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別世界では別職種だった件 ホンダ編 第1話

第1話 初期メンバー集合

「え、あれ?」
 急に景色が変わったことに驚き、本田は疑問の声を漏らす。先ほどまで自分は居酒屋『道』で前田さん達と飲んでいたはずである。だが今は見たこともない場所のベンチに座っているのだ。
「夢か。そうか夢なのか」
 そう口にして夢であるという結論に落ち着ける。夢であれば何も驚くことはない。では少しこの夢を楽しむことにしよう。
「夢じゃないよ」
 急に何か女の子の声が聞こえてくる。急ぎ立ち上がって周りを見渡すが、そのような女の子は見当たらない。
「何かリアルな夢だな」
「だから夢じゃないって」
 また声が聞こえてくる。一体なんなのだろうか。
「名前」
 その女性の声は名前を尋ねているようだ。仕方なく名前を伝えることにする。
「本田」
「ふーん。ホンダね。私はティーナ。名前をよんでみて」
 そう言われたので名前を呼んでみる。
「ティーナ」
 すると目の前に全長20センチぐらいで空を飛ぶ小さな女の子の精霊が出現した。
「これで契約成立ー。ホンダ。よろしくね」
 何が何だかわからない。でもまあどうせ夢なのだから良いだろう。
「まだ夢だと思ってる?これは夢じゃないよ」
 だんだん良くわからなくなってきたが、たしかに夢というには意識がはっきりしすぎている気もする。
「夢じゃないとするとここは何なんだ?」
 疑問に思っていることを尋ねる。ティーナが何をどこまで知っているかとか、本当のことを話すかなど、不明な点は多いが、今コンタクトが取れる対象がティーナしかいない以上、こいつに聞くしかない。
「えっとねー、まず私は誘導者っていう役割で、今後ホンダとずっと行動を共にします」
 質問に答えてない気もするが気にせず耳を傾ける。
「ここはいろいろな世界から召喚された人たちが存在している場所なの。元の世界についてはどう言うものか私は知らない」
 周りを飛び回りながらティーナが話を続ける。
「ある条件でこの世界と元の世界を行き来することになるんだけど、元の世界に戻るとこの世界の記憶はなくなるみたい。そしてある条件になるとまたこちらに同じ条件で召喚されることになります」
 相変わらず良くわからないが、ここが良くわからない世界なのだと言うことは理解できた。
「後はホンダがこの世界で好きにいろいろやってくれれば良いんだけど1つ大事なことを伝えておきます。それはここに住む人たちが持つ特殊能力についてです」
 特殊能力?少し心躍る単語が出てきた。
「ここに召喚された人たちは人ごとにいろいろな能力を持って召喚されます。それで、何の能力を持って召喚されたかは、額に文字で表示されます」
 そういってティーナは小さな鏡を出し、ホンダの顔をそこに映す。すると額に“E”の文字が表示されている。
「“E”はエスパー能力を持つ表示なの。今後ホンダはいろいろなエスバー能力を身につけることが出来る様になるわ」
 エスパー。強いのか弱いのかよくわからないが、まあ悪くはない気がする。
「正直全能力の中でのエスパーの評価はそこまで高いものではないです。そこで、おまけじゃないけど同行者である私が契約したと言うことになります」
 強くないんだ。少し気分ががっかりしたが、良くわからない世界で1人でいるよりはティーナがいた方が何かと便利かもしれない。そう考えれれば悪くないのかと納得する。
「ティーナ。ある程度理解した。これから一緒に過ごすことになると思うけど、よろしくな」
「よろしくねー」
 そういって相変わらず周りをブンブンと飛んでいる。さて、これからどうしようか。そう考えていると、何やら通りが騒然とし、遠くから女性が走って向かってきており、その後ろからゴツめの男性が3人ぐらい追いかけてくる。女性はホンダの横を通り過ぎる時に、ホンダの顔を見つめ笑顔を浮かべ、そのまま走り去っていく。その時ホンダは右手の中に何かが出現した感じを受ける。
「まてー、こらー」
 男性3人が女性を追いかけていき、姿が見えなくなる。それを確認した後で、本田は右手を開いてみる。するとそこには真っ黒い正方形の物体があった。
「何それ?」
