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保存処理について

今回も書きすぎてしまいました…。

水中遺跡から出土した遺物の保存処理について。

遺物が長い間水中にあると、錆びたりします。しかしながら、水中の環境は、比較的安定しているので見た目は丈夫なことがあります。木材も、ボロボロでも残っていることがあります。

ところが…

一度、空気に触れると乾燥して、ボロボロに劣化してしまう。それを防ぐのが、保存処理です。金属や木材などそれぞれ様々な方法があります。脱塩処理を行ったり、錆びを除去したり、表面をコーティングしたり。

水中遺跡と保存処理。切っても切れない関係にあります。しかし、なかなか水中考古学の話に出てこない…。水中遺跡を研究する上で、一番お金がかかり、一番重要であり、そして、一番注目されない。それが、保存処理です。

私は、船舶考古学・水中考古学で博士号で取得していますが、保存処理の専門家ではないことを最初に断っておきます。

専門家でもないのに、保存処理に対して偉そうなことを言っているように聞こえるかもしれません。ですが、

1)水中遺跡に特化した保存処理の授業を大学院で3クラス取った
2)大学院生に水中遺跡の保存処理を教えた経験がある
3)水中遺跡に特化した保存処理ラボで5年実務経験(ハーフタイム)
4)水中遺跡に特化した保存処理に関する論文などを時折読んでいる
5)日本の水中遺跡・埋蔵文化財行政に関わっている
6)欧州数か国・中国・韓国など保存処理ラボを視察/交流中

水中遺跡から出土した遺物の保存処理の経験を持っている人は、国内でもいらっっしゃいますが、水中遺物に特化した授業を受け、特化した実務経験のある人は、おそらく日本には私しかいないと思います。なので、まあ、書いてみようと。

あらすじ

   I. 保存処理って何?
       
保存処理の基礎
       保存処理にお金がかかる?
   II. 保存処理の問題点
       
ヴァーサ号
       ユネスコ水中文化遺産保護条約について
   III. 日本の水中遺跡の保存処理
       
長崎県松浦市鷹島海底遺跡
       開陽丸ー江差の軍艦
   IV. 海外の保存処理
       
保存処理のクラスについて
       金属製品の保存について
       ケース・スタディ  
   V. 海外の保存処理と日本の保存処理
       
日本の保存処理からコンクリーションを考える
       陸の遺物と水中の遺物
       再度コンクリーションを考えてみる     
   VI. どうすればよい?
       
水中遺跡保護の現状
       埋め戻し・水中保管庫
   VII. 日本が世界に誇る技術とは?
       
木材の保存
   VIII. 最後に
         
水中遺跡ハンドブック
         重要なので最後に書きます

読んでいく際の注意点ですが…。途中、かなり落ち込んでしまう内容となっていますが、最後は明るい話題になっています。部分的に切り取っての解釈・評価はお控えください…。

あと、写真・資料などはパワポ・PDF・ウェブサイトのリンクがだいたいついてますので、クリックして理解を深めてもらえると嬉しいです。


I. 保存処理って何?

保存処理の基礎

水中から引き揚げたすべての遺物には何らかの保存処理が必要です。

例えば、木材の場合、セルロースなど木の成分が溶け出して残っているのは、細胞壁だけ…ということもあります。水中だと細胞壁の中に水が詰まっているので形を保っています。触ってみると、豆腐のようにブニャブニャなこともあります。これが、乾燥すると…水が抜けてしまうので、細胞壁が崩れてしまう。木材の保存処理は、細胞壁の中に固いものを詰め込む作業。通常、特殊な薬品に漬け込んで、浸透圧によって水と他の物質を置換させていきます。

木材には木材の、鉄には鉄、銅には銅に適した保存方法がありますが、劣化状況や様々な要因で処理方法が変わります。すべてケースバイケースであるのが、保存科学の難しいところ。

そして、この作業に、時には数年もかかります。

いくつかリンクがあるので、ご覧になってください!


福岡市の埋文センター。なかなかかわいい絵で紹介しています。


こちらは、動画。私が埋文センターにいたときに造りました。(動画編集は素人ですが、頑張りました…)


保存処理にお金がかかる?


ちなみに、「水中遺跡の調査はお金がかかる」と聞きますが、本当は、「引き揚げ後の保存と管理にお金がかかる」が正解です。発掘にかかる費用は、保存処理と維持管理に比べると、オマケ程度でしかありません。まあ、発掘費用が1とすると、保存処理は10~30ぐらい。そして、管理費に毎年0.5~1.5が加算されていく…。

実は、自治体にとって「発掘費用」はそれほどの負担になりません。というのも、水中遺跡の発掘は、開発に伴う調査が原則です。つまり、護岸工事や風力発電工事などがあり、その場所に遺跡があったから、原因者が発掘費用を負担して動かす場合、なのです。陸でもそうですね。開発事業者が負担します:遺跡を壊す側の責任です。

さらに…
例えば海にパイプラインを通す事業の代表者になったと思って考えてください。計画したライン上に遺跡があることがわかりました。さて、発掘にお金を出すか、もしくは、30mほど計画したラインを動かすのはどうだろう?海は広いので、結構計画変更はできます。とはいえ、やはり事前に何かあるか調べるのが一番ですね。音波探査で調べてから詳細な計画を立てる。それが可能なんです。

