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別世界では別職種だった件 ホンダ編 第10話

第10話 山賊
「お待ちしておりました。私はタカソ村ギルドの所長ティレンスです。よろしく」
「ホンダです」
「リンドです。よろしくお願いします」
 タカソ村の郊外にテレポートで移動したホンダとリンドはギルドを訪れて、所長のティレンスに挨拶をした。この村のエスパーギルドは規模が小さく、建物もアルタ王国のギルドに比べるとかなりの手狭感が否めない。おそらく土地自体が狭そうなので、このような作りになっているのも仕方がないのであろう。ティレンスは見た目が非常に若く、どう見ても年下にしか見えないが、おそらく自分たちより年上であることは雰囲気から察することができる。
「グリスにはすぐ行きますか?それともここで1泊してから明日行かれますか?」
「今から行って大丈夫であれば、出発したいんですけどね」
 今日は出発前にハンディルといろいろと打ち合わせをしたり、ミレンにランチを奢ったりした後で移動をしたので、現在夕方近い時間となっている。グリス連邦の入り口までの距離も、その入り口からエスパーギルドまでの距離も知らないので、どうすれば良いかは自分では判断できない。ただ、この出張は少しでも早く終わらせて、マルタ王国に帰りたいとは考えているのだ。
「そうですね。間に合わないことはないですが、今から行ったとしても今日から仕事を始めることは恐らく出来ないので、結局グリスに泊まって、朝からギルドに向かうことになると思います。であれば、ここに泊まってから朝から出発するのと変わらないかと」
 これを聞いてホンダはリンドに視線を送るが、どちらでも良いような反応をしているので、ここは自分で決めなければいけない。だが、どうしても決めきることが出来ないので、ちょっとした裏技を使うことにする。
「おいティーナ」
 最近はめっきり姿を見せなくなり、呼んだときにしか出てこなくなったティーナをここで呼び出してみる。理由は今日どこで泊まるかを選ばせるためだ。
「何?何か大変なことでも起こったの?」
 急に呼び出されたティーナは驚いたような興奮したような表情で現れて、本田の目の前あたりをうろうろと飛び回る。それを見てティレンスが一瞬驚いた表情を浮かべたが、次の瞬間には普通の表情に戻っていた。
「いや、グリス連邦のエスパーギルドに用があるから、今タカソ村にいるんだけど、今から出発してグリスで一泊するか、ここに一泊してからグリスに向かうかを悩んでるんだ」
 出来るだけわかりやすいように詳しく説明をするが、それを真剣に聞いているティーナの表情が次第に真顔になる。
「で?」
 少し怒ったような表情と口調でホンダを睨みながら声を出す。そしてしばらくの沈黙の後、言葉を続けた。
「まさか、それを私に決めさせようと思って呼び出したとかじゃないわよね?」
「その通りでございます」
 無邪気な笑顔を浮かべてこう返事をされたので、怒る気も薄れてしまい、ティーナは大きくため息を吐く。
「一応言っとくけど、私もそんなに暇じゃないんだよ。でもまあ折角だから、その2択の答えは教えとくね。正解は今から出発してグリスの宿に泊まる。じゃあ答えを教えたから私は行くねー」
 こう話すだけ話して、どこかへと飛んで行き、次第に見えなくなった。何がどう正解なのかはわからないが、折角正解を教えてくれたのでそれに従うことにし、今からグリス連邦へ向かう事とする。出発の準備を行った後、ティレンスと別れタカソ村を後にした。
「1時間ぐらいだっけー?」
「うん。この速さで歩けば1時間ぐらいだと思う」
 街道のような道を2人は黙々と歩いていく。しばらく歩いていると道影から数人の人物が目の前に現れた。
「ヒャッハー!ここは通さねえぜー」
 見た目山賊らしい4人組が手に持った短剣を舌で舐めるような仕草を行なっている。あまり人通りが少ない街道であり、ぱっと見強そうに見えないホンダと女性のリンドが無防備に歩いているので、これは襲うしかないと考えたのであろう。それに気づいたホンダは大きなため息をついて彼らに声をかける。
「あのー、先を急いでいるので、通してくれませんか?通してくれれば見逃してあげますので」
「何を!やっちまえ!」
