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びんばっちゃまと妖精さんー黒山町編2-2

さっちゃんは5年生の秋、小学生絵画の部で県知事賞を貰いました。
黒山小学校始まって以来の快挙だと担任の先生が興奮して言っていました。
クラスの同級生も学校中の生徒達も社宅のおじちゃん達おばちゃん達みーんなが
スゴイスゴイと褒めてくれました。

担任の先生は感心したようすで
「森山さん こげん芸術作品はどうやって描いたとですか?」
「花壇の花ば見ながら鉛筆で下書きしてから絵の具ば塗りました‥‥」
「それだけね? こん模様はどげんしたと?綺麗な模様たいね」

「こん模様は えーっと えーっと モゴモゴ…‥ 」

さっちゃんの絵の表面の綺麗な模様にはヒミツがあったのです。

(わたしは図工の時間はあんまり好きじゃなかです。絵を描くのはちょっと好きです
特に得意という事じゃなくて、ちょっとすいとるだけです。)

ちょうど絵の具を塗り終わったとき 友達のゆみちゃんが聞きました。
「さっちゃん もう絵は描いたと?」 
「描いたとばうち達に見せて よかろ?」
「いや 恥ずかしかけん 見せんと 」

パタン

さっちゃんはまだ絵の具が乾いていない絵を裏返して机にパタンと伏せて『ダメー』
と手で押さえました!
そう! 生乾きの絵の具は机の木目を微妙に移し取りました!

そして県知事賞受賞作品<摩訶不思議な抽象画>が出来上がったのでした。

さっちゃんは空想が好きな女の子でした。
(私は本当はお城のお姫様たい。 キレイか洋服ば着て、ふかふかのソファに座って毎日アイスキャデーば食べるとたい)と、
典型的な女の子の空想にふける子どもでした。

作文の時間、さっちゃんは大好きな5丁目のおばちゃんのことを書きました。

作文のテーマは『身近な人に感謝の気持ちを伝える』

<おばちゃん家族は5丁目に住んでいます。
おばちゃんはお父ちゃんの妹です。
お父ちゃんは5人兄弟の長男で、おばちゃんは一番下の妹です。
私はバスに乗っておばちゃんの家に遊びに行きます。
おばちゃんの家には、おじちゃん、かみくん、こみみちゃん、ハジメちゃん、住み込みのお手伝いさんのトミさん、庭の手入れをするおじさん、大きな犬とペルシャ猫がいます。
おばちゃんの家は大きなお屋敷で部屋がたくさんあります。
私はお手伝いさんのトミさんの部屋に泊まります。
トミさんは優しくて、部屋にクッキーと紅茶を持ってきて一緒に食べます。
私はおばちゃんとトミさんにありがとうと言いたいです。>

さっちゃんはのびやかな声で読み上げました。
クラスのお友達も担任の先生も『豪華なおばさんの家』に驚愕し羨望の眼差しで
聞き入っていました。

この作文の噂は瞬く間に社宅中に広がって、近所のおばちゃんが飛んで来ました。
「森山さんの妹さんの家は御殿って聞いたばってんほんなこつね?」
お母ちゃんは「だあれがそげんか冗談ば言うたとね? はははははは
5丁目の妹の家はスーパーの裏にあって、風呂のなか ちーさか借家たい。
犬も猫も野良たい お手伝いさんもおらっさん 庭の手入れも妹の旦那がしよらすたい 可笑しかね さち子が空想の話ば書いたっちゃろ」

お母ちゃんとおばちゃんはお腹を抱えて大笑いしました。

そして、5丁目のおばちゃん達は今夜も銭湯に行きました。

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