ヘル中

人より牛や羊の方が多く生活するゴリゴリの過疎地域の小学校に通い、中学校が一つしかない、そんな町の人間だった私が小学生の頃に取得した免許がある。

自転車免許。

自転車の使用を4年生までは私有地内のみ許されていて、5年生になったら免許取得の教習と試験を受けて、合格したら紙の免許が発行された。ヘルメットを着用、免許の携帯の上で公道の通行を認められた。それが通っていた小学校の規則だった。

自転車は軽車両とまず教えられ、左側通行、手信号、右折の危険性、二段階右折のやり方などを学び、校庭に道路を模した白線を引いて実施試験を行った。

車なんてそんなに通るわけじゃないのに何を大げさな…と思う人もいるだろうが、確かにそこまで交通量は多くない。だが、田舎の道路にはまともな歩道が少ないのだ。歩行者優先という絶対ルールがあるものの、車線のワキに申し訳程度に入っているガタガタの白線だけでそれを守り抜くのは非常に厳しい。歩行者も自衛が必要なのだ。その状況で自転車を運転するのは、都会のきれいに舗装された道路よりハイリスクなのである。

また、田舎は脇道に入ると砂利道が当たり前だったので通常使用でも普通に危ない。

自転車に乗った以上、歩行者ではなく車両を扱う人間として交通ルールを守れと、今思ってもかなり厳しく指導された記憶がある。

都市部の高校に進学してから「ヘル中(自転車に乗る時はヘルメット着用の校則がある中学校を指す)」と笑われたこともしょっちゅうあった。ヘル中=田舎の学校、というパブリックイメージがあったのだ。

それからずいぶんと長い時を経た今、小学生の頃にしこたま覚えた自転車運転のルールが生活の中でこんなに輝くとは思いもよらなかった。教育とは即効性がないが、確実に自分を助けるものなのだと強く感じざるを得ない。

自転車怖い。

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