二択で聞かれたとき、正しく答えたい

 先日、不退転の決意をもって歯医者へ行った。この二週間ほど、歯にしみるような痛みが続いており、このまま放置するのは良くないと思ったからだ。今の住まいに引っ越して最初の歯医者だったため、新しい歯医者さんはどんな感じだろうかと不安だったが、歯の状態を丁寧で分かりやすく説明してくれる良い先生であった。歯医者が苦手でなるべく行きたくないと思っていたが、この先生ならば大丈夫だと思った。

 歯の痛みの原因は、前に治療した詰め物と歯の間に隙間ができて、虫歯になりかけているためと説明された。詰め物を交換する治療を行うことになり、麻酔をかけられた。ドリルが甲高い音をあげながら回転して、歯が削られはじめる。嫌な感覚がした。そのとき、先生から「痛くないですか」と聞かれた。とても難しい質問のように思えた。どういった感覚が痛いと言うのか分からなくなったからだ。私は答えに窮して、微妙ですと返事した。そのぼやけた返事の意味を先生はすぐに理解したようで、ドリルを止めて麻酔を追加した。

 先生に聞かれた時、歯が痛いとは感じなかったが、多少の感覚は残っていた。どこからの感覚が「痛い」で、どこまでの感覚が「痛くない」になるのか、その間の線引きに戸惑った。今になって冷静に考えると、聞かれたときの感覚をそのまま、「痛いとはいかないまでも、多少の感覚が残っています」と答えたらよかったかもしれない。もしくは、そもそも麻酔の目的は一時的に感覚をなくすことだから、感覚が残っている時点で少し痛いですと言えば正しかったはずである。

 これらの言葉がとっさに出てこなかったのは、答えが痛い・痛くないの二択、要するにはい・いいえ(英語ならばYesとNo)のどちらかだと思ったからだ。一方でこのやり取りのように、普通はこの二択で答えるべき質問をされても、実際の答えがはいといいえの中間であることも多い。物事の状態を正しく説明するために、今後は二択だけで答えようとは思わず、中間の状態も含めて言葉を考えていきたい。但し二択以外の答えばかりでは、曖昧なことばかり話して、何を言っているか分からないかもしれない。きちんと話すということは難しい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?