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雨の日は、雨を愛す

金曜日のよる、映画『日日是好日』(にちにちこれこうじつ)を観てきた。

樹木希林さんの最後の出演作となったことで話題だけれど、お茶を習っている自分としてはそれ以外でもとても気になっていた映画だ。

原作は森下典子さんの同名エッセイで、茶道を習い始めてからの二十五年間で見えたあれこれが綴られている。

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「あれは貴方のための映画よ」
私よりも先に映画館で観てきたという先生は、お稽古のときそんな風に言って微笑んでいたけれど、

うむたしかに。

まず、主人公「典子さん」の職業はフリーライターだし。
人生につまずいて、それがお茶の世界での未熟さともつながっているように感じて突然泣き出してしまうシーンなんか、特に心にぐさりと来た。

思えば、私がお茶を習い初めて今年で十年になった。
好きで始めて、好きだから続けているはずなのに、それでもつらいことはたくさんあった。

ほんの少しだけこの世界が見えてきた分、わからないことやできないことへの引け目や、「道」がつく習い事だからこその難しさに憤ることが多い日々だった。

理由もわからずにお茶室でぽろぽろ泣き出してしまったことも一度や二度じゃない。

でも、”一皮むけた”の意味を生まれて初めて体感できているのが最近だったりする。
先生が「しおりちゃんはもう分かっているから大丈夫よ」と言ってくれたのが、この映画を観る1週間ほどまえのことだった。

何を分かっているのか私自身はわからないけれど、お茶を点てるときの心がやっとやっと穏やかになってきたのは感じていた。

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雨の日は雨を聞く。雪の日は雪を見て、夏には夏の暑さを、冬は身の切れるような寒さを。五感を使って、その瞬間を味わう。

映画の予告でも、劇中でも使われる印象的なこのフレーズ。

これを聞いて、「日日是好日」という言葉の意味がストンと落ちた人は多いんじゃないだろうか。

毎日がいい日。
でもそれだけじゃなく、あるがままの季節に、自然の姿に、目の前の一瞬いっしゅんに魅せられながら生きていくこと。

そんなことに思いを馳せていたら、これと似た意味をもつ、作家・吉川英治さんの言葉が頭に浮かんだ。

晴れた日は晴れを愛し、雨の日は雨を愛す。楽しみあるところに楽しみ、楽しみなきところに楽しむ。

雨の日は雨を愛す。ってなんてすてきな言葉だろう。

日々をこなしていく中で、どうしたって「雨」な気分のときはある。
「まじで土砂降り!」って感じの状況もある。
だけどそれはそれとして受け止めて、愛をもって過ごせたら素敵だ。

だけど、これは現状への妥協なんかじゃない。
どんな日にも、良きところを見つけ出す、美しい心。

きっとまた悩んで、お茶のお稽古がつらくなったりもするだろうけど、この映画を観て道標ができたような気がした。

それに、鑑賞後の余韻に浸って言葉少なに歩いた夜の銀座もすてきでした。

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