行財政改革(敬老行事関連において)ver.1

以下、私が公務員時代に作成した敬老行事関連の業務改善案を掲載します。正確には民間企業への転職時に前職の職務内容を説明するのが煩雑であったため、退職後に当時を思い出しながら再現したものです。

まず従来の敬老行事概要、続いてその改善案へと流れます。

以下の記述において、ブロック経済圏構想が景気悪化につながったとしている箇所がありますが、京都大学経済学部の堀和生教授が「東アジア資本主義史論」(ミネルヴァ書房)で述べられていた主張とは異なる見解であり、私自身も現在では堀教授の見解の方が正しいと考えているので、この点については修正が必要と思われます。

●従来の敬老行事概要…主に以下①~④の4つに大別できる。

① 敬老行事補助金(予算規模1080万円) 
各地域の自治会(町内会に相当する団体)が主に9月の敬老月間中、地域の高齢者を敬老会に招待し、飲食や催し物を提供してお祝いする。その際、高齢者の健康増進等の福祉目的のために、80歳以上の敬老会出席者一人につき1,000円の補助金が市から敬老会に対して交付される。対象者10,800人。敬老会の開催方法、開催場所等は自治会が任意に決定することができる。

課題
高齢化に伴い、毎年補助金の交付金額が増加し続けており、財政を圧迫している。


② 百寿表敬訪問
毎年、9月の第三月曜日の敬老の日前後に市長が2日間かけて、市内に住民票があり、かつ当該年度に100歳(百寿)となられる方のご自宅・入所先施設・病院を表敬訪問する。そして国から委託された祝賀状・銀杯、市からの祝賀状(→後述)・百寿祝い金3万円(→後述)を授与し、その後、対象者およびそのご家族と歓談して回る。対象者数27人。

課題
ⅰ)事前準備としての訪問ルートの確認、移動時間・歓談時間の設定に莫大な 時間を費す。(約2ヶ月)
ⅱ)表敬訪問の当日も市長以外に職員5名(先発車2人、市長車運転手1人、司会者1人、担当職員1人)が随行するため、市が実施する他事業に影響を与えかねない。
ⅲ)高齢化に伴い、対象者である当該年度に百歳になられる方の人数が年々増加しており、将来的には2日間で表敬訪問しきれなくなる可能性もある。


③ Ⅰ)百寿祝い金(予算規模81万円)
 ②で述べた百寿表敬訪問時に、百歳になられる対象者一人につき3万円が市長から手渡される。対象者27人(上記②と同様)。

課題
ⅰ)高齢化に伴う対象者増により、交付金額が年々増加し続けており、財政を圧迫している。
ⅱ) 授与された祝い金は対象者が亡くなるまで神棚に飾っていることが多く、また亡くなった後は相続人による遺産分割により、その2/3は市外に流出(推定)するため、経済波及効果は81万円×1/3=27万円程度。
   Ⅱ)米寿祝い金(予算規模471万円)
市内に住民票があり、かつ当該年度に88歳(米寿)になられる方一人につき1万円が交付される。手続きとしては市担当職員から対象者に対して、個別に通知等の書類を郵送し、対象者から銀行の口座番号等、必要事項を記入した書類を返送していただく。それに基づき対象者の口座に1万円を振り込む。対象者471人。

課題
ⅰ)祝い金が口座に振り込まれていることに気付かず、放置されていることもしばしば。また、父母の帰省に同伴した孫へのお年玉等として市外に流出する場合もあり、市内への経済波及効果は471万円×1/3(推定)=157万円程度。ⅱ)高齢化に伴う対象者の増加により、財政を圧迫している。
ⅲ)口座振込の手続き自体が煩雑なうえ、対象者が記入した口座番号等に誤りがある場合、訂正のための確認に膨大な時間を要する(手続き通じて約 2ヶ月)。
ⅳ)手続き未了の対象者には、書類提出を催告する電話等をするので、振り込め詐欺を助長する可能性がある。また、市担当職員が対象者に電話をかけた際に、振り込め詐欺と勘違いされて追及されることもしばしば。


