Teenage Fanclubと「Broken」
夜寝付けなくて、「1アーティストにつき一曲だけ、一番好きな曲を選んだプレイリスト」をポチポチと作っていた。
パッと決められるのもあれば、悩ましいのもある。ストーンテンプルパイロッツは悩んだ。悩んで、Interstate love songにした。
レッド・ツェッペリンは天国への階段だし、イーグルスはホテル・カリフォルニアといった具合に王道なものもあれば、ジミヘンはパープルヘイズやヴードゥーチャイルドではなくクロスタウン・トラフィックだし、レディオヘッドは勿論クリープではなくイディオテックだ。ビーチ・ボーイズはWouldn't it be niceと迷ったがSurf's Upにした。チェット・ベイカーはマイ・ファニー・ヴァレンタインではなくオールモスト・ブルーにして、パット・メセニーはLast train homeとMinuanoとの三つ巴の戦いに迷いに迷ってStranger in townにした。
思いつくアーティストをパッパッと決めていくと、ティーンエイジ・ファンクラブに当たった。
これも悩ましい。ザ・コンセプトも勿論捨てがたいし、Ain't That Enoughも大好き。Baby Leeみたいな新しめの曲も素晴らしく美しい。
でも、おれが今まで聴いてきた何百何千何万っていうポップミュージックの中でも数曲しかない(と思う)特に心に刻まれる曲がティーンエイジ・ファンクラブにはあった。
Broken。TFCの長年のバンドメンバーだったジェラルド・ラヴが脱退する最後のライヴで、最後に演奏された曲。シングルとして発表されたAin't That Enoughのカップリング曲でもある。
柔らかいアコースティックギターがシンプルなパターンを繰り返す。コード進行はずっと同じ。ⅠーⅣーⅠーⅣーⅥーⅤーⅣ。ずうっと、これの繰り返し。
ベースとドラムが簡素に入ってくる。エレクトリック・ピアノがほんの少しの色を添える。
そして、ノーマン・ブレイクが優しく歌う。とてもシンプルだけど、とても大切に聞こえるその一節を。
"Your heart has been broken again
It's broken, it's broken"
きみの心はまた壊れてしまった
ずっと前からある曲なので、ジェリー脱退のための歌なんかでは勿論ない。
でも、長年活動を共にしてきたジェラルド・ラヴというTFCの支柱を失った心情を、ノーマンはこの曲で表現した。痛み。悲しみ。そして、その傷は必ず時間と共に癒えるというメッセージを、この曲は持っているんだと思う。
ノーマン・ブレイクという人はTFCの楽曲を聴く人の事などほとんど知らない。特に、極東のこの日本という国にいるファンがどういう気持ちで自分たちの曲を聴いているかなんて全然わからないはずだ。
それでも、ノーマンがまるで自分のことを歌っていると思って涙する人はたくさんいると思う。
壊れてしまうことが許されない世界で、
壊れてしまうことを許してくれる、Brokenという曲。
弱音や愚痴を吐かず、優しくありたいといつも笑っている人。
でも、その影ではちゃんと痛み、損ない、傷ついている人。
おれは必ずしもそんな人ではないけど、この曲はそんな人を歌ったんじゃないかと思う。
そういう人はきっと、日本にも、スコットランドにも、世界のどこにだっているんじゃないだろうか。
おれが何度か、人生に躓いて心を「ちょっとだけ」壊した時、
Ain't That Enoughが「太陽は昇るよ、それで十分じゃないか」と歌ったその裏で、
Brokenは近すぎず、遠すぎない距離からおれを少しだけ温めてくれた。
ちゃんと泣いた。悔しかったのか、嬉しかったのか、とにかくよくわからない感情が涙腺を直撃したんだ。
だから、ティーンエイジ・ファンクラブの一曲はBrokenしかないんだな。
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