さらにさらに、開発業者にとっても、実は発掘は大変じゃないんです。海の開発は、どれも数10~100億円規模の超大型業です。洋上風力発電とか。なので、発掘に数百万円かかっても開発事業全体費用からすれば、そこまで大きな負担にはなりません。

陸の場合は、どうでしょう。例えば、個人住宅。計画変更、できますか?NOですね。負担は、どうでしょう。同一面積の全く同じ規模の遺跡の発掘を考えたら、そりゃ水中よりは安いです。でも、個人住宅は規模が大きくない…その中で百万かかったら、大変な負担です。

陸の開発と水中の開発では、そもそもの予算規模が違います。事業費全体で見ると、遺跡調査にかかる費用の割合は、陸のほうがめっちゃしんどいです。水中の発掘を「お金がかかる」というのであれば、陸の発掘の原因者負担をなんとかしないといけませんね。負担する率は陸のほうが高いですから。

言い換えれば、個人事業の場合、工事費用のうち20%以上も遺跡調査に持っていかれても平気なのに、公共事業と一体化した大企業の開発費用の1%以下の遺跡調査費用が高いと言っていることになります。大企業を優遇しているわけではないのでしょうが…

「水中遺跡の発掘は自治体にとって大きな負担になるよね」、という人がいたら、ぜひ聞いてみて下さい。「保存処理と管理に負担がかかるの間違いですよね」って。

II. 保存処理の問題点

上でもうその話題になってますが、真っ先に思いつく問題点は、そう、お金。専門的な技術の習得や人員の配置にもお金がかかります。

保存処理は、安くはすみません。薬品の値段もありますが、結構やっかいなのが、水。脱塩処理では場合によっては、数か月も水に浸しておく必要があります。そして、頻繁に水を変えないといけない。数万点も遺物が出土する水中遺跡、これは大変な作業です。さらに、処理したら終わりではなく、温湿度なども一定に保つ必要があります。

ヴァーサ号


例えばこちら…ヴァーサ号。

全長70m木造軍艦。17世紀最大の船です。ストックホルム湾内で発見されました。引き揚げは1960年代。95%船体が残っており、そのまま浮いたそうです。そして、その保存処理に30年。博物館がオープンしたのは、1990年代だそうです。


PEG溶液に木材を漬け込むという作業がセオリーでしたが、70mの船を漬け込むのが無理だったので、スプリンクラーを使ってPEGを噴射し続けたそうです。博物館がオープンしたのが1990年代なので、引き揚げから30年間、ずっと保存処理中…。

でも、じつは大変だったのは、その後。鉄くぎと薬品が反応して腐食し始めたので、船体に使われたすべての鉄くぎを抜いて錆びない材質のモノに取り換えています。パーツを一つ一つ丁寧にはずして組み立て直しています。さらに、この博物館、上から下まで温湿度を一定に保っています。1~2Cの差、湿度も1~2%しか変化しないように特別な空調設備を整えています。

年間100万人以上が訪れる空間で、7階建ての吹き抜けの空間、てっぺんから床まで、同じ環境に保つ~もちろん365日24時間…。

これを、日本の地方自治体で行えるのでしょうか?

ちなみに、ここではほとんど書きませんが、日本にとって問題なのは、引き上げ後の遺物の保管・管理は地方公共団体の責任にとなること。例えば、国家事業として水中遺跡の保存に取り組めば、なんとか予算もつきそうですが、地方でお願いね!となると…。日本は、原因者負担は発掘現場で止まってしまう…。なかなかの問題です。

多くの国では、保存処理までが原因者負担です。場合によっては国が行っているところもあります。水中は大変だから、そこだけ国が…というケースもあります。例えば、EEZから引き揚げられた遺物は国が管理するということも考えられます。(ただし、日本は文化財保護法は領海内までなので、EEZで何か見つかっても文化財として扱う規定がありません。それはそれで大問題)。

ユネスコ水中文化遺産保護条約について


まあ、日本の現状については、後々みていきますが、世界はどうでしょう。ユネスコ水中文化遺産保護条約では、「保存処理とその後の維持管理の予算や体制の整備が保障できない場合、発掘するべきではない」としています。また、「開発行為とのバランス、遺跡が環境により劣化している、明確な研究目的などを吟味しながら、遺跡の現状での保存を第一のオプションと考える」としています。

現地の保存とは、つまり、遺跡を埋め戻すこと。水中で、しかも堆積が50cm以上あれば、完全に酸素から遮断された状態になります。つまり、真空パック。有機物でも、この状態が維持できれば1万年は現状保存可能です。まあ、沈没船がタイムカプセルと言われる所以です。

遺跡を掘らずに埋め戻す。保存処理にかかる費用が、ゼロで済みます。

ただし、これは保存処理にお金がかかるからの「逃げ」ではありません。過去に失敗があったこと、また、発掘調査自体が「破壊行為」であり、どうしても環境の状況の変化の情報など、多くの過去のヒントが失われています。それを防ぐためです。未来には、よりよい遺物や遺跡の保存方法が開発されるかも…ということです。遺跡にとって最善の保護は、現地に残すこと。遺物を見るためが目的ではありません。