④ Ⅰ)百寿祝賀状
②で述べた百寿表敬訪問時に市長から対象者に手渡される。

Ⅱ)米寿祝賀状
各自治会の敬老会開催前に、市担当職員が事前に額縁・祝賀状を市内業者に発注し、届いた額縁に市職員が祝賀状をはめ込んだ後、各自治会に車で配布して回る。
Ⅰ)Ⅱ)併せて予算規模
祝賀状25万円(500円×(米寿471枚+百寿27枚))
額縁25万円(500円×(米寿471枚+百寿27枚))

課題
ⅰ)高齢化に伴う対象者の増加により、財政を圧迫している。
ⅱ)祝賀状を額縁にはめ込むのに職員3人がかりで2日かかる。
ⅲ)額縁に祝賀状をはめ込む際に、祝賀状のカバーとなるガラス板が重く、手を滑らせて割ってしまうことがあるため、きわめて危険である。また、祝賀状のはめ込み作業後、祝賀状を各自治会へ運搬するが、カバーのガラスが割れないように細心の注意を払わなければならないため、煩雑である。


●業務改善案(以下の見出し番号は「従来の敬老行事概要」の見出し番号に対応させた。また、改善案の主要部分には下線が引いてある。)

①敬老行事補助金
・従来は市外(近隣の温泉等)で敬老会を開催していた自治会に対しても、補助金を交付していたが、その補助金を市内で敬老会を開催する自治会に対してのみ交付することとする。
これにより、市外で敬老会を開催していた自治会に交付していた補助金1,000円×300人=30万円の予算削減が可能となる。仮にこれまで市外で敬老会を開催していた自治会が市内開催に移行した場合、予算削減は不可能となるが、代わりにプラス100万円の経済波及効果となる。予算削減額より経済波及効果が大きくなるのは、補助金は敬老会の開催費用の一部にすぎないため、また敬老会には60~70代も出席するためである。

・敬老会で使用する物資すべてを市内調達とする自治会に対してのみ補助金を交付することとする。
保健所に提出する「敬老会における飲食の提供方法についての報告」の資料作成において、敬老会で提供される弁当のうち、300人×1,000円(弁当価格は推定)分は市外から調達されていることが判明。すべての弁当を市内調達にするだけでプラス30万円の経済波及効果となる。

着想
上記2点は第二次世界大戦前のイギリス・ブロック経済圏構想より着想。ただし、ブロック経済圏がその後の経済的停滞の一因となったことから考えても、他の地方公共団体に追随されると意味をなさなくなる。したがって、他の地方公共団体に模倣されないよう、内密に実施する必要がある。

・一律に補助金交付額を削減しつつ、各自治会から敬老行事に関する提案を募り、画期的な提案をした自治会に対する補助金のみ増額するという競争原理を導入する。ただし、誰が審査員となるか、審査に公平性があるのかといった点で紛糾する可能性もある。

着想…各種コンペより。

・市外の高齢者団体が三次市内の施設を敬老会で利用する場合は、割引する等により資本を引き入れる。

着想…上記ブロック経済圏構想の裏返し。


②百寿表敬訪問
ⅰ)訪問を中止し、市内の公共施設に対象者やそのご家族を招待し、一斉に祝賀状・祝い金を授与することとする。
これにより訪問ルートの確認・移動時間が不要となり、歓談時間も大幅に短縮することができる(心理学でいう社会的手抜き)。結果、担当職員の事務量を2週間は短縮可能。担当職員の給与を1万円/日と推定すると、1万円×14日=14万円の予算削減となる。
ⅱ)従来の制度では、先発車に職員が2人乗り、市長が表敬訪問する10分前に対象者宅に伺い、市長来訪をお知らせし、百寿祝い金授与の領収書を事前にいただき、その後、市長車の対象者宅到着時に市長車に同乗していた市担当職員に、先発車に積んでいた祝賀状・祝い金等を渡し、再び次の対象者宅に向かうということを繰り返していた。しかし、会場設営により移動が不要になると、先発車によるお知らせや祝賀状・祝い金等の運搬が不要となるので、先発車の職員2人は当日の表敬訪問に従事せずにすむ。
ⅲ)従来は全対象者訪問に2日間費していたが、公共施設で一斉開催すると半日ですむ。

