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交通の要:樺太と稚内を繋ぐ港はこうしてできあがった。

(稚内北星学園大学の授業で、学生が書いた記事)

 樺太は北海道宗谷岬の北方約43kmに位置する、縦に細長い島です。樺太の南半分は、日露戦争後のポーツマス条約により日本の領地となり、終戦まで日本人が暮らしていました。南樺太も含めて、現在ロシアが樺太全島を実効支配し、サハリンと呼んでいます。
 樺太対岸に位置する稚内は、この樺太へ向かう玄関口でした。樺太に向かう船に乗る、多くの乗船客が訪れた場所には、現在も当時の記憶を思い起こさせる建造物、「北防波堤ドーム」が残っています。これはどんな目的で建てられたのでしょうか?
稚内市民や観光客に親しまれ、街のシンボルともなっている北防波堤ドームについて、地元稚内で学ぶ稚内北星学園大学の学生が、考えてみることにしました。

強風高波で知られる稚内港

JR宗谷本線稚内駅よりフェリーターミナル方面へ徒歩5分にある半円のトンネルを真っ二つにしたかのような半アーチ構造の回廊があります。

「稚内港北防波堤ドーム」です。別名「利礼ドーム」ともいい、2001年には「北海道遺産」のひとつに選定されたほか、「平成15年度選奨土木遺産」に選定されており、稚内港のシンボル的存在となっています。
稚内は、強風、荒波で知られる街ですが、同時に海は遠浅で、大型船舶が着眼するには不向きな港でした。1923年(大正12年)頃から、埋め立てによる水深を確保する工事が進められます。工事の結果、高さ5.5メートルの北防波堤が完成します。しかし、宗谷海峡を越えてやってくる強風がすさまじく、高波が防波堤を超えてくるという事態が頻発していました。

波を防ぐ防波堤ドームの建設

港は完成しましたが、宗谷海峡を越えてやってくる強風や高波はすさまじく、乗船客が波にさらわれて海に転落する事故もたびたび発生しました。そこで、安全に貨客輸送できるようにするべく考案されたのが「北防波堤ドーム」でした。建設後、稚内駅からドームの手前まで国鉄の線路を延長し、同駅の構内仮乗降場扱いで「稚内桟橋駅」が開設され、乗客はドーム内を歩いて桟橋に待つ連絡船に乗り込めるようになりました。

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設計者は北海道庁の技師土谷実

稚内港北防波堤ドームを設計したのは、北海道庁の技師として稚内築港事務所に赴任した土谷実です。

土谷実の上司にあたる平尾俊雄所長は、「防波堤に庇を付け、その中に汽車が入る構造にしてはどうか。その横の岸壁に連絡船を着ける。そうすれば天候に左右されずに乗降できるようになる」と提案。土屋氏が設計を担当し、当時としては画期的なコンクリート技術を導入。波の力を和らげるような機能性も兼ね備えつつも、外見が美しい防波堤を設計・建築されました。1931(昭和6)年1月に建築を決定、わずか2か月で設計を書き上げ、同年夏に着工、1936(昭和13)年にドームの端まで鉄道が延長され、ドーム内に「稚内桟橋駅」開駅と、急ピッチで作業が進められました。

終戦と引揚げ

樺太地上戦によって1945(昭和20)年8月13日から23日までの樺太住民の緊急疎開では、7万6616人の避難民のうち9割近くが稚内に上陸、北防波堤ドームは立錐の余地もないほど混雑しました。戦前は樺太への出発点、終戦時には多くの引揚者を迎え入れました。
結果的に稚内の人口は急増し、人口が3万人を超え、1949年に稚内に市制がしかれました。
一方、北防波堤ドームは歴史的な役割を終えます。稚泊連絡船は消滅、これとともに稚内駅から桟橋駅に続く線路も消滅し、鉄道から船に乗り換える人々を守ってきた防波堤の役割は終わりを告げました。
「北防波堤ドーム」は様々な樺太と稚内の歴史を見つめてきました。

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北防波堤ドームの現在

防波堤としての機能は維持されており、以後も礼文島や利尻島への航路など多くの船が発着する稚内港を守り続けています。現在は北海道遺産の一つとして指定されており、周辺は整備され公園となっています。

感想
現在は人があまり訪れないひっそりとした場所となり、C55型蒸気機関車動輪や稚泊航路記念碑が置かれていたりと当時のものや記録など彷彿させられます。私も記念館などで調べた際、その当時の人が樺太と稚内とをつなぐ港をより良いものへとするために試行錯誤していたのが感じ取れました。しかし、北防波堤ドームのにぎわいは、わずか10年弱でした。今は、世界的にも貴重な港湾構築物であることや保存の声が多かったことから、原型通りに改修復元、一時解体、線路撤去の上、1978年(昭和53年)から1980年(昭和55年)まで3年がかりで復元工事を行い、現在の北防波堤ドーム公園となっています。こういった多くの声によってここまで維持されてきて、北海道遺産の一つになって道民としてとても感動しました。


(木村 / 2021年8月)



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