雨が降っている時の春

 随筆のようなものを書き始めるにあたって、今の季節は春である。このような状況ならば、随筆の先駆けである枕草子の書き出しにあやかって春について語らなければならない。このような強迫観念にかられて、春について考えてみる。

 一般に春と言えば、晴れて暖かい、穏やかな陽気を思い浮かぶ。例えば、春の時候の挨拶を調べみると、「春光天地に満ちる季節」や「やわらかな春光に心躍る季節」など、うららかな日を表現するものが多い。これは、寒くて厳しい冬を乗り越えて、待望の過ごしやすい季節がやってきたという気持ちの表れのように思われる。私もこのような春の到来を待ちわびていた。

 うららかな春を待っていた一方で、天気が悪い春も悪くはない、と感じるようになった。その理由の一つに、雨の時は花粉の飛散量が少ないという実利的な面がある。そんな野暮な理由は置いといて、雨が降るときの春の景色は、花や新芽が色鮮やかで美しいことに気がついた。雨で霧がかっている白黒写真のような景色の中に、鮮やかに彩られた植物がある。その存在感が私の心を深く揺さぶった。

 雨の日は外仕事がまともに出来ないため恨めしく感じており、ましてや納期に追われている年度末は尚更であると思った。そんな時でも素晴らしいことがあることが気が付いて、少しばかりであるが慰められた気がする。

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