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別世界では別職種だった件 ホンダ編 第11話

第11話 襲撃
「ではホンダ、今日はもう大丈夫ですよ」
「ハア、今日も疲れました」
 笑顔を浮かべて声をかけてきたミズリを見つめながら、大きなため息をついた後でホンダは返事を返した。ホンダがグリス連邦にやって来てから2週間が過ぎようとしている。毎日毎日調査という名目で調査室なる部屋の真ん中に設置された椅子に座り、言われるがままにエスパーパワーを出したり止めたりしている。正直作業的には退屈極まりないが、それを何とか我慢して出来ているのは調査員として一緒に過ごしているミズリが可愛らしいからに他ならない。リンドとは少し違うタイプであり、知的で穏やかな雰囲気を持っている女性だ。
「よっこらしょ」
 椅子から立ち上がり、調査室から外に出る。外では別の業務を行なっていたはずのリンドがあっさりと終わらせたようで、椅子に座って出てくるのを待ってくれている。
「お疲れ様〜」
「疲れたよー。ご飯食べに行こうか」
 仕事を終わらせた2人はいつものようにギルドを後にして食事に向かう。向かった先はほぼ毎日訪れている酒場であり、そこで食事をしながらアルコールも体内に補充するのである。店に入った2人は店内を見まわし、いつもの席にサチエが座っているのを見つける。
「おー、ホンダ来たか。こっちこっち」
 こう呼び付けられたのでそのテーブルに向かい、反対側に並んで座った後、料理とアルコールを注文する。そしてアルコールが運ばれてくると、まずは乾杯ということでグラスをぶつけ合った。
「では今日も飲もうぜ!」
 すでに結構飲んでいそうなサチエが笑顔を浮かべてこう発言する。これに負けじとホンダも目の前のジョッキを一気に開けて、おかわりを注文した。しばらくいつものようにどうでもいい話をしながら飲み続けていたが、急にリンドの表情が真剣になる。
「はい、はい、わかった。話してみる」
 どうやらテレパシーを利用して誰かと通話をしていたようである。テレパシーとはエスパーが持つ能力であり、エスパー同士が離れた場所にいても意思疎通を行うことができる能力のことだ。ただ、この能力はテレポートと同様に使用場所が制限されており、使用場所以外で使用しているのがバレるとかなりの罪に問われるものである。ただ、それがわかっていて利用したということはかなりの緊急を要するものであろう。
「ホンダ、少し話があります」
 こう口にした後で、視線をサチエに向ける。ここ数日サチエとは一緒に夜を過ごしており、ある程度信頼がおけると感じている。ただ、重要な話であり、それをサチエに聞かせることに躊躇しているのだ。するとホンダが軽く頷いたので、このまま話を続けることにする。
「マルタのエスパーギルドが襲撃されたみたい」
「え?」
 一瞬耳を疑ったが、酔った頭で意識を集中する。今日の昼頃に急に何者かの集団がエスパーギルドを襲撃し、建物は完全に占拠されたらしい。先ほどの連絡はミレンからであり、現在ハンディルは行方不明となっており、他のエスパーたちもちりぢりに分散して敗走したとのことである。ミレンも軽傷を負ってはいるが無事であり、現在は必要時に仮に利用する仮事務所に身を潜めている。ちなみに現在ここにはミレンを含めて4人のエスパーがいるとのことだ。
「これはどうすればいいんだ」
 右手を唇の下の寄せて、ホンダは長考に入る。現在自分は出張中であり、期間もまだ2週間ほど残している。だが、戻る場所がなくなった今、出張も何も無くなっている気もするのだ。
「出来れば今すぐ戻りましょう。ハンディルの無事が気になります」
「すぐ戻ると言っても」
