2007D志乃【風物詩】

 たぱぱぱぱぱ、と木桶に満ちた水へ新たな水が落ちる音に惹かれて、沢へ近づく。すっかり色の抜けた古竹から際限なく零れる湧き水が、水浴する黄色いアヒルを泳がせていた。
 竹から針金でつられた品書きが風に揺れ、品書き通り湧き水に冷やされたラムネ達が桶のふちに頭を預けてのんきに日を浴びている。
 桶からあふれた水は沢へ流れ、竹が刺さった石垣の脇で苔を伝う小滝と波紋を打ち消しあった。
 昔から、こういうのに弱いのだ。冷蔵庫で冷やしたほうが冷たいのも、衝動的に瓶なんて買うと後で始末に困るのもわかっているのに、手がかばんの中を探る。財布はどこに入れたっけ。
 一五〇円をどこに支払えばいいのか、顔を上げてぐるりと見まわせば、夏の日差しが目に刺さる。白んだ視界に、からん、と瓶の中で踊るビー玉の音が響いた。

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