレクテッド・アンビエント・ワークスやリチャード・D・ジェイムズ・アルバムは凄いと噂にだけ聞いていた。
ちょっと聴いてみるか、と最新アルバムである「drukqs」を手に入れ、当時のおれのマストアイテムであったCDウォークマンに入れ、帰り道を聴きながら帰った。
ぶっ飛んだ。キチガイとはまさにこの事じゃないか、と思った。
切り刻まれたノイズとドラムパターンが全く新しいグルーヴを生み出していた。オーソドックスなドラムの音は殆どない。加工された何かがバスドラムだったり、スネアドラムだったりの役割を果たしていたが、それまでに聴いたことのない音色が聴いたことのないグルーヴを奏でていた。その上を飛び回る揺蕩うような不穏なシーケンスもそれまでに聴いたどんな音楽にもない音だった。
こりゃ紛れもない変人だ、と超攻撃的なドリルンベースに圧倒されていると、拍子抜けするほど美しいピアノの曲が耳に入った。Avril 14th。へー、こんなきれいな曲も作れるんだ。サティみたいじゃないか、と静と動の落差に感動し、この「drukqs」をエンドレスリピートする日々が始まった。
エイフェックス・ツインについても色々調べた。音楽雑誌にはあまり顔を出さない人だったが、戦車を買っただとか、双子の亡くなった兄の名前を名乗っているだとか、リミックスを依頼されたBUCK-TICKの曲があまりにもクソだったので原型を留めないほどに壊してリミックスしたとか(ちなみにおれはBUCK-TICKが好きである)、色々な逸話がエイフェックス・ツインにはあった。
イカレた人、というイメージが大きく変わったのはAvril 14thもそうだが、アルバム最終曲である「Nanou 2」である。

どんな綺麗な景色や芸術を見たらこんな美しい曲が書けるのだろう
どんな悲しい出来事があったら、こんなに優しい曲が書けるのだろう


エイフェックス・ツインの超攻撃的なドリルンベースも、ドラッグそのものみたいなアシッド・ハウスも好きだけど、やっぱりおれにとってエイフェックス・ツインはこの「ぞっとするような美しさと、何回も自殺を乗り越えてきたような絶望的な優しさ」が同居する、このNanou 2が一番心に残っている。

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