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びんばっちゃまと妖精さん•••

「あのね、私、びんばっちゃまとお話したくてね。 不思議な出来事があったんです。夢のような出来事でした。 」

40年以上も前のことなんだけど。
炭鉱社宅の中央広場で夏まつりがあったんです。
これは毎年やっていて、それはそれは盛大なお祭りでした。
お祭りには都会で働いている兄弟とか親戚とかも集まってきてね、さながら社宅の同窓会のよう。

その頃私はギター弾きと結婚して別の町で暮らしていました。
懐かしい人に会えるから夏まつりは毎年楽しみに出かけました。

なかでも、昭和45年のお祭りは特別なものになりました。

あの日は、風のふく涼しい夜でした。
1号棟と2号棟の木の下ですっかりおばあちゃんになったおしゃべりおばちゃん達と
テレビの話やら芸能人の話をして笑っていたんです。
そしたら、向こうの方から知らないおじいさんがニコニコしながら歩いてきてね、「あんたはさちこさんね?森山さんのさちこさんでしょ?」って、話しかけてきたんです。

???? 誰?

太った方のおばちゃんが小声で「さっちゃん こん人ばしっとっと?」
「いや 知らんとばってん、なーんか見覚えのある顔たい。声もなんか懐かしかとよ」
昔は痩せていて今では、太ったおばちゃんより太ったおばちゃんも
「さっちゃん 気をつけんね 帰るバス賃がなかけん貸してて言われても貸したらでけんよ」
「いや、バス賃ぐらいは貸しても良かろうもん。 あ、さっちゃんうち達はもう家に帰るけん、こん人がボケた事ば言い出したら、お祭り実行委員に頼まんね ね ほんならね」
そう言い残して昔は若かったおばちゃんたちは帰って行かれました。

おじいさんは、私と2人になってホッとしたように微笑んでゆっくりと話を始めたんです。

「僕は、今年で80歳になります。昔、若い頃に、こん社宅に住んどったんですよ。
親父の家に居候ばしてましたけど、家ば出てしもうてそのまんま一度も親父と妹達、弟達には、会うとりません。
自分が生きているうちに一目会いたいと思って会いにきたんですが、
以前住んでた社宅にはもう住んでいないみたいです」

「あのー、親父の家に居候してたっておっしゃてましたが何か事情があったんですね?
実は私にも兄がいて、家を出たきり帰ってきません。私の兄は40歳代なんですけどね。
なんだか境遇が似ていて兄を思い出しました。」
「そうですか。そのお兄さんはどんなお兄さんでしたか?よかったら聞かせてください」
「うーん小さい頃でしたから記憶が曖昧なんですけど、優しくて優しくてとにかく優しくて大好きでした。 急にいなくなった時は、寂しかったですよ。
父も、時々兄を思い出して涙ぐんでいました。」

話を聞いていたおじいさんは目に涙を溜め優しくと私を見つめたんです。
おじいさんの瞳の色は少し茶色がかっていて父の瞳に似ていました。


私は不思議な気持ちになりました。

そしたら木の影から若い女の人ともっと若い男の人がヒョッこり顔を出しておじいさんに手招きしたんです。コッチコッチって。
おじいさんは、その人たちに小さくうなづいて
「そのいなくなったお兄さんは、あんたたちの事をずっと思っているよ。
いつかきっと会える日が来るさ その時は今日僕に会った事を話してくださいね。」
そう言うとおじいさんは若い人達と自転車に乗って海の方に行ってしまったんです。

チリン チリン チリン


うちのギター弾きは、今年も夏まつりのステージで歌います「俺の魂の唄を聞いてくれ」って、言うものですからおじいさんの事、気にしながらもステージに行きました。

ギター弾きは、労働歌を作り戦後の労働者を励まし続けた『荒木栄』さんに師事し、荒木栄さんが亡くなった現在も歌声サークルなどで歌い繋いでいるんですよ。
「がんばろう」は有名ですよ。 ご存知ですか?あら有名ですよ。




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