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3月9日

 2021年冬アニメでとても楽しみにしているのが『PUIPUIモルカー』。10話「ヒーローになりたい」では、アメコミヒーローに憧れるアビーがオタクの飼い主の手によって痛車にされてしまう。ストーリーはハッピーな雰囲気で終わるのだが、一口では語りがたい余韻があった。

 今回のストーリーを駆動する主体は3者だ。「モルカーのアビー」、「飼い主のオタク」、「プリントの魔法少女もるみ」。この3者は、相互に影響は与えているのだが、意思疎通をしていない。AがBに何かを伝え、それを受けてBがAに応答する、というものではない。
 「飼い主のオタク」は「モルカーのアビー」に美少女のデコレーションを施すが、それはアビーの望みではなかった。「プリントの魔法少女もるみ」は不思議な力で「モルカーのアビー」に翼を与えるが、それはアビーの要請を受けたものではないし、なんとなればその業に気づかれていない(かもしれない)。
 しかし、それぞれの個性と行動が絡んだことによって、結末ではネコの救出、称賛が果たされる。アビーが空を飛べたのはもるみの魔法少女という特性と心遣いによるもので、それはそもそもオタクの趣味から拠っている。3者は意思疎通はしないが、ドミノ倒しのように影響を与え合っている。
 われわれのあいだに、無知はあるし傷つくこともある。オタクは我がモルカーの望みを知る由も無かったのかもしれないし、アビーが自分の趣味でない姿にされたことをひどく恥ずかしいと思ってしまうのは致し方ない。ハッピーな結末でもこのことは否定されていない(解決していない、とも言えるかもしれない)。ただ、そのすれ違いを経て、ネコを救出したヒーローは誕生した。それは事実だ。
 祝福は主体同士の理解でもたらされるのではない。お互いがすれ違ったまま全員が気持ちを共有することもあるというだけだ。10話はそのようなリアリティを感じさせる、深みがあるアニメだったと思う。

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