ⅱ)ⅲ)より担当職員は市長含めて4人、かかる日数は0.5日、一人あたりの給与は1.5万円/日(市担当職員・市長車運転手以外は管理職のため高く設定)と推定すると、4人×0.5日×1.5万円=3万円となる。従来が6人×2日×1.5万円=18万円だったため、15万円の予算削減となる。

着想…神戸市方式。

③Ⅰ)百寿祝い金
ⅰ)3万円の手渡しから市の特産品の手渡しに切り換える。
これにより、対象者の人数が増加し財政が逼迫してきた場合、特産品のグレードを下げることで柔軟な対応が可能となる。
ⅱ)従来は神棚に飾っていることが多かったため、市内への経済波及効果は皆無(せいぜい対象者の死亡後に1/3程度)であったのが、制度変更により市内に100%祝い金相当額が投下されるため、27人×3万円×2/3=54万円の経済波及効果となる。

 Ⅱ)米寿祝い金
ⅰ)従来の現金振込を廃止する。代わりに1万円相当の市の特産品を特集した  カタログを作成し、その中から任意の特産品を対象者が選択し、市内業者から発送してもらうこととする。
これにより、それまで銀行口座で眠っていた、あるいは孫のお年玉に化けて市外に流出していた祝い金相当額が、すべて市内に投下されることとなる。471万円×2/3=314万円の経済波及効果となる。
ⅱ)対象者が増加して財政を逼迫してきた場合、特産品のグレードを下げることで柔軟な対応が可能となる。たとえば、特産品を一人当たり1万円相当から6,700円相当に変更すると、経済波及効果は157万円下がるが、予算削減額は157万円となる。
ⅲ)特産品の注文手続きは、ふるさと納税における返礼品の発送手続きを流用する。そのため、手続きはほぼNPOに委託する。また、作成するカタログの配布対象者は前述④Ⅱ)の米寿祝賀状の配布対象者と同一であるため、車で各自治会に祝賀状を配布する際にカタログも併せて配布することで口座振込用紙を別途対象者別に郵送する時間や経費を削減(=ゼロに)することができる。結果、職員の事務量2ヶ月、担当職員の給与1万円/日とすると、60万円の予算削減が可能。また、書類の郵送費用82円×471人≒38,500円の予算削減も可能。ただし、NPOへの委託費およびカタログ作成費が若干かかる(この点は辞職前に詰め切れなかったので、費用は不明)。
ⅳ)現金の口座振込でなくなるので、振り込め詐欺を助長する可能性はなくなる。また、振り込め詐欺と勘違いされて市担当職員が追及されることもなくなる。

・対象者が自分以外の任意の人(市外の人でもO.K.)宛に発送を依頼することができることとする。そうすると、市の特産品のアピールにもなる。

着想
市職員新人研修における鬼丸昌也氏(特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス理事・創設者)の講演より。アフリカの紛争地域でゲリラに拉致された少年が武装させられた上、元々住んでいた地域に少年兵として送り込まれ、少年の親族や知人を虐殺するよう強要される。その後、少年兵を辞めることができても、虐殺の経歴から地元では出歩くことができなくなり、引きこもりになりがちとのこと。そこで、社会復帰支援プログラムとして、その地域でのみ使える地域限定通貨を元少年兵に提供することで、元少年兵の社会復帰を促す、という内容。
→ここから地域限定通貨を市内で発行するという発想に
→手続きが煩雑すぎるため断念
→祝い金を市内の特産品に代替する(当時は1種類を想定)という発想に
→特産品の選定が困難なため断念(高齢者は咀嚼力や嚥下機能に難がある場合も多いため)
→ふるさと納税の返礼品の制度を流用し、特産品の送付先も任意とするという発想に(所属課長案)