まあ、あとは「掘らない=成果がない」ということでもあるので、歴史を知りたい人にとっては、もどかしいところ。

ユネスコの条約についてのリンク

あと、余談になりますが、韓国は世界トップクラスの水中考古学を誇ります。保存処理に関する書籍も複数出版しています。(ダウンロード可能)

現場での応急処置には、こちら。ちょっぴり古いけど。


III. 日本の水中遺跡の保存処理

日本にも水中遺跡の保存処理の実績がります。

長崎県松浦市鷹島海底遺跡


長崎県松浦市の鷹島海底遺跡は、元寇・蒙古襲来の沈没船が発見された遺跡として有名ですね。神風によって沈んだと伝えられています。もう40年近く調査が行われています。

パワポ資料です!ダウンロード可能

鉄製品は、錆でブクブクに膨れ上がるため、外見からでは何が何だかわかりません。周りの砂や貝などを取り込んで、コンクリーションと呼ばれる塊になります。それを、X線CTスキャナーで中身を解析します。普通のX線はずっと使われていましたが、CTスキャンによる3次元可視化は、ごく最近まで稀でした。

ブクブクのコンクリーションですが、アルカリ溶液に浸して塩素をある程度抜いた後、乾燥させ、展示しています。コンクリーションのままですので、てんぷらの衣をつけた遺物のようです。これが問題なんですが、それは、後ほど。

また、発見された沈没船についてですが、ユネスコ条約などで書かれているような模範的な対応をしています。写真測量により3次元データ化を行ってます。遺跡の完全な記録を残し、発掘せずに保存。つまり、砂をかぶせて埋め戻し、海の底にまだ沈没船が残されています。これが世界的なスタンダードであり、きちんとそれを踏まえた対応となっています。


こちら、奈良文化財研究所がまとめている全国の報告書。PDFでダウンロード可能。鷹島の報告書もありますので、ぜひご覧ください!

開陽丸ー江差の軍艦


それと、開陽丸。江戸幕府の軍艦開陽丸。榎本武揚が乗っ取り函館へ。その後、江差で沈没。日本で初めて自治体が取り組んだ大がかりな水中発掘調査でした。

船体は、水中に残されています。フナクイムシに食われないように、銅製の網を船体に貼って海底に残しています。これは、おそらく日本独自の解決策だったのかと思います。他国で埋め戻しの方法を検証していますが、銅網は例がなかったかのようです(少なくとも、ここ20年間聞いていません)。 

やはり、大きな木材を引き上げて保存を施す施設やノウハウがなかったのです。なにせ、1980年代ですから。その当時、諸外国でも徐々に「遺跡は現地で保存」のスタンダードが生まれつつありましたが、まだ明言されていなかった。船体をその場に残したことは、英断だったと思います。

パワポ資料。ダウンロード可能

かなりたくさんの金属遺物などが保存処理されました。基本は、アルカリ性溶液に漬け込んで、塩素をジワジワと抜き取る。そして、表面のコーティング。

開陽丸の遺物ですが、沈没後100年ちょっとですので、遺物の状態は比較的良好でした。ブクブクに膨れ上がったコンクリーションも、それほど多くはなかったようです。おそらく、港の環境が、保存に適していたのかもしれません。周辺の塩分濃度や堆積物の量などにより、遺物の保存は変わってきます。

船体の残された木材がどうなっているのか、調査が進んでいます。

日本の水中遺跡の保存をみると、輝かしい実績を残しています。遺跡数が他国に比べ極端に少ないのは、ちょっと問題ですが。それでも、発掘するとなったら、先進的な取り組みをしており、また、今のところ、保存処理でもほとんど問題が起こっている様子は見えてきません。

IV. 海外の保存処理

保存処理のクラスについて

私の通った大学院、テキサスA&M大学。水中考古学の父と呼ばれた故ジョージ・バス先生が設立したプログラムがあります。1976年に設立された、世界で初めて水中遺跡を対象とした大学のプログラムです。私は、ぎりぎりで引退するバス先生の最後の授業を受けました。ちなみにバス先生は、アメリカ国家科学栄誉賞を受賞しています。アメリカで最も権威のある科学賞であり、ノーベル賞に最も近いサイエンス・メダルだそうです。

さて、「水中遺跡」の大学院プログラムというと、水中遺跡の発掘方法の授業やトレーニングプールなどを想像するかもしれません。が、実は…

発掘などの手法の授業はひとつもありません。そのかわりに、保存処理に関しては3クラスありました。

さらに、保存処理ラボもあり保存処理のサーティフィケットもあります。

「保存処理の理解無くして水中遺跡の調査はありえない」

と叩き込まれました。水中での作業の前に、必ず遺物を守るための方法を学ばないといけないのです。

保存処理の授業の中で、おそらく一番印象に残ったのは、この一文。

1964年に書かれていますが… 水中考古学と保存について、

今日、19世紀の手法を持って発掘に携わることは許されないだろう。(それと同じように)水中遺跡の発掘において、事前に保存処理の明確な計画のない調査を行うもの、保存処理をないがしろに扱うことは、誰であれ許されない。保存処理の計画の無い発掘では、得られる証拠よりも失われる証拠のほうが多くなるであろう。

みなさんは、これを読んで、何をお考えになったでしょうか?

