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結局宇多田ヒカルがかかると一番盛り上がる午前2時のダンスフロア

行きつけの銭湯がある。湯の温度が41℃なのがよい。50℃近い東京の老舗銭湯は福岡出身の僕には熱すぎる。50℃って料理番組に出てくる数値だ。

上京した当初は「これが江戸っ子の粋ってやつか」と真っ赤になったちんちんの先っちょを水風呂で冷やしつつ感心していたが、よく見ると誰も50℃の湯船なんて浸かってやしない。皮膚の感覚機能が完全停止した出がらしジジイが入っているのみだ。

それに比べてぬるめの銭湯はいい。いつまででも入っていられる。僕の行きつけに問題があるとすれば「入れ墨の客がやたら多い」ことぐらいだ。やくざもぬるいお湯が好きらしい。ほんとに江戸っ子って熱い湯が好きなの?

しかしあるとき問題が起きた。サウナに入って水風呂に浸かったところめちゃくちゃぬるい。循環装置が不調らしく、温度計を見ると24℃だ(普通の水風呂は10℃台後半)。サウナ後の男が水風呂に入る→ぬるくて体が冷えない→なかなか出ない→水風呂が汗だくの男で埋まる→さらに温度が上がる、という地獄のループが完成してしまった。

水風呂が僕とクマみたいなやくざたちで満員になり、いよいよ普通の風呂と大して温度が変わらなくなってきた。そのとき「すみませんすみません!」と銭湯のスタッフが入ってきた。やくざの誰かが「水風呂がぬるいんだよオラァ!」とクレームを入れたんだと思う。直してくれるのかな、と思ったら、スタッフが台車で運んできたのは長さ1mぐらいの氷ブロック×3。これを湯船に入れ温度を下げよう、という策らしい。

やくざたちが黙り込んだ。全員の頭に浮かんだ画はおそらくこんな感じだ。

しかしそれを口にするのはあまりにも安直で野暮というものである。笑いを噛み殺し「あとでTwitterにでも書こ」と思ったそのとき、隣の50代やくざ(ハゲ。鯉の入れ墨)が僕の肩を叩いて大声で言った。

「おいニーチャン、これじゃまるで俺たちしろくまちゃんだな! がっはっは!」


しろくまちゃん?

そのあと珈琲館でホットケーキ食って帰った。

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