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自衛隊の朝

自衛隊の朝はラッパで始まる。

ラッパを吹くわけではない。

ラッパを吹かれるのだ(放送が流れる)。

吹かれる時間は6時。

ラッパが鳴った瞬間に僕らは飛び起きる。

飛び起きて隣のロッカーから急いで着替えを取り出し、作業服に着替える。

着替え終わったと同時に、部屋を飛び出して廊下を全速力で駆け抜け、整列、点呼。

これがいわゆる「総員起こし」だ。

僕らは毎朝、この総員起こしに命をかける。

ちょっとでも遅いと罰を与えられるからだ。
しかも連帯責任(大抵は腕立て伏せ)。

時には反省文を書かされる時もある(この反省文の話はまた後日、詳しく書きたい)。

自衛隊の朝は濃い。きつい。朝からとにかくきつい。

今回はそのほんの一端だけでも書いていきたいと思う。


まず、5時55分に「総員起こし5分前」の放送がかかる。

この音がやたらでかい。

でかいから嫌でも起きる。

その瞬間、
「ウソ!?もう朝!?」
「また地獄の1日が始まる」
「このままずっと寝ていたい。今日こそは俺は起きない」

とか思うわけである。

ここでひとつ疑問が生まれる。


「さっきラッパで飛び起きると言ったが、その前に放送鳴ってるじゃん!?」
「その放送で起きて準備しちゃえばいいのに!?」


総員起こしには決まりがあった。

「5分前の放送で起きてはいけない」



...なぜ!?


わかった人はそうはいないと思うので、答えを言ってしまうと


海上自衛隊というのは普段、多くの場合、船の上で生活している。

船というのは何かしらの緊急事態が発生する。

穴が空いた。
火災発生。
日本の海域に他国の船が入り込んでいる。


など。


ではそれらが寝ている時に起こったら?

一目散に対応しなくてはならない。

つまり、朝からそれに慣れるための訓練をしているというわけである。


自衛隊は朝のラッパから訓練が始まるのである。


というわけで、

5分前の放送では起きてはいけない。着替えてはいけない。


つまり、5分間は寝たふりをしていなくてはならない。


(ここで思わず2度寝、3度寝をしてしまうのだが、夢ではもう総員おこしのラッパが鳴り、飛び起きて整列している自分がいる...また夢かよ)


そして、本当のラッパが鳴る瞬間を今か今かと待ち構え、鳴った瞬間に飛び起きるのだ。

しかも、総員起こしは早く来た順に整列する。

だから同じ部屋の人とも競争なのだ。

とにかく、誰よりも早く整列したものが高く評価されるのだ。

僕は比較的早い方だったが、同じ部屋にどうしても勝てない人がいた。
何をどう頑張っても勝てない。毎朝その人を観察したが勝てない。
「この人人間かな?」
と本気で疑った。

そんなある時思いついてしまった。


「靴下だけでも履いて寝てしまおう」


それが悲劇の始まりだった。

要は、着替えるスピードをちょっとでも早くすればいい。
(当時はみんな、Tシャツにパンツ一丁で寝ていた)


靴下を履く分の時間が削られる。



とはいえ、バレたら怒られるかもしれない。

これは賭けだった。


その夜、僕は部屋の人にバレないようにこっそりと靴下を履き、ラッパが鳴るのを待った。


「総員起こし5分前!!!!!」


放送がかかる前に僕は起きていた。


おかしい。

人の気配を感じる。


薄目をあけて辺りを見ると、その日に限って教官が部屋に入って見回りをしている!!


しかも、ランダムに掛け布団をまくって回ってやがる!!!!!


なぜだ!?!?!?

頼む!どっか行ってくれ!!!!!


願い虚しく、教官は僕のところにも来た。

そして、掛け布団をまくった。

万事休す!!!!!


...。



ん!?


何も言わない!?!?!?


教官は布団をまくって、何も言わず元通りに直した。



神降臨。


「靴下はセーフなのか!?!?!?」


そして、僕は勝った。
初めて一番を取った。


完全に勝ち誇った。

「今日から毎日靴下履いて寝よう」


点呼が終わり、体操が終わり、今日からの指達事項が終わる。


「ちょっと待った!!!」


布団をまくって見回りしていた教官が前に出てくる


「今日、靴下を履いて寝ていた馬鹿者がいる!」

「このあと俺のところに来るように!」


終わった。


その日靴下を履いて寝ていた人は10人くらいいた。


実は、その前から、靴下を履いて寝ている人はいっぱいいたらしく、それが教官の耳に入っていたらしいのだ。


「なぜよりによってこのタイミングで!?」

僕はその後、原稿用紙をドバッと渡された。


「反省文、明日までに書いてこい!」


自衛隊の朝は濃い。




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