今から60年前に、「水中考古学の発掘作業で保存処理を考えないのは、60年前の考古学だ!」と言ってます。それに比べ、日本のテレビで「水中考古学って初めて聞きました!船の引き揚げをぜひ見たいですね!」と平然とコメントしている…120年遅れているよ!と伝えたい。

さて、保存処理の鉄則として…

この二つが注目に値します。

遺物のdiagnostic attributesを現状を残すこと、また、再処理が可能なこと・もとの遺物を傷めないこと、などがあります。「出土遺物の現状を変えない・再処理が可能なこと」です。覚えておきましょう。Objectとは何か、また、diagnostic attributesとは何か…。メッチャ翻訳しにくいコンセプトです。今はやりのOpen AIにdiagnostic attributesとは何かを聞いてみるのも面白いかも。

さて、そんな保存処理のクラスの教科書・マニュアルをご紹介します。興味のある方は、熟読を。

内容は、こんな感じ…

化学が苦手な人には、もう大変です。幸い、私の後にテキサスに来た山舩さんが、授業の体験をブログに書いてくれていますので、ご覧ください。山舩さんは、押しも押されもせぬ売れっ子の考古学者ですね。

フォトグラメトリーの技術は世界的な評価を受けている山舩さんですが、保存処理に関しては自分でも認めているように苦手。

こちら、山舩さんの本。保存処理の話は、出てきたかな…覚えていない。

さて、少し脱線してしまいました。

私、この大学の授業のマニュアルの一部を翻訳しています。それをブログにアップしていますので、ご覧ください。

20年ほど前から続けているブログですが、なんだか恥ずかしい。誤字脱字や適当な翻訳があるかもしれませんが、そこらへんはご愛敬で。

また、私が関わった遺跡の報告書、興味あれば読んでみてください。


金属製品の保存について

今回のNOTEの記事ですが、特に保存処理の方法を解説するものではございません。ですが、ちょっと鉄などの金属製品について解説をさせてください。

水中遺跡で良く出土する鉄製品。こちら、コンクリーションと呼ばれるものです。この固い天ぷらの中に遺物が入っているわけです。


このコンクリーションですが、錆が溶け出し周りと反応を起こし、ドンドン膨れ上がります。そして、周りのモノをどんどん取り込んでいく。下の写真は、そのコンクリーションの例。やたらデカい天ぷらですが、この中に有機物とか鉄製品とか、たくさんのモノを含んでいます。たまたま、横にあった遺物を取り込んでいく。まあ、泥が固まったようなものですね。

人間の体よりもでかい錆の塊です。私の記憶が正しければ、大砲の玉、ブラシとか、望遠鏡とか、なんかいろいろ入ってました。

固形化した泥と錆の塊、ときには数百キロにもなる。例えるなら、複合遺物や有機物、様々な金属がごっちゃに詰まった玉手箱。

このコンクリーションですが、X線で中身を確認した後、どんどん掘り崩していきます。天ぷらの中から、遺物を取り出していくような作業です。有機物などもたくさん混じっているので、それらを取り出して、別々に保存処理を進めて行きます。

ただし、鉄分が完全に抜けてしまって空洞の場合があります。その場合、シリコンなどで「かた」を取ります。空洞は、遺物の形を残していますので、遺物そのものは、ありませんが、形は残っています。周りを覆っていた錆の塊は、基本は破棄します。

鉄の本体が残っている場合は、電解還元法(ER)を使うことが多いです。ERによって、遺物の中に入り込んだ塩素を完全に取り出すことができます。

小学校のころ、アルカリ水溶液に電気を流して酸素と水素を発生させる実験をしたことありますか?ようは、それを遺物で行います。遺物に電流を流し、内部で水素を発生させます。その水素が塩化化合物と結合し、泡となって排出されます。

アメリカやヨーロッパでは、水中遺跡の金属製遺物の保存処理によく使われます。下は、クロアチアが刊行した保存処理マニュアル。

このERですが、金属遺物の中からほぼ完全に塩化化合物を抜くことができますが、日本ではあまり使われていません。

ケース・スタディ

日本になじみのある遺物で処理をしてみました。寛永通宝ですね。長年、水中にあったので錆が表面を覆っていました。

これをナトリウム水溶液にいれ、微電流(直流)を流してやると、泡が発生します。だいだい1週間もせずに、表面の汚れが取れました。また、内部からもClがほぼ完ぺきに抜け出ています。

最終的に、表面をコーティングして、酸素・水・塩が遺物表面と直接接触しないための処理になります。これにより、ほぼ再処理の必要もなくなり、また、そこまで温湿度を徹底して管理する必要もありません。

さて、おそらくですが、日本の博物館などで銅銭を見たことあるかと思いますが、錆が付いていたり、緑っぽいままのモノ見かけるのではないでしょうか? 

