不要不急な消費とはなにか

一部の統計データで、衣料品類の1-3期の売上は63%ダウンという話しを聞きました。おそらく4-6期も同様か、もしくはさらに下がりそうとのこと。さらに夏物は単価が低いので「量」が出ないと利益が出ません。ですので状況と合わせて鑑みるとアパレル産業は想像以上に厳しい状況に追い込まれて行く事になりそうです。

アパレルが仕入れる商品数量は、前年度比を上回る量が前提です。そしてマーケティングやブランド戦略で、増やした生産量を含めて売り切って行こうとします。ECにも投資し、販売店や販売先も増やし、顧客との「接点の数」を増やすことでの成長モデルです。

しかし今回はその顧客接点が一気に停止しました。買ってくれる客との機会数を増やし、豊かな体験で満足を与えるというビジネスモデルが、途端に正反対に作用し始めます。まず体験を与えられません。閉鎖された店舗に陳列されていた商品は、シーズン中なのにそのまま在庫になりました。今年の春物と夏物はすでに発注されていましたので前年度対比に見合う量で発注済みの商品が続々と入荷します。だけど売りようがない。

もうぞっとする量の在庫が残ります。倉庫は溢れかえり新たな保管場所のコストも必要になります。在庫は財務的にはキャッシュを生む源泉であり内部留保ですから数字のマジックは適用出来ますが、今回はフロントが動かないので魔法の期限は短くなります。

そして同時に、いま先が見えない中で秋物の発注量を決めなければならない最終的なタイミングです。作らねば売れないので発注せねばならないが、状況が続くと発注したものが全部在庫になってしまう。これは恐怖です。そもそも春夏の在庫が溢れているのでキャッシュに変えようにも、各社同様で飽和な上に世界どこにも引き受け先がない。どこも戒厳令で日本より消費の制限が厳しいわけです。もう数量と販売機会の境目で意思決定を迫られる発注担当者の胃がキリキリと痛む音が聞こえる感じです。

ファッションと言えば、メイクアップ、アクセサリー、ジュエリー、シューズ等々も一蓮托生に思えます。

メイクアップは「家にずっと引きこもりで、出かけてもスーパーの買い物だし、顔はマスクしているし、そのままスッピンでええか」な奥さま達が増えておられるようで、着飾って出かけるわけでもなく、逆にホテルのランチに出かけても白い目で見られて余計な噂になりたくないしと。もうガチメイクの機会が激減しているわけです。そりゃメイクアップ商材の消費量も減るわな(笑)。

そんな中でジュエリー業界の売上も想像を絶する下落率とのこと。さもありなんという感じですが、下落の度合いが想像を超えていてビビりました。また原油価格の暴落もあって原材料としてのゴールドやプラチナは価格が急騰していて止まる勢いは見えません。それを加工して売るジュエリー業界にとっては利益率が恐ろしく薄いものになります。

ジュエリーは服に比べれば、いざとなったらダイヤを外して溶かせばいいという商材ですが、そもそもいま「自分へのご褒美」とかで指輪やネックレスに高額を費やす消費行動な気分じゃないわけです。

そんな中でジュエリー必須なイベントはブライダル。婚約指輪と結婚指輪は必須とされていますので、日本のジュエリー業界が一気にその分野にシフトするのは理解出来ます。と言っても花嫁が急に増えるわけじゃないし、いわゆるパイの取り合いですので、木を見て森を見ず的なというか悲哀を禁じ得ません。

なぜならブライダル業界の苦境や式場の倒産も、すでに報じられているように、いま三密を強いるような大規模宴会はご法度で、以前のような新郎新婦の家族と友人が一堂に集っての披露宴など夢のまた夢なわけです。披露宴には高齢な親戚も呼びますから、さらにヤバいわけです。

つまり花嫁の一世一代の晴れ姿を演出する産業は、いまは自粛対象であり、ウェディングドレスも会場設営業も記録のカメラマンも仕事ゼロですから、その気分の中で、笑顔たっぷりな花嫁写真なカタログを見せられて当社のダイアモンドは永遠性が…みたいなストーリーで指輪はいかがですかと言われても、そりゃピクリとも来ないよねぇ…

今は出来るだけお金を使いたくないというマインドが先に来るのは仕方がないわけです。ジュエリー業界には、最大の稼ぎ時であるクリスマスシーズンまでに世の中の気分が昨年までのように戻っていることを祈るばかりです。

今回は、いわゆる「ハレ」なことや、楽しい思い出になる「コト」的なビジネスは、舞台も衣装も演出も、すべて「不要」のポジションに追いやられてしまいました。

まさに我々の生活の中で、いったい何が「不要不急」なものなのか。その順位づけが問われています。そしてその我々の認識がそのまま経済指標に明快に現れて「そうか、これらも不要不急なものだったのね」と、いままで無意識だったことが色々と明らかになって行きそうです。

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