地方自治論・日本地方政治学の教科書・参考書おすすめまとめ


はじめに

所属サークルの方の協力もあり、地方自治論の教科書を読み比較する機会がありました。その成果を踏まえ、教科書評をまとめました。
地方自治論ないし日本地方政治学(←地方政治を地方政府という中央からの制約を受けてはいるが一政府・政治主体として位置付けたいという自分の考え的にはこう呼びたい)は、伝統的には行政学の一分野として取り扱われてきましたが、2000年に入ってから?続々と日本地方政治学の教科書が出版されています。

日本地方政治学の研究は急速に進んでいて、なるべく最新のものを選ぶことをお勧めします(この記事もどうせすぐ古くなっていくので)。
それでも、多すぎてどれを選べば?という状況になっていますので、参考になればいいなと思って書きました。
今回対象にした本は、おおむね大学の書籍部で販売されていたものの中で最近に出版されたものを取り扱っています。

理論面でおすすめとがった3冊

では早速、おすすめの本2冊から。

北村・青木・平野(2017)『地方自治論――2つの自律性のはざまで』有斐閣

政治主体としての地方自治体(地方政府)としての性質に力を入れ首長や議員の実態を新たなデータも示して示しながら、さらに2つの自律性という理論を構え、政策論ではその自律性が政策にもたらす帰結を示してみせるという、やり手の構成。
入門書として内容はバッサリ切られていますが、理論的に面白く2冊目や3冊目としても推奨できます。
ストゥディアらしく体裁が綺麗なのも好感ポイント。
筆者らとゲストが加わった座談会の記事も、後から読んでみると面白いでしょう。

曽我(2019)『日本の地方政府』中央公論新社

『行政学』ではぶっちぎりの理論構成を見せる曽我の新書。当然ながら実証ベースに、この手の本では珍しく(やりすぎではないかと思うほど)提言や主張も盛り込まれた点が特徴的。分量を3分の1削ったというから、出版社に過激な部分が残されたのではないかと思うほど。
いろいろな出来事をただ拾い集めただけでなく、互いに関連づけながら述べていくのはさすが曽我といったところか。文章もおおむね無駄がなく濃密なのも曽我らしい。
新書らしく安いのもいいところですね。曽我のインタビュー記事はこちら

曽我(2022)『行政学〔新版〕』有斐閣(第Ⅲ部「マルチレベルの行政」)

噂をすれば、曽我『行政学』の新版の登場。行政現象の特質を本人代理人関係の中から捉える本で、地方政府の部分は「マルチレベルの行政」として国際行政と同じ括りで論じられている点が大きな特徴でしょう。
とりわけ、「分離・融合」「集中・分散」と、「総合・分立」の軸で捉え切ろうとしている印象があります。
理論で凄みを見せる曽我流の見せ方なのだろう。易しくはないが、面白いと思う。
まあただ、見方として共通で綺麗という異常に、もうちょっと国際行政と地方政府とで現象も重ね合わせて示せるとこのモデル化の説得力も高まったのではないかという印象も残りました。
大きく改版されているので、ケチらず新版を買いましょう

網羅性のある教科書としておすすめの2冊

北山・稲継編(2021)『テキストブック地方自治 第3版』東洋経済新報社

日本地方政治学・行政学の大家村松から編集を引き継ぎ、内容を総とっかえして改版(?)した一冊。
章ごとに筆者が変わる形式で統一性に不安を憶えながら読んだが、村松の後らしく政治・実態ベースの書き振りは共通していて、何より基礎から新しい研究成果までおさえられていてよかったと思います。
どうしても網羅性に不安なら、次の真渕(2020)と合わせて読んでおけば心配なはないでしょう。
中身には関係ないですが、紙が分厚いのが気になりますかね・・・

真渕(2020)『行政学〔新版〕』有斐閣(第Ⅲ部「地方行政」)

公務員試験でも定番になってきたらしい真渕本の地方行政の部分。「地方行政」といってはいるが、初版を気にしているだけで新版では議会などの説明も加わりベーシックな地方自治体・地方政府の教科書になっていると思います。
記述も網羅性ありかつ安定感がありますが、比較的最新の官民の境界線の問題や住民参加の題材が省かれているのは気にならないというと嘘になります。が、まあ基礎は押さえられるでしょう。
初版は章単位で抜けがあり網羅性に欠け難点あるので、必ず新版を手にするよう

残りの2冊

宇野・長野・山崎幹根編著(2022)『テキストブック 地方自治の論点』ミネルヴァ書房

正直最初はなかなか波に乗れなかった本ですが、きちんと教科書として網羅性を求めるなら安定感のある一冊だとは思います。理論構成がそんなに工夫を感じなかったのと、特徴とされている論点がそんな面白いかといえばうーんという感じはしましたが、章立てと論点が対応しているので、章立ての参考に論点を流し読むようにするとだんだん波に乗れてきました。章冒頭の紹介は結構好きです。
宇野の専門分野の官民の境界の問題がきちっと論じられているのは好感が持てます。
結果的には嫌いではないんですが、おすすめでたくさん入れるとおすすめにならないので、ごめんなさい。
(そういえば夕張の紹介が真渕っぽいなと思いましたね)

礒崎・金井・伊藤(2020)『ホーンブック 地方自治 新版』北樹出版

いい点はというと、増刷を続けていてそこそこ売れているらしいということ。
中身の面は、正直全然いいと思えませんでした。分類もよくわからないし(「制度論」に対置されるのは「実態論」であって、機構論も制度の一部じゃないですか)、理論的にいまいち。内容も実態論が少なく制度論ばかりで、「古風な」(というより古臭い)政治学という印象。極め付けは政策論のダラダラぶり。前後の部と対応関係はなく、ただただ各々の制度が述べられていくだけのような感じがして、読んでて嫌気がさしました。
一つだけ評価するとすると、住民参加について多様な形態を触れているところ、くらいでしょうか。
初版が出た頃はよっぽどいい教科書が他になかったのですかね。(保身のためにここまでにしておきます)

その他の教科書

なお、今回取り扱わなかった本の中には、2010年以降のものだけでも次のようなものがあります。

  • 入江・京編著(2020)『地方自治入門』ミネルヴァ書房

  • 福島編著(2018)『地方自治論 第2版』弘文堂

  • 幸田編(2018)『地方自治論ーー現代と未来』法律文化社

  • 橋本編著(2017)『新版 現代地方自治論』ミネルヴァ書房

  • 柴田・松井編著(2012)『地方自治論入門』ミネルヴァ書房

  • 稲継(2011)『地方自治入門』有斐閣

これらも適宜ご参照していただくと良いと思います。
特に、コンパクトさを求めるなら先の曽我(2019)『日本の地方政府』と合わせ、ちょっと古いですが稲継(2011)が定評があるようです。
逆に頁数で大部の教科書としては、増刷もされている入江・京編著(2020)が特徴的です。

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