また、日本で保存処理を習った人は、この方法・この写真を見て、綺麗すぎるとか、遺物の現状を変えているとして、保存処理の原則に反していると思うかもしれません。

さて、どうでしょうか…?

V. 海外の保存処理と日本の保存処理

日本の保存処理からコンクリーションを考える

日本の保存処理では、コンクリーションは、ほとんどそのままの状態で保存を行っています。コンクリーションを割って中から遺物を取り出すことをしません。また、ERを使用すると、完全に錆を除去することになり、もともとあった鉄を失ってしまうこともあります。つまり、本来あった遺物とは異なる形状になる可能性もあります。また、錆には埋蔵環境の情報なども含まれていることもあります。さらに、錆はもともとの金属の情報も分析による取得できる可能性も…。コンクリーションは、固まった天ぷらに見えても、実は、様々な情報が詰まっている…という考えです。

コンクリーションを割って破棄することは、出土遺物の現状を変えない・再処理が可能なこと、などいくつか保存処理の原則に反している、ということです。

錆びも、できるだけ残しています。それは、錆からでも将来必要な情報を得ることができるかもしれない。出土した状況は、できるだけ残すことが重要視されます。

なぜ、このような違いがあるのでしょうか?

陸の遺物と水中の遺物~日本と海外の考えの違い

一つ考えなくてはならないのは、水中にあった遺物と陸の埋蔵環境にあった遺物、やはり多少の違いがあること。

水中にあった遺物は、内部の奥深くにまで溶け込んだ塩素の量が違います。中途半端な処理だと、遺物の内部から崩壊していきます。表面に問題が出てきたら、再処理と言って、もう一度、処理をし直すことがあります。

結局、再処理とは、遺物内の塩素を取り除けていなかったこと。表面にそれが問題となって発生しないと、中身でどれだけ錆が進行しているかわかりません。再処理を繰り返しているうちに、ドンドン崩れて行ってしまう。最初の一発の保存で処理を行わないと、最終的に遺物はなくなってしまう。

つまり、「現状にこだわるがゆえに、最終的には、すべてを失う処理を施すことになる」と言えます。これは、実は欧米諸国が水中遺跡の引き揚げ遺物にしてきた過ちです。再処理できる方法や現状を残したいがために取った処理が、数十年後には、遺物を破壊する原因となった。そのため、現在では、長いスパンで見て、多少の現状の変更は、やむなし、と考えたのです。また、ひとつひとつの遺物にお金をかけてしまうと、何も保存できなくなる… 

左が日本方式 右が米国・欧州式

遺物単体で見ると、日本のほうが良いかもしれませんが…しかしながら…

また、遺物一つにこだわっていると、遺跡自体、分野自体の発展に影響が出る可能性もあります。

くぎひとつにこだわりすぎていると、大きな遺跡を失う可能性も…。

これを考えないと…

ひとつの水中遺跡で、3万、4万点の遺物が出土します。1点1点に数十万をかけ、さらに5年ごとに再処理…。水中遺跡の規模を考えると、現実的ではありません。

再度コンクリーションを考えてみる

陸と水中の違い・コンクリーションの形成の模式図作ってみました。

コンクリーションが周りの環境を残しているとはいえ、それは、周りの土・泥も同じ。コンクリーションは、泥が固まったものなので、まあ、その中間的な存在となります。基本、海外では、コンクリーションは遺物ではない、とみなされています。

さらに、コンクリーションの中の様々な遺物は、CTスキャナーでも見えないものもあるでしょう。コンクリーションをそのまま残しておくと、その遺物が内部で劣化して失うことになります。

コンクリーションは水中特有の現象なのです。そして、そのコンクリーションの特性を理解して保存処理を行った経験が、国内にはあまりない。そのため、陸のスタンダード・考え方で対応しています。

まあ、もう一つ、特にアメリカの考古学の考えですが…。考古学は人類学の一分野です。道具そのものに価値があるのではなく、その道具を使った人々の文化を知ることにこそ学術的価値があります。その遺物から、その情報を十分に引き出せれば、良いのです。道具の裏にあるストーリーこそが本命。

そう考えると、出土した状態保持には、こだわりはありません。そこまでして現状維持の鉄則を固持する必要はない。錆やコンクリーションを残しておくと、そりゃ錆から得られるであろう情報は得ることができますが、肝心の中身の情報がなくなってしまいます。

まあ、本当の本当は、遺物の現状を残し、情報も引き出し、さらに、保存を安価に済ませる…これがベストなのでしょうが…。

VI. どうすればよい?

水中遺跡保護の現状

保存処理にはお金がかかる…。保管や管理も大変。水中特有の方法だと、どうしても多少の情報が失われる。それでも遺跡を掘れば数万点の遺物が出る。

あ、ちなみに、世界には300万隻の歴史的沈没船があると言われています。イギリス・デンマーク・オランダなどは、すでにそれぞれの国で数万件の水中遺跡を特定しています。

コチラの地図を参照

オランダを中心にした遺跡ポイント、数万件を示しています。そこに、西日本の地図をTrue Sizeで重ねてみました。粒粒は、すべて遺跡。

どうしてこれだけの水中遺跡があるのでしょうか?(いや、そこにあるからなので…)。言いたかったのは、どうしてこれだけの水中遺跡が発見されているのでしょうか?

