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君の代わりはいないよ

スマホを手にした同僚の言葉に周囲の人たちがざわつく。私はそっと天を仰いだ。

まじか…春馬くんまじか…

彼は今までに見た舞台の中でも、強く心に残っている役者の一人だ。
舞台上に登場するだけで、空間が華やぐ(もちろん役の雰囲気を失うことなく、ということだけれど)。そして、とても美しい。

彼の出演舞台はただ一度だけしか観に行けていなかった。大竹しのぶとの『地獄のオルフェウス』は、彼の姿が、歌声が美しいからこそ、あの虚しさや苦しさを引き立てていたと思う。
大河ドラマ『おんな城主直虎』に出演すると聞いたときは大歓喜し(大河ドラマオタクなので)、実際に放送が始まるとこれまたどうしようもない役柄とさわやかな笑顔のギャップに持っていかれた。あの大河はやはり素晴らしいキャスティングだった。
そのほかのドラマや映画をいちいち追いかけてまで見ることはなかったけれど、NHKをつけていて『世界はほしいモノにあふれている』をやっているときは彼を見たいからといってチャンネルをそのままにしていた。
FNS歌謡祭で歌って踊っていた時には「うちの春馬はすごいだろう」と誰目線かわからない誇らしさを勝手に抱いていた。彼の才能がアイドルのような扱いでもてはやされないようにと少しだけ心配しながら。

私生活もゴシップも、ほとんど知らずにこれまで過ごしてきた。それでよかったと思う。どんな噂が立てられていようと、彼が舞台で見せる姿はホンモノなのだから。その姿を信じられるから、いつも応援してきたのだ。

メディアで彼を見かける度に、今度こそ『キンキーブーツ』のチケットを絶対に取らねば!と意気込んでいた。鉄平君とのコンビは、最高だよな……!

だから、君の代わりはいないんだよ。

君の代わりができる人なんて、いないんだ。

そのことに、打ちのめされている。
もう会えない。もう二度と、舞台の上の彼を見ることができない。
喪失感に茫然とし、涙を流し、また茫然とし……それを数時間ほど繰り返している。

そして、今はもう苦しみから解放されていればいい。
そうするしかなかった人の胸中を理解することはきっとできない。理由なんて、本人にしかわからない。もしかしたら、本人だってわからないのかもしれない。
どうか彼を、彼の周りの人たちを、彼を愛した人たちを、これ以上苦しませることがないようにと、切に思う。


最後に。
春馬くんの思い出を一つ。

平成最後の日、敬愛する槇原敬之のコンサートに行ったときのことだ。
(今年に入ってからのマッキーのことは、いろいろと思うところもあるのだけれど、今は割愛する)
国際フォーラムのなかの階段で、すらりと背が高く、端正な顔の男性とすれ違った。その瞬間に「三浦春馬みたい」と思うくらい、存在感のある印象的な人だった。
コンサートの終演後に、どうも春馬くんご本人が来ていたらしいということを知った。やっぱり本人だったんだなぁ……
その日のコンサートは、マッキーが「世界に一つだけの花」を歌ってくれたり、ご両親への愛を語ってくれたり、しみじみと良いコンサートだった。毎年参戦していたが、今年も来てよかったなぁと心が温かくなったのを今でもよく覚えている。
マッキーの曲を春馬くんも聞いていたんだな。あのひとときの記憶が、彼にとってほんのわずかでも優しい思い出として心に残っていてくれたらいいと思う。
だから今夜は、久しぶりに落ち着いてマッキーの曲を聴くよ。君の姿を思い出しながら。君が穏やかに過ごせることを祈りながら。



画像はBunkamuraの『地獄のオルフェウス』メインビジュアルをお借りしました。

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