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「生涯投資家」村上世彰

非常に面白かった!企業財務や投資に関する視点を得られたので、新NISAが始まる前に読んでよかった!インサイダー情報による株式取引として逮捕されたニッポン放送事件の回想をはじめ、筆者が株主として世間の耳目を浴びた事件(東京スタイル事件、ニッポン放送事件など)が多く載っている。それぞれにつき、当時の対象企業の状況や筆者の株式取得・株主提案の意図が説明されており、全盛期(?)を知っている私としては大変興味深く拝読。今は「村上ファンド」は解体し、シンガポールで奥様・4人のお子様と暮らしながら個人投資家として生活しているそう。

 御本人曰く、金に物を言わせて傲慢に経営者たちに株主への利益還流を迫ったように見える姿勢は、日本の上場企業にコーポレート・ガバナンスを浸透させたいという熱い思いから出たものだということで、確かに本書の最初から最後までその理屈・理念は一貫しているように思われます。
 そのため、一度その理屈を理解できれば、本書は大変読みやすいです。筆者が重視するというROEを始め、企業財務や投資に関する専門用語は複数出てきますが、本書の内容が難解と感じられるほど多用されているわけではなく、かつ、ここに出てくる程度の専門用語は個人投資家初心者であっても知っておいて損はないようなものかと思います。
 
 筆者は、企業は必ずしも上場する必要はないと考えています。ただ、(筆者の視点からすると)何の考えもなく漫然と上場を継続するのは得策ではありません。株式価格と比較して企業の価値・財産等が高いにもかかわらず、利益を溜め込んだり、経営者が不当にその利益を自己のものとしたりなどするのであれば、それは配当という形で株主に還元したり、新たな利益を生むべく新たな事業に投資したりすべきであると筆者は信じています。筆者が株主になって経営者に色々と物申すのは、こうした信念を実現するためだとのことです。←企業は手元に金をためこまず、その金を使って企業価値の向上に努めるべきという主張は説得的に聞こえます。しかし、新型コロナのような未曾有の災厄を経験した後では、企業の価値向上というよりそもそも存続のために内部留保を増やすという選択がとられざるを得ないのではないか?と考えました。コロナ禍のようなケースをどのように考えるのか、筆者の考えを知りたいです。そういうときのために上場しているのだから、株式市場から資金調達すればいいだろ?ということなのかもしれません。

 意外だったのは、筆者が自身の投資スタイルを、企業価値と比較して割安に評価されている企業に投資するシンプルなものだと説明していることです。一瞬「私にも真似できるのでは!?」と血迷ってしまいました(笑)また、これに加え、IT企業を正しく評価することへの苦手意識を表明していることは、投資の神様バフェットと同じであり、「パクってません?」と疑ってしまうほど(笑)

 言い方や態度がキツく、そのせいで随分と攻撃的だと誤解されており、そこは反省すべき点だと筆者自身が述べています。ただ、本当に筆者の説明どおりの理念なのであればそれは一つの国や企業の在り方を示しているように思います。とはいえ、当然ながら自己弁護を多分に含んだ内容だと思いますので、これまで煮え湯を飲まされてきたと感じている人たちにとってはどう映るのかは分かりません…

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