 こちらが聞く前にティーナが聞いてきたので、聞いても無駄なことを理解する。良くわからないがとりあえずその物質をバッグの中に入れ、再度何をするか考えてみる。
「お腹すいたな」
 つい口から言葉が溢れた。
「あ、ホンダは召喚されたばかりだから、お金はある程度あるよー。お腹すいたなら食堂行こうか。この街でも有名な店があるかあらー」
 その意見には文句がないので、食堂へと向かうことにする。歩いて15分ほどかかったが、この街の様子も確認できたので、長い道のりではなかった。
「いらっしゃいませー。おひとり様ですか?カウンターにどうぞー」
 店の女の子の大きな声に導かれて、カウンターに座る。食堂と言っていたが、夜にはお酒を出す飲み屋のような店構えである。何を食べようかと一瞬悩んだが、おすすめというのがあったのでおすすめにする。正直この世界に何があって何がないのかを理解していないからだ。ほどなくおすすめ料理が運ばれて、受け取る。見た目スパゲティのようだ。
「いただきます」
 お腹が空いていたのもあり、次々と口に運ぶが、非常に美味しいかといえばそうでもない気がする。食べている途中で、左後ろ側のテーブルが元々騒がしい感じだったが、だんだん大きな声援で盛り上がり、細身で背が高い男性が両手を上に上げてガッツポーズをしている。
「あれ、何ですか?」
「あ、あれ大食いチャレンジやってて、成功したみたいだよ」
 隣に座って食事をしていた女性に尋ねると、詳細を教えてくれた。成功した男性は自分の席から時計回りに全ての客と握手をするように順番に歩いて行く。その男はだんだん自分に近づいてくるが、明らかに見たことある人物である。
「成功したぜチェーン。まだまだ楽勝だったぜ」
「相変わらずね」
 多少呆れた表情で隣の女性が言葉を漏らした後で、その男性は自分に右手を伸ばし、握手をした後、顔を見て大声で叫んだ。
「本田やんか。蔵田蔵田、本田おったよ」
 そういって食事をしていたテーブルへと連れて行かれる。そこには驚いた表情の男性が1人座っている。
「何や、本田もこっちに来てたんだ。てかエスパーか。本田っぽいって言えばぽいやん」
「さっき来たばっかりなんですよ。俺も原田さんと蔵田さんがいてびっくりしました」
 元の世界での先輩であるハラダとクラタが目の前に座って笑っている。意味がわかならい異世界に飛ばされてきたが、同じ世界の人間が存在しているのはすごく安心する。他にも誰かいるのだろうか。そう考えているとティーナが耳元で囁く。
「ホンダ、目の前の2人知ってるの?」
「うん。元の世界の先輩ってか知り合いなんだ」
「そうなんだ。あの2人かなりやばいわよ」
 やばい?何がやばいのかは良くわからないが、とりあえず2人の額を確認する。ハラダの額には“N”、クラタの額には“T”の文字が表示されている。文字だけ見てもわからないので聞いてみる。
「原田さん。俺まだこの額のやつ良くわからないんですけど、原田さんの“N”と蔵田さんの“T”ってどんなやつなんですか?」
 それをきいて原田が口を開く。
「簡単に言えば蔵田の“T”はTitan即ち巨人能力。倉田はある条件下ではあるけど30M級の巨人になることができる。この能力が利用限定されている分普通の姿の時には常人の10倍の体力と耐久力、回復力をもっているので、基本倒せない。倒せるのは巨人の時だけだけど、巨人になると勝てないから倒せないっていうチート能力」
 笑いながら説明しているが、クラタも否定しないので、事実なのだろう。続いてクラタが説明する。
「原田の“N”はNothingの“N”。即ち何の能力もないという能力なんだ」
 それ強いっすか?即時に突っ込みたくなったが、我慢して話を聞く。
「この世界で何もないと言うことは全部あるということと同義なんだ。なので原田はこの世界のすべての能力を使うことができる」
 それはすごい。思わず声を上げそうになる。
「ただ、各能力比較ではどうしても専業には勝てないので、同じ能力同士の戦いでは不利になる。ただ、能力には相性による得意不得意が必ずあるので、原田は常に相手の能力に対して得意な能力で戦うことができるんだ。正直この世界で最強な能力の1つだよ」
 笑いながら説明してくれたが、内容は驚くことばかりである。2人の能力を聞いて、自分のエスパーの能力がどうなのかと不安な気持ちになる。
