見出し画像

別世界では別職種だった件 ホンダ編 第7話

第7話 帰還
 
「おはようホンダ。さっきホンダを訪ねて来た人がいたよ」
 エスパーギルドに着くといきなりミレンから声をかけられる。自分を訪ねてくるとは一体誰なのであろうか。
「名前を尋ねたけど教えてくれなくて。お昼にいつもの店で待ってるからと言われた」
 誰かわからない人にいつもの店と言われてもわかるはずないじゃないかと考える。だが、そのような無茶を言う人間の知り合いはこの世界では数人しかいない。
「ミレンありがとう。お昼になったら行ってみることにするよ」
 ホンダはそう言ってリンドのいる作業室へと向かう。そしてリンドの仕事を手伝いつつ、午前中の時間を潰した。
「そろそろご飯食べに行こうよ」
 業務の切りが良いタイミングでホンダがランチに誘い、リンドもそれに笑顔で答える。2人はいつもの食堂に向かうが、ホンダは自分を訪ねて来た人間を3択で考えていた。その3択のどれであれ、いつもの店とは今から行く店なのである。そうこうしているうちに、店に辿り着き、入り口のドアを開ける。するとそこには3択だと思っていた3人全員が顔を揃えている。
「おう、本田こっちこっち」
 立ち上がって、ハラダが手招きしている。それに軽く頭を下げ、呼ばれたテーブルに向かっていくと、そこにはハラダと一緒にクラタ、トミタ、サクヤともう1人女性が座っている。その女性は水色のワンピースを着ており、キャップを深めに被っているので、顔を見ることができない。
「お疲れ様です。お待たせしましたかね」
 そういってホンダは席につき、リンドもその隣に座った。
「それにしても富田さん帰って来てたんですね」
「いやいや、さっき帰って来たんだよ。それで王宮に寄って、エスパーギルドに寄って、あと野暮用をチャチャっと済まして今に至る」
 そう言って富田はジョッキのビールを一気に開ける。昼間だろうが何だろうが豪快な飲みっぷりだ。ホンダは隣に座っているサクヤにも軽く挨拶し、戻って来たことを歓迎した。ここでホンダが今1番気になっているのはトミタから見てサクヤの反対側に座っている女性の存在だ。キャップを深く被って、ストローで何やらジュースを飲んでいる様で有る。周りも特に紹介する様な雰囲気でもない。この状況に違和感を感じていたが、我慢できずに尋ねてみることにする。
「あの、そちらの女性の方はどなたですか?」
「え、あ、何?顔隠してたの。久しぶりなんだからちゃんと顔あげて」
 軽く笑いながら隣の女性にトミタがこのように話し、その女性はゆっくりと視線をホンダの方向へ向かう。そこには知っている顔があった。
「え、めいさん?」
 ホンダと目が合ったメイは非常に意地悪な感じの笑顔を浮かべる。そして思いもよらない言葉を口にした。
「メイ太陽を克服しちゃいましたー」
 そうなのだ。この女性がメイである可能性を除外していたのは、メイが太陽が苦手だったからだ。それにしても太陽を克服とはどう言うことなのだろうか。
「そうなんだよね。カルティーブフに行った理由がこれなんだよ。とにかくめいちゃんを太陽の下でも生活できるようにしたくて。で、それは出来たんだけど、ありえないぐらいの借金が出来た」
 そう言ったトミタの言葉に反応して、サクヤが借金の金額が記載された紙をホンダに見せた。そこには目が眩むぐらいの0が並んでいる数字があった。
「なのでこれからは馬車馬のように働かんといかん。だからハラダさんとクラタさんに相談したんだよね」
 この3人が一緒にいる理由を理解できた。しかし、あれだけの借金をどうやって返すのかはホンダには見当がつかない。
「この世界には危ない仕事がたくさん有るから、その危険度に応じて報酬も多くなるって寸法なんだ。で、良かったら一緒に仕事受けない?本田君とならどんな仕事もクリアできそうな気がする」
「メイからもお願いー」
「私もお願いしたいです」
 いきなりトミタだけではなく、メイとサクヤからもそう言われて、ホンダはもちろん即答出来ないので、一旦持ち帰らせてもらう事にする。ここで一旦話題が終わったので、メイがホンダに声をかける。
「それにしてもホンダはモテるわねー。女性をを取っ替え引っ換えだからねー」
「え?」
 その言葉を聞いてその場にいる全員が驚いた表情を浮かべる。メイ以外の全員が、ホンダはこの世界に来てすぐリンドと仲良くなり、他の女性とどうこうと言うのは聞いたことがないからだ。
「え、だって、メイ達がカルティーブフに行く時に・・・」
 ここまで言葉を発したメイだったが、やはり場の雰囲気が何かおかしい。自分の中にある記憶と、ここにいるメンバーの記憶に相違があるようなのだ。
「・・・リンドも見送ってくれたんだよね」
「そうです」
 自分の感情を一旦押さえて、メイは場の雰囲気に合わせる事にした。この後、しばらく食べて飲んでした後解散し、ホンダとリンドはギルドに戻り、ハラダとクラタ、トミタ、メイ、サクヤは一緒に何処かへと向かっていった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?