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for serendipity1096「あなたは一体この運動を、何年くらいかかる見透しではじめられましたか?」

作家の自伝シリーズ『平塚らいてう-わたくしの歩いた道』(1994)より。

 大正九年、第一次世界大戦役のデモクラシーの高潮期、女性みずからの手で日本における最初の婦選運動が開始されたその頃のある日、私は、前述のように、当時代議士中の進歩的分子であった永井柳太郎氏を議会に訪問し、婦選案の提出者の一人になって頂くことをお願いしました。婦選賛成者の永井氏はもちろん快諾されたのですが、そのあとで、「しかし、あなたは一体この運動を、何年くらいかかる見透しではじめられましたか?」と、やや改った調子できかれました。「これは容易なことではないと覚悟しています。もっとも早くて十年と思っていますが」と、私は答えました。そのとき私は三十四歳でした。自分が五十になるころには、おそくも日本の女性は参政権をもち、いろいろな婦人問題も解決されていようと心の中で思っていたのです。しかし、私はいつか六十を越してしまいました。
 いま、敗戦の苦汁と共に、私たち女性の掌上に、参政権が突如として向うから落ちてきたのです。まったく他力的にーー。なんという運命の皮肉でしょう。そこには二十数年にわたる多くの婦人運動者の努力が横たわっているのです。それを思うとき、私の胸には久しく求めてえられなかったものが与えられた喜びを、素直に朗らかによろこびきれないものがいっぱいつかえているのでした。(237ー278p)

 





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