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鷹匠壽 予約への挑戦 3日目

今日も、浅草へ向う。
3日目ともなると、道中の景色も見慣れたものだ。昨日の岩松の押しの強さに、そろそろ、あのお婆さんも折れるころに違いない。
 
期待に胸を膨らませながら、駅から店の玄関の前まで歩いた。玄関前で、立ち止まって深呼吸をしようとしていると
中からは、楽しそうな笑い声が聞こえる。
 
既に先客がいるのなら、会話の邪魔になるかもしれないと思い、しばし店の外で待つことにした。


10分もすると「それでは、失礼します」と頭を下げながらアタッシュケースを持ったスーツ姿の男性が店から出て行った。
それを確認してから 、扉を開け 元気良く店の中に足を進めた。
 
 
 
岩松:ごめんく、、、だ、、さ
 
店に入るやいなや、いつものお婆さんと目があった。ごめんください と最後まで言わせてもらう前に、お婆さんはひどい剣幕でこちらを見ている。予約まで、あと一歩だと思っていたが、全くの勘違いだった。
 
 
店のお婆さん:なんだよっ!あんた毎日来るの?誰なんだよ。
 
 
お婆さんは、昨日と違って、かなり怒っているし言葉も荒い。予約させてもらいにきて、これほどまでに怒られるのか。さっきまで、店からは笑い声が聞こえてきたのは嘘のよう。
ふと横に目をやると、お婆さん以外に 若旦那と思われる男性が座っていた。男性も険しい顔をしている。その男性に向かって、お婆さんは岩松の説明を続けた。
 
 
店のお婆さん:この子、予約させてくれって3日間連続なのよ。だめって言ってるのに。いい加減にしてほしいわねぇ。わかる? 昨日説明したでしょ?
禁猟の時期に鴨を取ったら私達が捕まるのよ。
 
 
すると、横の男性が口を開いた。やはりお店の人のようだ。
 
 
若旦那:何回来たってだめ。あのな。うちは会員制。人の輪が大事。
勝手に来て、自分も輪に入れてくれっていう自分勝手なことをしちゃだめ。
何度来ても無理なものは無理。
 
 
 
岩松はこのとき、心の目で 『新たな強敵現る。』というテロップが見えた。
 
そして男性は続けた。
 
 
若旦那:世の中はな。7人友達がいればすべて世界中の人と繋がるんだ。知ってるか?
知り合いを探せ。それが出来ない人は、店に入れないんだよ。
そこまでしても店に来たいという人がいるんだよ。
 
 
そして畳み掛けるようにさらに続けた。
 
 
 
若旦那:さよなら!!!!
 
 
 
岩松は、強烈な最後の『さよなら!!!!』のフレーズで、それ以上の言葉を発することが出来なかった。。。
後ずさりしながら、無言で店を出たのであった。
 
 
 
途方に暮れながら浅草から渋谷へ向う電車の中で、岩松はふと思った。
 
 
ここまで食べるために必死に誰かにお願いしたことが、未だかつてあっただろうが、
いや、一度もない。食に携わる者として、ここで食い下がるわけにはいかない。
あの店の鴨を食す日まで、
 
やってやろうじゃないか、今日も すき家でバイトを。
 
  
 
4日目に続く

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