見出し画像

別世界では別職種だった件 ホンダ編 第2話

第2話 エスパーギルド

「ホンダ、朝だよ。起きて起きて」
 先ほど太陽が登ったが、まだ起きてこないホンダを起こそうとティーナが悪戦苦闘している。昨日初めてこの世界に召喚され、いろいろ動き回り、お酒も飲んだのでかなり疲労が溜まっているのかもしれない。でも今日はなるべく早くエスパーギルドに行ってもらないといけないので、頑張って起こしているのだ。
「うーん、ティーナおはよう。頑張って起きる」
 起きるのは頑張ることなのかと疑問に思ったが、とりあえずちゃんと起きるかどうかを周りを飛び回りながら確認する。どうやらちゃんと起きるようだ。
「昨日も言ったけど朝ごはん食べたら今日はエスパーギルドに行くよー。正直、今のままだと何の能力も使えないからねー」
 多少寝ぼけた頭でティーナの言葉を聞いていたが、確かに今の自分は何の能力も使えない。恐らく能力によってはこの世界に召喚されて、いきなり使えるようなものと、成長させていかないといけないものがあるのだろう。その辺りは元の世界の魔術師や僧侶と似ているところがある。鍛錬を行うことで、いろいろな呪文や能力を使えるようになるのだ。恐らくエスパーもそれに準じるのであろう。そうこう考えながら朝食を食べ終わり、外出する準備がととのった。
「じゃあ行くよホンダ。ついて来てー」
 そう言って自分の前を飛ぶティーナの後をついて歩いていく。しばらく進むと、いろいろな特徴のある建物が目に入り、その中で妙に目立っている近代的な建物が建っている。どうもここがエスパーギルドのようであり、ティーナが入り口から入っていく。
「あら、ティーナじゃない。また新しい人と契約したのね」
「そうなのー。ミレンは相変わらず可愛いわね」
 その会話を後ろから聞いていたが、ミレンと呼ばれた女性から声をかけられる。
「あなたがホンダですね。事前にティーナから情報は受け取ってます。今日はギルド登録と能力調査を行う予定ですけど宜しいですか?」
 良くわからないがそのようになっているのであれば従うしかないので、首を縦に振る。それを見てミレンは笑顔を浮かべ、ベルを鳴らす。すると奥から白衣を着た女性が2人姿を表す。
「ホンダ、私はリンドでこっちがサキアです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 丁寧な挨拶にこちらも負けじと丁寧に返す。この後、まずはリンドに連れられ、何か道場みたいな場所に移動する。
「ホンダはまだ開眼してみたいなので、まず開眼から行います。正直この開眼の結果である程度能力の底が割れるので、大きいものが発動されることを期待します」
 そう言って道場の中央あたりに誘導される。そこにホンダが立つと、その目の前にリンドが向かい合って立ち、両手を手前に出してきた。
「私の両手をしっかりと握ってください。私の力でホンダの力を解放します。解放すると足元からESPパワーであるオーラが立ち上がります。普通のエスパーであればオーラは胸の位置ぐらいまで、強いと言われるエスパーで自分の身長の1.5倍ぐらいのオーラが発生します。ホンダにはそれぐらいのオーラを期待します」
 ホンダはそれを聞いて、決意の表情を浮かべ、両手をしっかりと握る。そしてリンドの表情が真剣なものになり、両手から何かが流れ込む感覚を覚える。その時、足元からまず膝の高さぐらいのオーラが立ち上がる。リンドはそれを見て、再度真剣な表情となり、両手に力を込める。するとオーラの高さが上がっていき、腰の高さを超え、胸の高さを超え、頭の高さを超えた。そして、身長の1.5倍の高さまで達したが、オーラの膨張が終わる気配がない。ここでリンドは信じられないような表情を浮かべるが、オーラは膨張を続ける。結果そのまま膨張を続けたオーラはホンダの身長の3倍ほどに達した。オーラの膨張が終わったので、握っていた両手を離す。
「すごい。今の量のオーラは正直初めて見たわ」
 信じられない表情でリンドが言葉を漏らした。
「ホンダすごいすごい!私も初めて見た」
 周りを飛び回りながらティーナも歓喜の声を上げる。ホンダは多少疲れたのか、肩で息をしている。
「それでは次はサキアに属性について調べてもらいます。疲れているようだけど大丈夫だと思うから、着いてきて」
 休む間もなく、別の部屋に連れて行かれる。次についたところは研究室みたいな部屋で、そこにサキアが座って待っている。
