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Arctic Monkeys来日3公演を通して得られた財産について語る時

出会いは新宿タワレコの試聴だった。誰かを通して出会わない音楽は珍しい。大抵は当時、儚い思いを寄せていた人が好きな音楽を真似していただけだったから。知らないバンドの曲を歌う姿に惹かれたり CDやDVDを貸してもらったり バイト終わりに牛丼屋でつい話し込んでしまったりした。気付いたら私の方が教えてもらった音楽の深みにハマっていった。そんな音楽が大半を占める中で 自分で聴いて夢中になった数少ない音楽の一つだった。

でも その年のサマソニは行かなかった。なぜだったか詳細までは思い出せないが「暑いから」「ちょっと遠いから」などといった取るに足らない理由だったと思う。見る機会を華麗に逃してしまったあと 来日公演の知らせはなく あの時サマソニに行っておけば…と何度も悔やむ事となった。今度来日の機会があるならば東京公演は行こう。いや大阪もあったら行こう。フジロックだって行こう…。想像上で思い描く距離だけがどんどん伸びていった。

行きそびれたサマソニから8年が経過したある日、ツアー日程の中で燦然と輝く「JAPAN」の文字を見つけ、仕事帰りの電車の中で軽く息をのんだ。次から次へと聴きたい曲が思い浮かび、帰宅してからもしばらく動けなかった。あの曲が生で聴けたらなと思った。来日を待つ間、最も再生していた曲で 鮮明に思い出せる風景がある曲だった。学生時代はバイト先に向かう道で必ずといっていいほど繰り返し聴いていた。そんな思い出の曲を実際に聴く事ができたらそれ以上の幸せはない。

一番好きなアルバムの 一番好きな曲

どんなに願ってもセトリに入らない曲というものはどうしても存在してしまう。淡い期待よりも長年聴き続けてきたバンドを初めて目の前にする緊張が強かった。今日はArctic Monkeysのライブに行くんだという朝が来るなんて、月並みな表現だが本当に生きててよかったと思う。日常の延長線上にアクモンのTシャツを着て 颯爽とデニムジャケットを羽織っている人を見かけただけで胸が高鳴った。中にはグッズのTシャツをペアルックで着ている人たちもいた。どちらかが好きで、同じ服を着ようよと誘ったのだろうか?あるいは同時に。同じものが好きとはいえ、必ずしも同じ熱量の同志とは限らない。ペアルックできる人を見つけられる人生と見出せない人生についてぼんやり思いを馳せていたら自分の整理番号が呼ばれた。

夢と現実の狭間

海外からのお客さんも多かったので開演前から気持ちが高まりつつも、彼らは本当に存在するのか?と半信半疑の気持ちでいた。でも目の前には まるでiPodから飛び出してきたかのような人たちが確かに現れた。本当にこの世に存在していた。Alexの生歌は 彼らの音楽を聴いて過ごしてきた20代の日々を一気に呼び覚ました。夢見心地の私に はっきりと「TOKYO!」「ありがとう」と言ってくれた。何もかもわからないまま上京し 学生生活を送りながらバンドに出会ったものの 都会に疲れて地元に戻り、ひょんなことからまた東京に出てきた私と一緒にいてくれた音楽。決して短くはない時間 思いを寄せ続けたバンドを生で観た衝撃は大きかった。Do Me a Favour、音源でも大好きだったけど実際はこういう風に歌ってくれるんだな。アレンジも相まって、音源が今まで聴いていたものとは全く別なものに生まれ変わった瞬間、たった一晩で自分の人生の厚みが増した気すらした。

Zepp Haneda公演直前に見た空

東京2公演で彼らはKnee Socksを演奏しなかった。おそらくサマソニのセトリには入っていたはずだったのだから、あの時サマソニに行かなかった自分を恨むしかない。次いつ観られるかわからないというのに。今回は前回の来日から約9年ぶりの来日だったが 次は10年後だとしたら…。余韻に浸りつつも若干の物寂しさを抱えながら向かった大阪公演。新大阪には何度到着してもワクワクする。会場は思い入れの深いライブハウスの一つであるZepp Osaka Bayside。ライブが終わって電車に乗るまでの道のりがなんとも言えず好きだ。今日が3公演の最終日だと思うと一曲一曲が早く感じられてしまって寂しい。あと数曲でライブが終わってしまう。あれ?今日はDo Me a Favourやってくれないんだろうか?不思議に思っている私の耳に突然、Knee Socksのイントロが流れてきた…。

雷に打たれたような感覚だった。自分の切なる願望が紛れもない現実として訪れた。数日前のツイート「大阪ファイナルで1曲だけ曲を変えて、それがKnee Socksだったらいいのにな」は完全なる言霊となった。どうしてやってくれたんだろう?Alexが曲の終わりにはっきりと「Knee Socks!」と言ってくれた時、現実なのだと実感が湧き 今までもこれからも大好きだと確信した。感謝してもしきれないArctic Monkeys、ありがとうの気持ちでいっぱいだ。

なぜかはわからないが ライブではなかなか聴けない曲を好きになってしまう事が多い。ライブ終わりに多幸感で満たされている幸せな日もあれば、高揚感に包まれている人たちに紛れて 今日はあの曲聴けなかったなと沈む事だってある。一時期は自分の中でライブに行く理由を見失いかけていたぐらいに。それでもこの夜のように 思いを全て肯定してくれたような時間は存在する。あの頃と変わらず今日も再生ボタンを押す私には この日の歌声がはっきりと聴こえてくる。

また観られる人生でありますように!


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