「お二方が強いと言うのはわかりました。ありがとうございます。ところで、元の世界の人でこちらに来ている人は他にいるんですか?」
 疑問に思ったことを尋ねてみる。
「俺たちが来てるから多分いっぱい来てるとは思うけど、実際会ったのは蔵田と本田ともう1人、いや2人かな」
 何か意味ありげな感じである。
「そうなんですね。で、誰なんですか?」
「夜になったらここに来るからそれまでお楽しみってことにしようぜ。ところで俺たち今日非番で暇だから夜までうろうろするつもりだけど、本田も一緒にどう?」
「お供します。今日非番なんですね。普段何をしてるんですか」
「俺と蔵田はこの王国の騎士団長やってるんだ。最近平和だから非番が多くてね」
 王国騎士団?思っているよりいろいろすごいことにおどろく。能力といい身分といい、確かにやばい人だ。その後3人は食堂を出て街をぶらつく。ホンダが来たばかりだと言うので、2人がいろいろと知っておくべき場所を案内したのだ。そうこうしているうちに日が傾き始める。日が沈む時間に約束をしていたので、店に戻り、店に入ると先ほどと同じ席に座る。まだその人物は現れていないようだ。
「飲みながら待ってることにするかね。ねーちゃん。いつものボトルと氷お願い。あとつまみを適当に」
 慣れた感じで注文し、しばらくするとお酒とつまみが運ばれてくる。この世界での出会いに乾杯し、まだまだ知らないたくさんの情報を2人から聞かせてもらう。程なくして、1人の男が店に入ってくる。その男はある程度予想をしていた人物であった。
「原田さん、蔵田さんお疲れ様ですって本田君やん!」
 非常に嬉しそうな表情を浮かべてその男トミタは大声で叫んでホンダの肩をポンポンと叩いた。
「やっぱり富田さんだったんですね。ある程度予想通りでした」
 そういいながら、コップを渡し、ボトルの酒を並々と注ぐ。ここで、再度乾杯を行い、場が落ち着いたところでトミタの額を観察する。そこには“U“の文字が表示されていた。
「本田君エスパーか。どんな能力が使えるか楽しみやね」
「まだ、来たばかりなので、何が出来るかわからないんですよね」
 そう話しているとまたもやティーナが耳元で囁く。
「あの人ももしかしたらやばいかも。この時間に合流したのが気になる」
 昼間仕事か何かをしているのかなと漠然と思っていたので、夜に合流についてはあまり気にしていなかったが、何かあるのかもしれない。
「で、富田の能力なんだけど」
 ハラダが話を始める。
「”U“はUserの”U“であり、使役者のことを言うんだよね。使役者は意外と多いんだけど、何を使役してるかによって強さが全然変わってくる。富田が使役してるのは正直やばいレベル」
 使役、使い魔か何かのことなのか。とりあえず今は出現してはいないようである。
「見た方が早いから富田出してみて」
「うーん、機嫌悪いかもですけどじゃあ出してみますね」
 そういって額の”U“の文字に右手の人差し指と中指を当てて、何やら呟くとトミタの後ろに何かが出現した。セクシーな格好をした女性であり、羽が生え、空中に浮かんでいる。顔を見ると見たことのある顔であった。
「あら、本田じゃない。こっち来たんだ。てかエスパーって何、うけるー」
 いきなり暴言を吐いてきた女性は確かに見たことのある顔だ。だが、性格が多少違うようでもあり、何より転生先が人間ではない。
「原田も蔵田も相変わらずうだつが上がらないようね。こんなところでウダウダ飲んでんだから」
「相変わらずめいちゃんは口が悪いな。あっちの世界ではそうでもないのに」
 やはりその女性はメイであった。ただ、自分たちのような人間ではないようだ。
「俺がこっちの世界に来て、使役者として使役できるものを召喚したらめいちゃん出てきたんだよね。で、このめいちゃんはヴァンパイアとサキュバスを足して2で割ったような能力なんだ。血を吸う必要はないし、十字架もにんにくも大丈夫だけど、太陽には弱くて、ただ戦闘能力は非常に高くて、多分この国で戦って負けるとしたら原田さんぐらいだと思う」
 この人もチートだと愕然とする。でも知っている人が増えて少しこの世界も楽しいのかなと感じ始めている自分がいる。この後一通り話で盛り上がった後、解散し、トミタとは明日も会う約束をした。

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