「ではホンダそこに座ってください」
 言われるままに座ると頭、手足、足首に何やら良くわからない装置をつけられる。
「それでは目を瞑って今から私が伝えることを頭の中で実行してください。ではまず空を飛んでください」
 そう言われて、想像の中で空を飛ぶイメージをする。この後、サキアから20個ほど指示があったが、これで終わりのようで、体に付けられた装置を外してもらう。
「では先ほどのと合わせて結果の報告と、色々と手続きを行いますので、私について来てください」
 そう言われたので黙って後ろをついて歩く。すると会議室のような場所に通され、椅子に座るように指示を受ける。その後、サキアは一旦部屋を出ていったので1人で待つことになる。
「大丈夫?疲れてない?」
「大丈夫だよ」
 ティーナが軽く心配してくれているようだ。しばらく待つと、リンドとサキア、それに多少年配の男性が現れた。
「私はここのエスパーギルドの所長であるハンディルだ。よろしく」
 そういってハンディルが右手を出して来たので、握手を交わす。
「ホンダの能力はこの2人から聞いて、ギルドに所属するのに充分だとのことなので、ぜひギルドに所属してその力を遺憾なく発揮してほしい」
 軽く頷きながら、真剣に話に耳を傾ける。
「さて、先ほどの調査内容だが、まずエスパーとしての資質に関わる能力量であるが、ホンダは今までで見たことのないぐらいの容量を持っている。この量は本当の驚くべき量だ。そして属性についてだが、主属性が空間移動、副属性が加速となります。他の能力も鍛錬をすればある程度習得できると思うので、努力してもらえばと」
 そう言った後、目の前に書類が出された。
「ホンダがギルドに入るのであれば目の前の書類にサインをしてください。入らないのであればこのまま帰ってもらっても構いません」
「ギルドに入るメリットデメリットを教えてください」
 疑問に思ったことを尋ねてみる。
「メリットはギルドを通じてエスパー達との情報が共有できること、このギルドやギルド運営の設備を利用できること、仕事の斡旋を受けれることぐらいかな。デメリットはギルド員として見られること、ギルドに常に情報を送らないといけないことぐらいになります」
「入って良いと思うわよ」
 耳元でティーナが入るのを勧めたので、目の前の書類にサインをした。これでエスパーギルドの一員となる。
「これでこの建物や、エスパー関連の設備には自由に出入り出来る用になった。良かったらこの建物の設備も確認していくといい。リンド、案内してあげなさい」
「こちらへ」
 そう言われたので、後ろについて設備の案内をしてもらう。思っていたより色々な設備があり、これを利用できるのはありがたいことだ。こうして全ての設備を案内してもらった後、リンドに礼を述べて、一旦宿に帰ることにする。そしてしばらく休憩し、日が沈んだぐらいに酒場へと向かう。酒場に着くと昨日座った席に、トミタと1人の女性が座って待っていた。
「おー、本田君。こっちこっち」
「遅くなってすいません」
 そういって椅子に座って、一息つく。そして目の前に座っている女性の額を見ると“i”の文字が表示されている。
「初めまして、ホンダ。私はサクヤ。情報屋よ。トミタとは共存関係を結んでいるわ。ホンダも何か有益な情報があったら教えてね。高く買い取るわよ」
「本田です。よろしく」
 そう言って右手を出して来た女性の右手を握り返す。情報屋だからなのか、華奢な体をしている。
「そういえば本田君今どっかの宿に泊まってるんだよね。良かったら俺の上の部屋に来ない?空いてるから。前の住人が置いていったから生活用品もそこそこあるよ。ちなみに女性な」
「いいですね。じゃあ明日宿引き払って行きますね。えっと、どの辺ですか?」
 グビグビと喉を鳴らしながらアルコールを飲み干した後でトミタが住む場所について提案してきたので、その提案に乗ることにする。するとサクヤが一枚の紙を取り出してテーブルに広げる。どうやらこの辺りの地図のようだ。この酒場ははっきりと記載されており、トミタが住んでいる建物に大きな丸をつけた。
「じゃあ明日引っ越しやな。まあ俺は寝てると思うから静かにね。うるさいとめいちゃんが怒るよ」
 それを聞いて、昨日のメイの姿を思い出し、少し肝を冷やして、明日は静かに引越しをしようと心に決めた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?