水中遺跡の発見のそのほとんどすべてが、
 ①漁師やダイバーなど海と接する機会の多い人が発見し、報告している
 ②海洋開発前の事前調査により遺跡を特定している

水中考古学者は、それらの報告を精査して遺跡として登録をします。つまり、

遺跡を発見するのは一般の人、遺跡に意義を与えるのが考古学者の仕事

世界のほとんどの国は、海洋開発に際して文化遺産を守るためのルールがあります。また、海でみつけたものの報告義務などもあります。また、海にも遺跡があることを理解していることが重要ですので、そのための海洋教育を行っています。

私の経験では、日本人以外の方から「水中考古学という分野があるのを初めてしりました」というフレーズを聞いたことがありません。

さて、上の遺跡地図の話題に戻りましょう。

はっきり言って、これ全部引き上げるの?と思う人がいるかもしれませんが、いやいや、水中遺跡の基本は、開発とのバランス、遺跡の現地保存です。陸でも同じですね。

水中遺跡を、そもそも発掘するという機会が、実はあまりありません。

そう、多くの国では…
 周知の遺跡     数万件
 調査された遺跡   数千件
 一部発掘      数百件
 完全に発掘     10件未満  

これが、一般的。そう、完全に発掘された水中遺跡って、ほとんどない。水中遺跡を発掘することは、例外中の例外中の例外なんです。「水中発掘・沈船まるごと引き上げる」イメージがありますが、あれは嘘。

日本の場合は、周知の遺跡が400件弱。ただし、遺跡として登録されていないものなどを含めると600件近くなります。なんと、一部発掘は100件以上にのぼります。周知の遺跡の数は、他国に比べ2~3桁少ないのに、調査事例はそれほど変わらない…。つまり多くの遺跡(縄文などの湖底遺跡)は、開発中に発見され計画変更なしに発掘されていることを指します。他国のように、事前に発見していくためのシステムがありません。「世界の水中遺跡のほぼすべては、漁師やダイバーによる発見もしくは開発を行う前の調査・アセスメントによるものです」とはすでに述べました。日本には、この二つとも法整備・体制が整っていません。

埋め戻し・水中保管庫

海外では、発掘をしないで表面の露出しているものをデータで残す、もしくは、一部発掘するのみです。一部発発掘した後、埋め戻します。日本の鷹島海底遺跡の沈船も、この方法で現状保存されています。引き揚げないのはなにごとじゃ!という方、保存処理のノウハウがないと無理だということをご理解ください…。遺跡の保存ということを日本では重要視し、その点においては、世界的なスタンダードに早くから達していた、ということです。

ユネスコも、この方法を推奨していますね。

また、最近(といってもここ30年前ぐらいからですが)は、一部遺物を掘って記録を残した後、水中に遺物を埋め戻して保管する方法を実践しています。水中保管庫になります。

学術的に貴重な遺物のみを保存処理し、残りの遺物は記録を取ったあと、安全な海底に埋め戻します。陸の収蔵庫よりも安定した環境にあります。

水中に保管! 右は数年後のモニタリングの際の写真

現在、日本の多くの自治体で、数十年前の掘られた遺物が全く誰の目にも留まっていない、そんな状況にあります。だったら、水中も同じです。

海外では、定期的にモニタリングを行い、悪影響がないか観察しています。どうしても開発で遺跡を掘らないといけない、もしくは、砂が流出しており、遺跡が現地で保存できない!この場合、遺物を引き揚げ、別の場所で保管します。

このように、本当に必要な保存処理に専念することができるようになりつつあります。

VII. 日本が世界に誇る保存技術とは?

木材の保存

保存処理は、まだまだ技術革新が望める分野です。
だったら、コンクリーションや表面の錆を残しながら、すべてを保存できる方法を考えればよいではないか?しかも、安全安価で時間も短縮でき、簡単に発掘現場とかでも素人ができる方法を…。

そうは簡単ではないでしょう。でも、想像もつかなかったような斜め950°の方向から新しい手法のヒントが出てくるかもしれない。例えば、ピュレグミ🍒とポッキーをエタノールに入れて溶かした液体を遺物表面に塗るなど…。

新技術の開発には視野を広く持ち、基礎研究にもしっかりと力を入れることだと思います。

実は、その魔法に近い方法が日本人研究者によって開発されています。金属性遺物ではなく、有機物ー主に木材です。トレハロースという、お菓子にもよく入っている成分を使います。

上で紹介したヴァーサ号、韓国の新安沈船、イギリス・ヘンリー8世のメアリー・ローズ号、どれもPEGによって処理されました。PEGは鉄や塩分などと一緒に処理すると腐食が進みます。ただし、反応の進む速度はめちゃ遅いので…処理してから数年の後、その事実が分かりました。

そのため、新安沈船やメアリー・ローズ号などは、現在でもなんとか腐食を食い止めようと様々な処理が継続して行われています。ヴァーサ号の場合、船体にあるすべての鉄くぎを抜き、錆びないスチールに取り換えていますね。

