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別世界では別職種だった件 ホンダ編 第5話

第5話 盗品回収①
 
「何か最近平和だねー」
 街を歩きながらホンダがティーナに話しかける。トミタがこの国からいなくなり1ヶ月が過ぎようとしている。その間ギルド依頼の指令をいくつか解決しているが、特に難しい指令もなく、メイレベルの強い相手と戦うこともなくなっている。平和なのはもちろん悪いことではないが、何か刺激が足りない気もする。
「まあ、昼はギルドで働いて給料もらって、その後酒場で酒飲んで、夜はサキアと仲良くしてるんだからいいことなんじゃないの?」
 夜はの一文は余計だが、ティーナのいうことはまあ間違っていない。今の生活に文句があるかと言われたらないのだが、これだと何のために転生してきたのかを疑問に感じる。そうこうしているとギルドに到着した。
「おはようミレン。調子はどう?」
「おはようホンダ。悪くないわよ」
 そういってミレンはいつものように笑顔で迎えてくれる。
「そういえばお客さんが来ているわよ。何やらホンダに用事があるみたい。リンドとサキアがいま相手をしているわ。ちょっと変な感じの人たちだったけど」
 そう言われて多少嫌な予感がしたが、来賓室へと向かう。
「失礼します」
 そう言って来賓室に入ると、座っていた客人が、立ち上がり礼を行う。
「あなたがホンダですね。私はリリー。後ろにいるのがディーンとハルキシスです」
 後ろに立っている2人が軽く頭を下げる。
「あなたのことはハラダから聞きました。ぜひ私たちに力を貸してほしい」
 原田さんからの紹介なのか、では無下に断るわけにもいかないのかなと感じる。
「ホンダです。内容によりますので、説明してもらってもいいですか」
 そう言ってリリーに席に座るように勧め、自分もその正面に座る。依頼内容は簡単に言えば盗賊に奪われた家宝を取り返したいというような内容だ。今まで何度か部隊を組んで取り返しに行っているがその度に撃退されたとのこと。リリーは王族に近い家系なので,騎士団長のハラダと知り合いであり、先日たまたまあった際にホンダの事を紹介されたとのことである。
「ところで、盗賊の人数と強さは把握しているんですよね」
「ある程度は把握していますが、全部を把握できているわけではないです」
 討伐の度に撃退されているということなので全体を把握していないのは当然のことだ。だがある程度の戦力が分かれば判断基準にはなる。
「それでは盗賊の情報とこちらの戦力を教えていただいて、少し検討する時間をいただけませんか。受けるからには成功しないと意味がないですから」
「わかりました。情報はまとめて持って来てありますので、お渡しします。それでは私どもは失礼させていただきます。良い返事を期待します」
 そう言ってリリーは立ち上がり、頭を下げる。そして扉の方へと歩いていき、その後ろをディーンとハルキシスが無言で付いていった。その後、3人で資料を確認する。盗賊側の戦力はボスであるプレデターが1名。側近の格闘家が2名。他はアーチャーとスピリットマスターが何人かいるようであり、それ以外の構成員は気にしなくて良いレベルのようだ。もちろんここに記載されていない強力な者がいる可能性はある。また、討伐側の戦力は自分たち以外で参加するのが、先ほどいたナイトのハルキシスとアーチャー1名、ファイター1名の様である。
「ホンダ、どうする?」
「まあ、原田さんの紹介なので受けようかな。ここでリリーに恩を打っておくと後々役に立つかもしれないからね」
 リンドの質問に了承することを伝える。
「わかりました。では私が了承する旨伝えておきます」
 そういってサキアが部屋を出ていく。依頼を受けたからにはいろいろ準備をしないといけないが、実際に招集されるまでは時間があるだろうからその間に準備を終わらせる計画を立てる。余裕があったら一言ハラダにこの事を伝えておきたいが、余裕がないかもしれない。
「何か緊張してたらお腹空いたな」
「じゃあ何か食べに行く?」
 伝達に行ったサキアには悪いがリンドと2人で昼食を食べに行く。昼食を終えてギルドに戻ると、すでにサキアが戻って来ており、多少不機嫌な表情で言葉を発する。
「依頼を受ける事を伝えました。すると早速明日実行するとのことで、リリー邸に9時に集合とのことです。なので,私たちは8時半にギルドに集まるぐらいで丁度いいと思います。では私は食事に行ってきます」
 淡々と伝達事項を述べてサキアは食事に出かける。その様子を見て、やっぱり食事を待っててやれば良かったと思ったが後の祭りである。この後、リンドは自分の業務を行うために作業室へと向かったので、鍛錬室へ向かい軽く体を動かすことにする。鍛錬を終えた後、サキアが食事から戻っていたので、サキアの業務を手伝って機嫌を取ることにする。明日朝が早いので、本日はサキアと飲みに行くのはやめにして、早い時間に家に帰り眠ることにした。次の日になり、朝早く起きてギルドへ向かう。すでにリンドとサキアもギルドに着いていたので、3人でリリー宅へと向かった。リリー宅へ着くと、討伐軍のメンバーが全員揃っており、簡単な自己紹介の後で作戦会議を行う。
「いつものように無理をしない範囲で目的執行できるように行動してください。家宝は取り返したいですが、あなたたちの命に比べたら大したものではないので」
 命を大事にというのが根本的な作戦だということをリリーが全員に話し、それを聞いて皆が頷く。この後詳細な作戦等も決めた後で、いよいよ討伐に出発する。盗賊のアジトはリリー宅から40分ぐらいの距離にある山の中腹である。道中特に何も起きることがなく、山の麓まで到着した。
「おかしいな」
 ハルキシスが疑問の声を上げる。前回まではこの地点に来るまでに何人かの盗賊と遭遇し、戦闘を行っていたのだが、本日はここまで盗賊と遭遇していない。そのことに何か嫌な感じがしているのだ。
「とりあえず進むぞ」
 そう言ってハルキシスは歩を進め、その後に着いていく。程なくして、かなり段数の多い階段前に到着する。すると階段の両端に盗賊が2名倒れているのが見える。
「これは・・・」
 そう言って階段の上を見上げると、階段の途中に複数の盗賊が倒れている。
「誰かに先を越されたか」
 ハルキシスは階段を走って登っていくので、その後に続く。階段を登りきり、アジトの建物に侵入するとたくさんの盗賊が倒れており、その奥で1人座って酒を飲んでいる人物を見つける。
「バニスキーか」
「おお、ハルキーじゃねえか」
 ハルキシスの呼びかけにバニスキーが答える。どうやら盗賊で意識が残っているのはバニスキーだけである。
「これはどうしたんだ」
「どうしたもこおしたもねえよ。スッゲー強い奴らがやって来て全滅だよ。もう何もかも嫌になったんで飲むしかねえ」
 そういってぐいのみの酒を飲み干し、すぐさま酒を注ぐ。
「そうそう、取り返しに来たんだろうけど、そいつらにねこそぎ持ってかれたからもうねえよ。欲しかったらそいつらの所に取り返しに行ってくれ」
 そういってバニスキーはもう帰って欲しそうな感じを醸し出したので、仕方なく帰ることにする。
「あ、多分あいつらジャンヌ山に陣取ってる奴らだ。せっかく来てくれたから情報として教えてやるよ」
 帰り際、後ろから声が聞こえてくる。
「後、できれば敵を取ってくれ」
 それ以降バニスキーは声が聞こえることなく、アジトを脱出し、リリー邸へと戻った。

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