 自分のテレポート能力があればすぐに戻ることは物理的に可能ではある。だが問題点が何点かあり、テレポートを利用できる場所まで移動するのにある程度の時間がかかるというのと、後は、ある程度のアルコールを摂取してしまっているということだ。酔っているのは何とかなるにしても、テレポートが利用できなければ戻ることはできないのである。こう考えていると先ほどまで話を聞いている風でもなく、次々とアルコールを体に流し込んでいたサチエが笑顔を浮かべながらこう口にする。
「今すぐ帰りな。テレポートの件は私が何とか誤魔化すから」
 一瞬何を言われているのか良く理解ができなかったが、意味としては今ここでテレポートを利用してマルタに戻り、テレポートを使ったことについてはサチエが何とかすると言っているのだ。何とかするも何もこいつが何の権限を持っているのかもよく分からないが、選択肢としては信じるか信じないかの2つである。
「頼んでいいか」
 こういってホンダはサチエの分を含めた本日分の飲み代をテーブルに置く。するとサチエが大きく頷きサムズアップをしたので、次の瞬間ホンダとリンドの姿はその場から消滅していった。
「誰だ!お前ら!」
 テレポートが終わった感覚の後、周りを見渡すと広い空間の中に数人の人間がいるのを感じる。この場所はよく知っている場所で、エスパーギルドの大会議室である。本来はエスパーギルドの建物からある程度離れた空間に移動するつもりであっが、酔っていたからであろうかいきなり敵陣のど真ん中に出現してしまったのである。
「やれやれ、いきなりクライマックスですか。リンド、仲間への連絡お願い」
 こう言った後、高速で動き出したホンダはあっという間に数人の敵を倒すことに成功する。これに対抗して敵は何か機械のような物を操作しているが、その機械は発動することもなく、爆発し機能を停止した。これはホンダの能力があまりにも高いためであり、機械がその許容量をオーバーしたためである。
「いきなり敵陣のど真ん中に飛び込んでくるとは良い度胸ですね」
 どうもボスらしい雰囲気を醸し出している男性がにやけ顔を浮かべて近づいてくる。その手には先ほどの敵が持っていたよりも大きい機械が握られている。
「あなたがどんなに優れたエスパーでもこの機械がある限り私には敵いませんよ」
 こう言ってその男は機械を作動させる。するとホンダは急激に自分のエスパー能力が消滅していくのを感じた。これがジャマーであり、流石のホンダであっても高性能のジャマーの前では能力を封じられるのである。
「さて、どうしますか。負けを認めますか。そうですね。その女性を置いていくのであればあなただけなら逃してあげますよ」
 勝ちを確信しているようなむかつく笑顔を浮かべてその男が提案をしてきたが、そのような提案に乗るはずがない。
「断る。お前を倒す」
 こう言って見つめてきたホンダに対して、その男は笑い声を発し、ひとしきり笑った後で視線を向けてくる。
「そうですか。それでは木っ端微塵にしてあげましょう。あの所長のように」
 このように呟きながらその男は近づいてくる。手に持っている機械の出力をまた上げたらしく、部屋全体に嫌な感じの雰囲気が充満している気がする。
「所長のように・・・クリリンのことかー」
 叫んだ瞬間にクリリンではなくハンディルだとは気づいたが、そこは一旦置いといてホンダの怒りは頂点に達し、体から大量のエスパーオーラが噴出する。するとその男が持っている機械は大きな爆発音とともに効果を発揮しなくなった。このエスパーオーラに触れた非エスパーたちは体の力が抜け、その場に倒れ伏す。先程までイキってた男も今や倒れて微動だにしなくなっている。しばらくホンダの怒りは続き、体内からエスパーオーラを放出し続けたが、敵が全員倒れたことを理解すると、気持ちを落ち着け大きく息を吐いて戦いが終わったことを認識した。
「ホンダ、お疲れ」
 軽く肩をポンポンと叩きながらリンドがねぎらいの言葉をかける。そして、先程連絡したからであろうエスパーの仲間たちが次々とギルドに戻ってきて、襲撃犯たちを縛りあげて王国警察に引き渡したのである。

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