PEGによる処理よりも、良い方法はないのか…長年、いろいろと実験が行われてきました。そして、このトレハロースがその悩みを解決してくれるかもしれないと期待されています。今のところ、トレハロース処理して数年経過しても悪影響がみられないようです。

トレハロースは、PEGと同じ機材を使って処理が可能。安い、早い、簡単、安全(食べてもOK!)。鉄などを腐食させない。変色や変形もかなり少なく抑えられる。温湿度管理も、PEGほど徹底する必要はない。さらに、木材だけでなく、様々な材質の有機物に応用できるみたいです。

そう、そんな技術を使って、鷹島海底遺跡から出土した木材などの保存が進められています。

世界に誇れる日本の技術です!

https://nara-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=55&item_no=1&attribute_id=9&file_no=4



というわけで…、もしかしたら、金属の保存処理もスゴイ方法が見つかるかもしれない! 

VIII. 最後に…

現状を見てみましょう

水中から引き揚げられた金属製品・特にコンクリーションについては、どのように保存していくのか、きちんと世界の例を見ながら考えて行く必要があります。今のところ、私が話しをした保存処理の専門家の方々は、コンクリーションについて真摯に向き合っていないようです。

「だって、出土した状況を変える、遺物を壊すことになるから日本では無理だよ…」という答えが返ってきます。
「遺跡の形成過程で遺物の外側にできた殻を守るために、数百の遺跡が壊されても良いのでしょうか?」と聞き返しても、それ以上話が続かないことが多いです。

日本の水中遺跡から、海外のように、まとまった塊のコンクリーションがあまり出ていないので、仕方のないことなのでしょう。また、海外の研究者も、処理前のコンクリーションなどは、あまり外部に紹介しないので、見る機会もすくないというのも理由の一つかなと。遺跡の報告書などは、処理された遺物しかほとんど出ていません。海外の水中遺跡の保存処理をしている人もそう多くはない。また、日本国内で保存処理をしている人は、考古学プロパーとは、ちょっぴり距離があります。

なんとなく絵を作ってみました…
海外の場合、考古学者、水中考古学者、保存専門職、また、その中でもそれぞれ水中遺物の保存経験者などがいます。「水中考古学+保存処理」が重要です。あくまで、私の経験上のイメージですので、ご了承ください!

下が、日本の場合。「水中考古学+保存処理」が重なっている部分が少ないです(私のほか数名いるかいないか)。もちろん、保存処理の専門家でも水中遺跡を扱っていますが、海外ほど多くはありません。

巧く表現できないですが、海外の「水中考古+保存処理」のグループは両軸に足を突っ込んでいますが、そのほとんどは実は考古寄りです。水中考古学から保存科学へのアプローチは積極ですが保存科学の分野から水中遺跡へのアプローチは、そこまで積極的でない…。

例えば、保存処理の国際会議や学会などがあった場合…。保存処理の芯を動かしているメンバーで水中遺跡について語り合う機会は、まあ、多少はあったとしても、そこから日本の保存処理業界全体に影響を与える可能性は、あまりないのです、いまのところ。

日本で保存処理を行っている人で水中考古学の現状を理解し、また、海外の水中遺跡の保存処理の現場を見たことがある人材がを増やすことが必要です。

今後、日本でも巨大なコンクリーション、数千年塩漬けになった遺物を大量に処理する方法など様々な問題に直面した時にどう対応するか…。策をあらかじめ練っておく必要があります。

まあ、そのために、今は鷹島海底遺跡などは埋め戻して保管しているのです。その間に、新たな方法を考えないといけない。木製品に関しては、ほぼ完成しつつあるようです。トレハロースですね。今度は、金属製品をどうするか。

遺跡の現地保存も、限界がありますし、そもそも、水中遺跡という分野全体の成果が見えてきません。埋め戻しばかりだと、どうしても分野が進展しない…。一般の人が、鷹島の遺跡は発見当初はニュースになったけど、その後どうなったのか…やはり、関心がなかなか続いていません。

コンクリーションも、衣のままなので、中身を想像するしかできません。そのため、一般には伝わりにくい。天ぷらの衣を見て中身の味を想像している状態です。

水中遺跡を発見するのは、一般の人です。考古学者は、水中遺跡を見つけません。発見された遺跡に意義を与え、登録などをして保護を進めます。なので、一般の人がどれだけ水中考古学に興味を持っているか、それが遺跡を守っていく上で一番大切なこと。

水中遺跡ハンドブック


さて、最後ですが、文化庁の水中遺跡調査検討委員会が『水中遺跡ハンドブック』をPDFで公開しています。主に自治体の方々が水中遺跡調査を行う際のてびきではあります。


https://sitereports.nabunken.go.jp/files/attach_mobile/50/50042/130183_1_%E6%B0%B4%E4%B8%AD%E9%81%BA%E8%B7%A1%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF.pdf

私も、この出版には携わっていますが、これまでの日本の水中文化遺産への取り組みを考えると快挙です。日本の水中遺跡保護行政を一気に25年進めました。自治体が目的意識を持ってここに書いていることに取り組めば、さらに進むでしょう。

