夢十夜

 渋谷マーク下。ハチ公前ではなくて、あえて選んだ待ち合わせ場所。そんな人混みの中で私のことをじっと見つめている、奴がいる。

「そろそろ行きませんか? カフェも混雑してるでしょうし」

私は渋々頷いた。奴が走り出す前に大股で歩き出す。早歩きで歩く私に遅れまいとして、ぴょこん、ぴょこん、と奴が必死でついてくる。ここで走り出したらついてこれないだろうな、と漠然と考えるも、私のよく分からない良心が邪魔をして駆け出すことはできなかった。どうしてこうなってしまったのだろう。私はただ出会いが欲しかっただけなのに。皆と同じように恋愛がしてみたくて、興味本位でTinderを入れただけなのに。そしてその中で一番顔がタイプだった彼と、初デートの約束をとりつけた、そう思っていたのに。来たのは彼じゃなかった。それどころか、人間ですらなかったのだ。

「早く行かないとランチの時間終わっちゃいますよ」

私は1mほど後ろにいる「奴」……緑色の蛙に告げた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?