見出し画像

鷹匠壽 予約への挑戦 4日目

今日こそは予約を取らなければ。。。
気づけば、鷹匠寿に迎う電車の中で、スマホのYouTubeで無意識に『土下座』と入力していた4日目。
 
そんなことをしていると、寿に到着した。
店の扉をあけ、挨拶するも、2日目と同じく 誰もでてこない。

30分程 店の前で待っていると若旦那が、店に戻ってきた。
扉の前で、目があった直後、
 
 
 
若旦那:帰れ。
 
 
扉を閉められそうになってたので、慌てて店の中に岩松も入った。
 
 
岩松:そこをなんとか、私は本気なんです。いつでもいいので予約がとりたいんです。
 
 
若旦那:そんな事は知りません。帰った帰った。困るんだよ。
 
 
 
ここしかない。土下座だ!!!
 
目を合わせたまま小刻みに5歩下がる。右膝をつき、左膝をつく、手をハの字で、頭を地面から1cmギリギリまで下げる。
 
 
岩松:すみません。お願いします。このままでは会社をやめる事になります。
最後のチャンスなんです。よろしくお願いします。
 
 
つい、口から出まかせがでてしまった。
 
 
若旦那:だめだよだめ。うちの予約はねぇ。3年かかるの。わかる?
 
 
3年!? 聞いていない。日に日に、岩松が下手に出ていることを良いことに、若旦那も調子に乗ってきているように感じる。
 
 
しかし、男岩松、得意の泣きそうな声を出して土下座したまま粘る。
 
 
 
岩松:そこを、そこをなんとか!!!
 
若旦那:だぁぁぁぁぁぁめ。
 
岩松:そこを、そこをなんとか!!!
 
若旦那:だぁぁぁぁぁぁめ。
 
岩松:そこを、そこをなんとか!!!
 
若旦那:だぁぁぁぁぁぁめ。
 
 
3回ほど、繰り返したが全く効果なし。むしろ若旦那も楽しんでいる気がしてきた。
 
 
 
土下座成功法には、相手から頭をあげろと1回言われただけでは、上げず、肩を叩かれて、やっと頭をあげろと 説明に書いてあった。
私もそのつもりで『もう頭を上げなさいと』と 肩を叩かれるのを待っていた。
 
 
 
しかし、若旦那は、そのまま私に背を向け厨房に行ってしまった。
 
岩松は、この後、どうするのか迷った。このまま帰るのか?いや帰れない。
 
10分ほどだろうか、土下座をし続けて待った。
 
 
むこうから足音が聞こえてきて、若旦那が戻ってきた。
もういいよ、と肩を叩いてくれるのか期待をした。
 
 
若旦那は、タバコにそっと火を付け、こう言った。
 
 
 
若旦那:あんたの都合は知らん。
 
 
 
嘘泣きモードだった岩松、いつのまにか 本気で泣きそうになっていた。
 
 
岩松:何をすればいいですか!?何でもします。掃除も、食器洗いも、買い物も。何でもします!
何をすればいいですか!?お願いします。
 
 
 
若旦那:うーーーーーーん。だめ。わかる? だめ。何度頼んでもだめ。
 
 
 
岩松:どうかお願いします。妻もいるんです。
 
 
とっさに全く関係のないことを口にしてしまったが、私の土下座は続いた。
 
 
 
若旦那:世の中には、どうしようもできない事があるの?わかる?これ以上粘ったら警察を呼ぶよ。
 
 
世の中にはどうしようもない出来事。それは天災。いや、鴨を食う予約。土下座は続いた。
 
 
 
岩松:どうすれば予約できるんですか?教えてください。なんでもします。知り合いに頼めばいいですか?
 
 
若旦那:いや、知り合いに頼んでもだめ。うちはね。予約は3年かかるの。会員制なの。
あんたのできる範囲でがんばりなさいよ。これから集中してやる仕事があるんだよ。警察本当に呼ぶよ。
 
 
岩松:鴨を取ってきたらいいですか?なんでもやります。私に何ができますか?
 
 
若旦那は、少し考えてこう言った。
 
 
若旦那:それじゃぁな、今のあんたにできる事を言ってやろうか。
 
 
そして、若旦那がついに、大声で叫んだ。
 
 
 
若旦那:帰るこったな!!!!さいなら!!!!
 
 
 
 
 
岩松:・・・・・。
 
 
土下座していた岩松は足をあげ、
なぜだか、
 
 
岩松:勉強になりました、ありがとうございました。
 
 
と言って、憔悴しきった表情で店を出た。
 
 
 
 
 
 
すると、店の前には、2日目に来た業者らしきトラックが止まり、店の中に何か運んだ。
岩松は、ひらめいた。業者のトラックの後をつければ、鴨の仕入先がわかるんじゃないか
 
土下座で頭が冴えきっていた岩松は、すぐに振り返り、走り始めた業者のトラックを猛ダッシュで追いかけた。
 
 
 
途中まかれそうになるが、近くの浅草の小さな肉屋にたどり着いた。
 
『肉のとりせん』
 
店の名前を確認すると、スマホで電話番号を検索し、すぐに電話をした。
 
 
 
 
岩松:あのー。鴨ほしいんですけど。売ってますか。
 
 
肉のとりせん:ありますよ。
 
 
岩松:鷹匠寿と同じやつ。ありますかね。
 
 
肉のとりせん:ありますよ。
 
 
 
ついに、ついに、若旦那を飛び越えて、鴨本体にたどり着いてしまった。嬉しさのあまり半泣きになりながら、続けた。
 
 
 
岩松:いくらですか?
 
 
肉のとりせん:1羽●●800円。
 
 
岩松:在庫どのくらいありますか。
 
 
肉のとりせん:50羽くらいかな。あと、串とか鶏も、うちからだよ。
 
 
岩松:すぐ、ほしいです。
 
 
 
 
 
完全にもう、若旦那に勝ったと思った。土下座からのこの展開。むしろ、鷹匠寿の斜め前に店を出してやろうか と思うくらい邪悪な目に変わっていた。
 
 
 
 
 
肉のとりせん:あ、でもその50羽は、契約だから鷹匠寿の許可がないと、売れないなんだよ。ごめんね。
 
 
岩松:値段、倍出すんでダメですか?
 
 
肉のとりせん:ごめんねぇだめなんだわ。でもあなた、何で鷹匠寿でうちの肉使ってるの知ってるの?
 
 
岩松:いやーちょっと噂で聞きまして。それでは失礼しますー。
 
 
 
 
 
面白くなってきた。岩松が夢見た鴨、あと一歩だぜ。

5日目に続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?