日本には、行政のシステムを変えてはいけない暗黙の了解があるので、その制約の中で、「何ができるか」を突き止めた結果が、このガイドブック。最高のてびきができました。「行政システムを変更せずに文化庁だけの力でできる最大限のもの」ですが、それは「遺跡の保護に本当に必要な方法の追求」とは合致しないことを頭に入れておく必要があります。

保存処理については、一通り書かれています。方法だけでなく、劣化のメカニズムなど丁寧な解説は読みごたえがあります。保存処理を実際に行っている人には特に読んで欲しい内容です。しかし、水中遺物・特に金属製遺物の保存に関しては、どうしても足りない部分があります。経験がないからです。 

遺跡の現地での保存方法、その目的や理由などは明確に記されています。足りない分を、私がここに書いて問題提起をした、というところです。

水中遺跡が突然工事などの際に発見される可能性はあります。そして、緊急に引き揚げ。そこで大量の金属製品が出てきたら、保存処理をしないと…と思ったら、ノウハウがない!どうすればよいか指針もない…。そうならないように願いたいものです。


重要なのでもう最後に書きます

①多くの水中遺跡は、すでに漁師さんなどに発見されていますが、それが貴重な遺跡だと気が付いていません。海洋開発現場にいる人たちも同じです。そのため、多くの遺跡がすでに消滅しています

水中遺跡の魅力を伝えることで、分野全体を活性化させ、どんどん遺跡を保護できるよう登録していくこと。これが大事。それは、遺跡を見つけるのは、考古学者ではなく、一般の人だからです。

③つまり、水中遺跡全体の保護のためには、積極的な引き揚げをしないといけませんが、それを支えるための「水中遺跡特有の問題を考慮した」保存処理方法を学ぶ必要があります。

④しかし、保存処理に関しては、遺物単体の表面的な現状保存に執着することで、水中遺跡全体の保護にとって何が一番大切であるかを見ていない状態にあります。

⑤木製品の保存では、日本の取り組みは世界にもどんどん発信していける技術と経験がありますが、金属製品に関しては、なかなか難しい所があるようです。でも、ちょっとした発想の転換で、何か新しい手法が生まれるかもしれません。それに期待しています。そのためにも、水中遺跡特有の保存処理の方法をしっかりと考えて行く必要あります。

ここで書いた内容が、その手助けに少しでもなれば…。まあ、あと私は保存処理の専門家ではないので、あまり保存処理専門のジャーナルに論文を書けるほどの知識を持っているかというと、疑問です。なので、ここで書いているわけですが。どなたか、日本の現状をもっと理解していると共著も良いかもしれません。興味のある方は、ぜひ、ご連絡ください。


おまけ…

参考に、アメリカ南北戦争時の潜水艦ハンリー号の保存について。
世界で初めて実戦において敵艦を沈めた沈没船として有名です。まさに、鉄の塊。保存処理が巧く行った例として知られています。ちなみに潜水艦の動力は、人力でした…。

アメリカで完全に丸ごと引き揚げられた(発掘された)遺跡は、2件あります。この遺跡と、テキサスで沈没したフランスのラ・サール探検隊の船、ベル号。


コンクリーションから取り出して保存されたオイル差し


ハンリー号の舵


あとがき…

まあ、公開ボタンを押す前に、最後に。
一度、書き終わった後、読み返して同じようなことを書いてあった段落を、下にまとめていました。最終的に統合する、消去するつもりでしたが、なんだか、文章を消すのがもったいないので、残してます。

編集の断片ですね。順番は、めちゃくちゃです。こんなアイディアもあったのか、と思ってもらえれば。

以上。

保存処理に直接関係ないようにも思いますが、保存処理をガンガン進めて一般にも共感できる遺物を見せることが、水中遺跡全体のために重要です。表面的な遺物の保存を主張していると、何が大切か見えなくなります。

水中遺跡を見つけるのは、考古学などに拒絶反応を起こす人・全く興味のない人がほとんど。そのような人たちに、遺跡っぽいモノを見たときに報告してもらうことが必要になります。なので、水中遺跡発掘の成果をわかりやすく示すことが大事になります。

日本の場合、遺跡が周知の遺跡として登録されれば保護できますが、そこに到達するまでの明確なシステムがない。しかし、数万件の水中遺跡を登録していかなくてはならない。他国の水準に追いつくには、現在の100倍の遺跡数が必要になります。自治体や研究者がいくら頑張っても、遺跡の登録数をそこまでふやせるでしょうか?

ユネスコ水中文化遺産保護条約や保存処理の鉄則を大切にするという考えに反していると考えられるかもしれませんが、その逆です。条約本文や付属書類・マニュアルなどの中で一番多く出てくる単語は、「Public」です。公共のために水中遺跡の成果を伝える活用に一番の努力が当てられています。

あと、
 1)保存処理の費用が地方公共団体まかせ
 2)EEZに文化財保護法が及ばないー文化財として扱えない
のような構造的な問題もありますが、それは別の機会で触れてみます。

ひとつの遺物の表面の情報を保存するために、多くの遺物や遺跡が失われるのは、理にかなっていません。水中遺跡という分野全体を活況化のため、遺跡の発掘そして迅速な保存処理(表面だけではない)が必要になってきます。木材では、それができたのですから、次は金属製品…。


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