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2年と少し前の話をしましょうか


力尽きるまで
両手でベルトを引っ張った

その後のことはよく覚えていないが
目が覚めると
私は部屋に倒れていて

首には役目を果たせなかったベルトが
疲れた私と同じように緩んで
だらしなく纏わりついている

「はぁ〜」
無機質な天井を仰ぎながら深い溜め息

こんなことさえ上手くできないのかと
再び目を閉じると
一筋の涙がベルトを濡らした



車窓から柑子色に染まる空を見上げながら
ため息をつくのが私の日常だった。

何をするにも八方塞がり。
落ち着く場所になるはずだった家は
もはや一番落ち着けない場所になっていて
いつものスーパーの駐車場で
空を見上げては溜め息ばかり。


そんな毎日が苦しくて
自ら終焉を迎えようとしたけれど
それも叶わず
何もできない自分がますます情けなくなっていた


ある日
いつものように空を眺めながら
何となく開いたスマホ

なぜだか理由は分からないけど
「出会い」と検索している自分がいた

いま思えば
自分の存在意義めいたものを少しだけ体感したかったのかもしれない



登録後、直ぐに沢山のメッセージが届き始めたが
そのどれもが気持ち悪く感じた

おそらく実際に誰かと会うつもりはなく
ただの暇つぶしだったためだろう

そんな中
なぜか気になるメッセージが1通

特別な内容ではなく
むしろシンプルな文章だった



ふと気付くと
最初の言葉は「初めまして」と「はじめまして」のどちらが良いかしら
と、考えている自分がいた


いや、待って。
そういうことではないよね
その気もないのに下手にお返事するのは相手に迷惑がかかってしまうでしょ


は?
そこまで考えなくて良いでしょ
どうせこの人は他の女性にもメッセージを送っていて
どうせ何人もの人と会ってるよ
そんな人に気を遣う必要なくない?


いや〜でも…
そんなこと決めつけちゃって良いのかな
もしかしたらそんな人じゃないかもしれないし…

いやいやいや
だとしたらモテない君で気持ち悪い人なんじゃない?
臭いとか容姿にかなり問題あるとか

うわ〜
それはやっぱり気持ち悪いな
変に期待を持ってしまうとガッカリしちゃうパターンじゃん

え?もしかして会うつもり?

いや
そこまでのことは考えてないけど
そんなの分かんないじゃん
やり取りしてたら会ってみたくなるかもしれないし

…え?そもそも
ただの暇つぶしじゃなかったの?


こんな回想を何巡も繰り返しながら
なぜか気になる1通のメッセージにお返事をしたのが
2年と少し前のこと







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