怪物とカラス

怪物とカラス

カラスの羽を濡羽色という。
美しい黒髪の例えだったりする。黒であってただの黒ではない。鉱石がひかるような、くらい虹を生む。
カラスの黒さを見ていると、どことなく不安になってくる。真っ黒なかたまり。鋭いくちばし。黒猫や黒い犬だっているのに、カラスだけ、おそろしさが違う。
鳥の先祖が恐竜だから?
ならば猫は?小さな肉食獣なのに。犬はもともと狼なのに?
多分一番は、野良だからだと思う。街に溢れていても、直接関わり触れ合うわけじゃない傍観者だから。いつ鋭い爪を立てられるかわからないから。そんな気がする。
怪物のデザインに黒い羽、カラスモチーフなんて多いと思う。八咫烏なんていうのもいるし。
「ハウルの動く城」のハウルの怪物姿なんかも、私はカラスを思った。
怪物に対する畏怖と、カラスへの感情は割と似ていると思う。わかりきれない恐怖、というか。「なにをするか、されるかわからない」という恐怖が。あるのではないだろうか。
怪物、というと、ま昼間にいるイメージはない。だいたい夜だ。くらいところにいる。
「かいじゅうたちのいるところ」とかは?
だって、人間は到底たどり着けないところにいるじゃないか。隠されている。
真昼に怪物になりうるのは人間だけだ。暴かれた瞬間、「違う」と周りから排他される。「そんな人とは思わなかった」と、無意識な同率同調の輪から外されてしまう。
おそろしいというもの。理解のできないもの。
けれど怪物は意味もなく暴れない。カラスだって。
守りたくて暴れるのだろうか。悲しくて暴れるのだろうか。
私たちの中の怪物は。
静かな傍観者になりたい。カラスのような、真っ黒な瞳で。怪物は夜に身を潜めて、いつも私たちのそばにいる。

今回はここまで。

#しおの雑文庫 #エッセイ

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