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友達に絶交された時の話

要約
多分性格が合わなかったし、八割くらいは私が悪い。たぶん。

高校2年生のとき、友達に彼氏ができた。その子を仮にAちゃんとする。当時私達は3人グループで、Bちゃんと私はAちゃんの春を祝福した。季節的には夏だったが。その後すぐ、Bちゃんにも彼氏ができた。グループの話題はほとんどが恋人の惚気と愚痴で持ち切りになった。私は取り残されたままだった。焦った。だから中学生のときに抑え込んでいた恋心を開放することにした。Cくんのことが好きだと言うことにしたのである。Cくんは別の高校に進学していたのでぼやかすのも簡単だった。

しかし片思いを前にした女子高生というのは猛攻撃をしかけてくるものである。連絡しなよとひたすら背中を押したり、いつまでも動こうとしない私に喝を入れたり、三人のグループLINEの名前を『Cの彼女♡』にしたり、どうにかバレンタインチョコを渡せないかと画策したり。当時の私は「これが普通の女子高生グループか」と思って、仲間に入れたことに勘当しながら返事を待ってはドキドキしていた。そして告白し、若干の希望を残しつつ振られた。あ〜……という雰囲気が流れたが、しかし彼女らはまだまだ押せという態度を崩さなかった。おそらく亀裂はそのあたりから入った。

多分、私はとっくにCくんのことを好きじゃなくなっていたのだ。中学生時代にCくんへの恋は終わっていた。そう考えるのが妥当だ。『好きな男の子からの返事を待つ』という行為にドキドキしたりしたが、その恋心は何割か嘘だったんだろう。今にも消えそうな風前の灯火を、グループから外されたくないという一心で無理矢理燃やしていたにすぎなかったのだ。いつしか私はCくんにアタックするのが申し訳なくなり、恋愛に消極的になっていった。それと同時に、二人と接するのがストレスになっていった。Aちゃんのことは好きだったが、Bちゃんがどうにも嫌いだったのだ。

Bちゃんはグループ内で二番目に彼氏報告を聞いた子だったが、実はBちゃんが一番交際経験が豊富だった。Bちゃんは明るく、気軽で、男の子から告白される回数が多かったのだ。中学の頃も何人か恋人がいたらしい。そのうち最後の恋人とは一番付き合っていて楽しかったらしく、しかし帰りの時間が非常に遅くなったことで親から交際関係を解消された。相手から離れるために引っ越しまで行ったらしい。そういう経緯で別れたものだから、Bちゃんは元彼に未練タラタラだったようだ。そんな状況で告白されたBちゃんは、元彼を忘れたくて告白に了承したらしい。しかしBちゃんと元彼は再び出会った。狭い世間なので出会うこともある。そうして数ヶ月の浮気を経て、Bちゃんは彼氏と別れて元彼と復縁したのである。この話を聞いて、私はBちゃんが相当嫌いになった。Bちゃんの彼氏は誠実だったが、元彼の方はチャラかったので、私は彼氏推しだったのである。彼氏はおそらく浮気を感じ取っていたのだろう、勉強に専念するから別れようと向こうから振っていた。教室で元彼のことを話していたんだからそうもなる。Bちゃんから黒星を付けられることがなくてよかったと思っている。

繰り返すが、私はBちゃんのことが嫌いだった。Aちゃんのことは好きだった。大人しくて可愛い女の子だったので。だけどAちゃんとBちゃんは仲が良かったので、Aちゃんと話すときはBちゃんとも話さなくてはならない。それがひどく苦痛だった。私はストレスから口が悪くなり、二人の間に毒を撒き散らしていた。本当はプリクラも自撮りも反吐が出るほど嫌だったし、『Cの彼女♡』というグループ名もゾッとした。相互不理解は望むところではなかったので、それを二人に優しめに伝えた。それが多分いけなかった。私は優しくしたつもりだったが、伝わらなかったのだろうか。それとも分かり合えないと見切りを付けられたのだろうか。これは事実から推測した想像だが、私のいない二人の個人チャットが一番盛んになり、私のいない二人だけで遊びに行くことが増えた。実際にハロウィンの仮装は私に言わずに二人で行う予定を立てていた。私は正しく邪魔者だった。

