2104D志乃【新しくはないが絶対古くもない】

 滑って転べと言わんばかりの石段だった。端のほうはしっかり角が残っているのに、上から数段下ったところで落石に削られでもしたのかという損壊具合で、一番人が通るだろう箇所だけ欠けている。滑り落ちる間抜けの靴底に削られ、雨に磨かれ、苔を生やし、結果悪意あふれる石段トラップの完成といった風情だ。
 まあ、偶然だろうが。
 木々と竹の隙間からさんさんと降りそそぐ日の光にも関わらず、社の前はしとしとと湿り気を帯びて冷えている。石灯籠にもうっすらと苔、社を組む木にも年季がにじみ出ているが、窓が破れたり注連縄が切れたりはしていない。山奥で人気もない割に、よく手入れのされた神社だった。よくよく見れば正面はアルミとガラスの引き戸だ。
 すん、と雨上がりのにおいを陽光で攪拌したような香りを吸い込み、拝殿へ一礼。
 転ばずに帰れますように。

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