 別に悪気もなく、本心から思ったことを口にしただけなのだが、それが山賊らの逆鱗に触れいきなり短剣を掲げて攻撃しに近寄ってきた。相手をするのは本意ではないが、再度大きなため息をついた後で相手をすることにする。こうなると勝負は一瞬であり、盗賊4人はあっという間に倒されてしまった。思った以上に歯応えが無かったので拍子抜けはしたが、山賊の下っぱであればこんなもんであろう。ただその中でも1人だけはそこそこ強かったので、少しだけ興味を持ったホンダはその男に質問してみる。
「お前らは4人でここで山賊をしているのか?」
「ちげーよ。俺たちはただの下っ端だよ。お前は確かに強いが、俺たちのボスには敵わねえよ」
 興味深い話を男が口にしたので、さらに質問してみる。
「お前らの本拠地はこの辺にあるのか?それとボスってどんなやつだ」
 答えてくれるかどうかはわからないが、気になったことを尋ねてみる。
「俺たちの本拠地は全然違う場所にある。説明するの面倒だからどこにあるかは言わねえ。ボスは俺も良く知らねえがとにかく強えって話だ」
 思った以上に正直に色々話してくれたのでホンダは満足して、その場を立ち去ることにする。山賊の4人はまだ3人が気を失っているが、自分たちで何とかなる程度のダメージではあるので、このまま放っておくことにした。この後は特に何かおきることもなく、グリス連邦の入り口まで到着する。流石にきちんとした検問が行われており、そこまで多くはないが行列が出来ている。そこの最後尾にきちんと並び順番を待っていると10分程度で自分たちの順番となり、問題なく入り口を通過することができた。
「ところでギルドってこの国のどのあたりにあるの?」
「私も良く知らないんだよね。でもここに地図があります」
「お嬢さん。それ早く言ってくださいよ」
 荷物から地図を取り出して現在地を確認しているリンドに、まるで限界以上の減量をしたボクサーのような声色で返事を返す。このネタをおそらくリンドは知らないので、普通に発した言葉だったのだろうが、ああ言われてしまうと体が勝手に反応してしまうのも仕方がないと言えよう。この後10分ぐらいで地図の解析は終わり、2人はギルドに向けて歩き始める。時間はすでに夜となっており、空は暗いものの飲み屋や食堂などが繁盛しているので、通りはまだ人通りが多い。宿屋なども結構目につくので、ギルドを見つけた後に泊まる宿屋を見つけるのも、特に心配はないようである。そうこうしているとギルドに到着したが、明かりは消えており、中には誰もいない様子だ。とりあえず場所が確認できたことに満足し、近くの宿屋を探すことにする。泊まる場所自体は簡単に見つけることができ、チェックインを済ませた後、食事のために外に出ることにする。この辺りはグリス連邦の中心部に近いらしく、酒場も非常に盛り上がっている。そこで良さそうな酒場に入り、食事をすることにした。
「じゃあ取り敢えずカンパーイ」
「乾杯」
 今日1日が無事に終わったことを祝って乾杯を行う。この後、頼んだ料理も運ばれてきたが、料理もお酒も非常に美味しく、2人は大満足で食事を続ける。すると、すぐ近くで飲んでいた若い女性に声をかけられる。
「見ない顔だね。エスパーか。旅行か何かかい?」
 右手には大ジョッキを持っており、話した後でグビグビと口に運んでいる。
「いえ、仕事でやってきました」
 ぱっと見悪い人にも見えなかったので質問に対して正直に答える。ちなみにこの女性は見た目軽戦士のような風貌をしているが、額には“A”の文字があるので、職業はアーチャーである。それを聞いたその女性は軽く笑顔を浮かべた後、本田の耳元に顔を近づけて、言葉をささやく。
「あの山賊やっつけたのお前らだろ?」
 そう言われてホンダは一瞬で少し間合いを広げ、真剣な表情でその女性を見つめる。するとその女性は一瞬ポカンとした表情になり、その後豪快に笑い始めた。
「いやいや、だから何ってわけじゃないよ。ちょっと噂を耳にしただけだ。良かったら仲良くしようぜ。私はアーチャーのサチエって言うんだ。よろしくな」
 こう言って手に持ったジョッキを軽く上に上げたので、こちらもジョッキを上に上げて、返事を返す。
「俺はホンダ。彼女はリンド。2人ともエスパーです。しばらくグリス連邦にいる予定なのでこちらもよろしくです」
 やはり第一印象の悪い人ではないと言うのは正解だったようで、この後は一緒に飲めや食えやのどんちゃん騒ぎをし、店の閉店までいろいろな話で盛り上がった。そして店の閉店後はまたここで会うことを約束して、お互いの宿へと戻ったのである。

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