高校最後の夏休みが終わる2日前、私はAちゃんからLINEをブロックされていたことに気付いた。心当たりはあった。夏休みに入る前からどことなくギクシャクしていたからだ。1ヶ月未読無視されてる時点で気付けよとは思うが、私は見たいものしか見ていなかったのである。その夜は絶望した。何もやる気が出ず、ひたすらTwitterのTLをスクロールしていた。寝る気にならなかったが、誰かと通話するだけの元気も無かった。寝れば回復することは分かっていた。目を閉じるのが怖かった。自分を責めるだけの夜になりそうだったのを、インターネットで必死に止めていた。
Aちゃんは高校で最初に友達になった子だった。向こうから声をかけてくれた。お互い友達を作るのが苦手だったので、クラスで互いだけが仲良しだった。友達同士でホテルに泊まったのはAちゃんが最初だった。その後クラスが別れることもなく、途中でBちゃんとも仲良くなったりして、楽しくやっていたと思っていた。それは自分だけだったのだ。涙だけは出なかった。

夏休み明けの1日目、私は無敵になっていた。悪い方の無敵である。普段の半分くらいしか眠れていない上に、絶望までしていたのだ。おまけにクラス内には友達という盾がなかった。無くなるものなどない。だから私はAちゃんに小さめの声で聞いた。
「LINE、ブロックしたじゃん?」
最初はちょっと濁して聞いたが、聞き返されたのでストレートに言い直すことにした。
「え。してない」
は?と思った。「本当に?」と聞き返した。2日間の絶望で諦めていたが、悪い夢であるならそうであってほしかった。
「……間違えてしたかも」
Aちゃんは気まずそうな顔でそう言った。私は安堵に身を任せて、大きくため息をついた。良かったー、と声のボリュームを少し大きくして机になだれ込んだ。いろんな人をブロックした時に間違えて巻き込んでしまった、とAちゃんは説明した。私は安心感からまた無敵になった。握手したが、私が手にすがりついているようだった。自分でも気持ち悪いなと思ったが、無敵の私は私にすら止められなかった。どこかで冷静な私が何かを叫んでいた。

もちろんだが、私は何も知らされずにブロックされていた。しかし私にとっては地雷だった。別れの方法として一番嫌いなものが無言ブロックだからだ。LINEだとブロックされていることに気付けない。私のように鈍感だと1ヶ月や2ヶ月はブロックされていることに気づかないことがあり、無神経に話しかけては相手に精神的な負担を強いることになってしまう。相互不理解は望むところではない。だから私はAちゃんにこう伝えた。
「次ブロックしたくなったら『ブロックする』って言ってからして」
3〜4回は言った。もうブロックされていることに気づかないまま図々しくのさばるのは嫌だったのだ。冷静な私が「これだけは伝えろ」と言っていた。警鐘がうるさかった。勘違いだったとしても、心当たりがあったのは確かだ。次回があればこんなことがないようにしたかった。

結果、Aちゃんはその通りにしてくれた。
その日の夜のうちにLINEがきた。内容をまとめると大体こういうことだった。
「我慢してたけど一緒にいるのが辛いのでブロックします」
これをオブラートに包んで、もう少し親密さを足した言い方だった。私はAちゃんから事実上の絶交宣言を受けたのだった。冷静な私の叫び声は正しかった。一日余分に絶望したことを、実は結構恨んでいる。

翌日から私はAちゃんに話しかけないことにした。Bちゃんは嫌いだったので話すくらいなら一人になったほうがマシだった。同じクラスの友達はこの2人しかいなかった。こうして私は教室でぼっちになったのである。


後日談

ぼっちになった瞬間から諦められたら良かったが、現実はそう上手くいかなかった。卒業するまでは意味もなくAちゃんを見つめたり、皆目見当違いな恨み言をメモに書いてみたり、しばらく体調を崩したりしていたが、やがてゆっくりと諦めるフェーズに入っていった。時間が解決することはある。
これにて執着と後悔を終了としたい。

歯医者代がかさんでおり……(同情を誘う文章)