④Ⅰ)百寿祝賀状
Ⅱ)米寿祝賀状
ⅰ)従来は祝賀状をはめ込むための額縁を業者に発注していたが、これを市内の小中学生に図工・技術の時間を利用して作成してもらい、祝賀状の額縁へのはめ込みまでしてもらうこととする。
これにより、額縁は材料費のみしかかからないため、1枚400円程度で作成することができ、5万円の予算削減が可能となる。また、市教育委員会の図工・技術に要する予算も削減が可能となる。仮に額縁の材料費を市教育委員会の負担とすると、高齢者福祉課の額縁用の500円/枚×約500枚=25万円の予算削減が可能となる。
この点、年少者の労働を禁止した労働基準法に抵触する可能性があるものの、地方公共団体における高齢化を実感するための社会科学習の側面や、地域高齢者への感謝を示すという情操教育の面を強調すれば、このような法的論点は回避しうると思われる。
ⅱ)従来は祝賀状の額縁へのはめ込み作業に職員3人、一人当たり給与1万円/日で2日を要していたが、上記ⅰ)によりすべて不要となるため、3人×1万円×2日=6万円の予算削減が可能となる。
ⅲ)従来は、祝賀状のカバーとしてガラス板を使用していたが、これをアクリル板または塩ビ板に切り換えることとする。
これにより、祝賀状を額縁にはめ込む際のけがのリスクを大幅に減らすことができる。価格は、アクリル板>ガラス板>塩ビ板であるが、額縁を手作りとすると、元々額縁にセットされているガラス板よりもアクリル板単体で大量一括購入したほうが廉価になる場合もある。塩ビ板の場合は言うまでもなくガラス板よりも廉価ですむ。割れる可能性も低いため、運搬時もガラス板ほどの注意は不要となる。

着想
当初は額縁を廃止し、収納用の筒に代替することで予算削減・はめ込み時間の削減、ケガのリスク低減を想定(国から委託された百寿祝賀状の形式より着想)。しかし、所属係長から「祝賀状授与の際には額縁に入っているほうが見栄えがよい」といった主旨の指導をいただいたため、当該改善案については断念した。
また、当時は祝賀状のサイズを縮小し、それに併せて額縁のサイズも縮小することで予算削減を図るという腹案も有していたが、諸般の事情により、当該改善案についても断念した。
→その後、私の祖父が市民講座で焼き物制作の講師をしていたことがあったため、額縁も手作りすることができないかと考えるようになり、  当該改善案へと至る。

●最後に

・業務改善案を作成するにあたっては、主に予算削減・経済波及効果の拡  大・事務処理量の削減の3点を考慮した。

・問題として、今日、経済成長がきわめて限定的である中、ブロック経済圏類似の制度を導入することで他の地方公共団体と限られたパイの奪い合いをすることに意味があるのかという点が挙げられる(この点、辞職後に出版された書籍ではあるが、水野和夫氏著「資本主義の終焉と歴史の危機」(集英社新書)に、よりマクロでかつ詳細な記述がある)。
これに対しては、他の地方公共団体からパイを奪われる可能性がある以上、自らは奪わないという選択肢は存在しない(ゲーム理論における「囚人のジレンマ」の考えにもとづく)との暫定的な結論が出せると思われる。実際、地方のパイは都市部に奪われ続けているというのが現状であり、その対策は必要と考えられる。

・仮に上記①の制度変更により、たとえば三次市内の温泉で敬老会を開催してもらえるようになっても、プライベートでそれまで市内の温泉に行っていた分を、敬老会で行くことになったから、代わりにプライベートでは市外の温泉に行くことにする、というような事態になっては本末転倒であり、制度を変更した意味がなくなりかねない。
また、上記③ⅰ)ⅱ)のような方法で市内の業者に経済波及効果を及ぼすことが可能であったとしても、それにより潤った市内の業者が、再び市内で経済波及効果を及ぼすべく消費行動を展開しなければ、資本が市外へ流出するだけになることも想定される。
この点については、全市をあげて地産地消等、継続的に市内に現金を落とし続けるという意識づけがなければ、政策により一時的に市内に経済波及効果を及ぼすことができたとしても、その効果はきわめて限定される。

・敬老行事の大半は、国や県の指定事業ではなく、市の条例や要綱で規定されている任意事業であるため、いかようにも制度変更をすることができる。在職中に作成した業務改善案においては、一部制度の全廃や予算の一律削減等にも言及していたが、本業務改善案においては、細かい数字を思い出すことができず、かつ面白みが無かったため言及しなかった。

駄文であるにもかかわらず、最後までご清覧くださいましてありがとうございました。

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