1910C志乃【憩】

 頭の真上から残暑というには強烈な猛威を振るっていた太陽が、今日のお勤めは終い、と傾きだした頃合い。じとじととわだかまっていた湿気が夕風に連れ去られて、さらりと肌を乾かしていく。
 鎮守の森めいた小高い丘を登れば、遊歩道が整備された公園にたどり着く。遊具も何もない、ただ草と灌木、季節ごと色を変える木々が数種、木陰を作っているだけの静かな場所だ。
 他の木の股に足を突っ込んだように生えた木や、自分の腕同士で絡まりあって収拾がつかなくなったようにめちゃくちゃに伸びた枝を見るに、さほど熱心な手入れはされていないらしい。枝葉も落ちるまま、同じように落ちた種から好き放題に生えては伸びているのだろう。遊歩道からそれた土山は縦横に走る根が覆っていて、まるで雨ざらしにされて削れていく土を握りしめるようだ。
 木々に埋もれるようにして、藤棚のような格子状の屋根を乗せたあずまやが佇んでいる。大きな四人掛けの机を二つ、ゆったりと収められるような大きなものだ。覆いかぶさった木の枝葉が屋根の隙間から内へのぞいていて、雨宿りには期待ができない。柱には黴とも苔ともつかない緑がうっすらとまだらを作って、ベンチや机も濡れているわけではないが湿り気を帯びてしっとりと冷たい。
 かつては人がいた、とナレーションをつけたくなるような、斜陽の公園。
 人を待つのにこれほどぴったりな場所もあるまい。陽が落ちきるまでと決めて、ベンチに腰掛けた。

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