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夏の読書

暑くなると勝手に身体が“夏休み”状態になる。
要するに休みたいわけだ。ぼおーっとしていたいわけだ。
けれど現実は働かざるを得ず、体は労働へ向かう。
取り残された心をなだめるように図書館で課題図書もどきを借りる。

サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(白水社)と
ブローティガンの『愛のゆくえ』(早川書房)。どちらも随分昔に手に
とったことがあるけれど、たしか最後まで読むことができなかった。どうしてもすぐに眠くなってしまい、ほとんど内容の記憶がない。

以前は『ライ麦畑でつかまえて』だったと思い出しつつ、日本語タイトルに違和感。何故こんなロマンチックなタイトルにしたんだろう。直訳すれば<ライ麦畑のキャッチャー>。キャッチャーはキャッチャーだよね?あれ?

ブローティガンの方は<堕胎1966年的恋愛の歴史>になる。さすがに<堕胎>ではセールス的に問題ありにしても、昭和の昼メロドラマみたいなタイトル・・・。ゆくえ?

サリンジャーの小説は当時禁書処分を受けたそうだけど、50年代であれば、さもありなんという感じ。大人になって読むのと、こどもの頃に読むのとではかなり受け取り方が違うだろう。今回きちんと読んでみて、むしろ10代の頃に読まなくてよかったのではないかと感じた。そして2024年の今読んでも、古臭い印象を受けない。現在に通じる様々な問題の種がちりばめられている。読み終わった後、しばらくの間あれこれ考えこんでしまうのだから、やはり名作なのだろう。

ブローティガンの小説は原文で読んだ場合、どの程度ファンタジックなのかがわからないけれど、めちゃめちゃ苦いファンタジーだった。最後の方は「ぎゃっ」となってしまう。タイトル通り、堕胎する為に遠くへ飛行機で出掛ける件がクライマックスではあるけれど、小説というよりも長編の詩のようで、そもそもこの内容を詩のように書いていること自体が当時としてはクレイジーだったのかもしれない。アメリカの音楽、特に歌詞の部分に注目すると、倫理観についてゆらゆら不安を覚える表現にちょくちょく出会う。ブローティガンと同じ系譜なんだろうか。

一昨日、返却しに図書館へ行った。湿度の高さで人は死んでしまうのでは
ないかというくらい気持ちの悪い暑さで、帰りに図書館近くの珈琲専門店で水出しアイスコーヒーを注文する。店内ではアメリカのジャズのレコードがかかっていて、客はわたしひとりで、くらくらしていて、ちょっと幸せ。





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